2010年シーズンの終わり、そして始まり=東京ヴェルディの土壇場勝負4(終)

海江田哲朗

ベテランと若手の融合が未来を感じさせた

J1昇格こそならなかったが、ベテランと若手が融合したチームは豊かな未来を感じさせた 【写真:アフロ】

 東京ヴェルディ(以下、東京V)の激動の2010年シーズンがもうすぐ終わる。まだ最終節を残すが、すでにJ1昇格の可能性は消えた。今季のJ2は抜けて強かった柏レイソルが早々に昇格を決め、次にヴァンフォーレ甲府、最後の枠にアビスパ福岡が入った。柏は1年でJ1に舞い戻り、甲府は4季ぶり、福岡は5季ぶりのトップリーグとなる。

 開幕当初、わたしが公言する東京Vの予想順位は8位だった。うまく事が運んで、ひとけた順位にギリギリ届くかどうか。下手をすれば、下位にズブズブ沈むこともあり得る。今年は新しい経営陣で臨む転換期に位置づけられ(6月末に再度刷新されるのだが)、何があってもじっと我慢だと考えていた。ところが、この予想はものの見事に覆される。東京Vは昇格戦線に食い込み、もしかしたらひょっとしての思いが、やがて輪郭のはっきりした目標に変わった。残念な結果に終わったが、ベテランと若手が融合したチームは豊かな未来を感じさせ、苦境をものともせず立ち向かっていく姿勢に何度も胸を打たれた。最終的に昇格の望みが断たれた一戦もまた、印象深く刻まれている。

 11月20日、第35節の福岡戦。前節、東京Vはジェフユナイテッド千葉に敗れ、5位に順位を落としていた。この時、福岡との勝ち点差は7、得失点差はマイナス14。残り3試合、数字上の可能性は残すものの、極めて厳しい状況に追い込まれていた。
 先制したのは福岡。21分、久藤清一がPKを決め、リードを奪う。前半、東京Vは決定機を作れないまま終わった。後半、福岡がカウンターアタックでもう一発。50分、城後寿が裏に抜け出し、追加点を入れる。東京Vにとっては致命的な2失点である。だが、ゲームはこのまま終わらなかった。

0−2からの同点劇と非情な結末

 57分、飯尾一慶がゴール前の密集地帯で素早く反転してシュートコースを作り、左足でゴール。直後、川勝良一監督は右サイドバックの福田健介を下げ、中盤に高木善朗を投入。最終ラインを1枚削って、勝負に出た。そして60分、河野広貴のクロスに平本一樹が頭で合わせて2−2の同点に。勢いに乗る東京Vは福岡を押しまくった。川勝監督の指導のもと、これまで培ってきたものがこの時間帯に凝縮されていた。相手に合わせるのではなく、自らアクションを起こし、守備網を切り裂いていくパスサッカー。そのベースとなる運動量を重視し、走り負けないチームを作り上げた。とはいえ、肉体的な限界は確実にある。この試合は特に序盤から激しいボディーコンタクトの応酬で、いつにも増して消耗しているはずだった。にもかかわらず、土屋征夫がオーバーラップを仕掛け、ゴール前に進出する。肩で息をしながら、それでも攻める。一体、どこにそんな力が残っているのか。

 残り10分を切り、わたしは目の前で繰り広げられる光景を不思議な思いで見ていた。同時に、この分からなさは貴重だと直感する。一応の説明はつくのだ。勝てば、昇格の可能性がわずかに残る。プロである以上、最後まで力を尽くすのが当然だと川勝監督は言い続けてきた。だが、人は理屈だけで動くものではない。そういった言葉で表せるものから離れた、より根源的な衝動をピッチから感じ取っていた。
 夕刻、オレンジ色を帯びる博多の森、レベルファイブスタジアム。後半ロスタイム、FKのチャンスを得た福岡は、高橋泰が矢のような弾道のシュートをゴールネットに突き刺す。突如、ぐわんと空気が揺れ、天空を突き上げる幾多の叫び声。東京Vの選手たちはしばしぼうぜんと立ち尽くし、戦いの終わりを知った。

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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