ハーフナー・マイク、J2で覚醒したゴールゲッター

小宮良之

ヴァンフォーレ甲府をJ1に導いた男

ゴールを量産し、甲府をJ1への導いたハーフナー・マイク 【写真:松岡健三郎/アフロ】

 長身痩躯(そうく)の男が眼下に“守備兵”を蹴散らす。難攻不落のはずの砦が、にわかに綻びを生じさせる。男は何人に囲まれようとも、その輪を突き崩し、“屍”を跨(また)いでも前進する。一騎当千。長髪を振り乱して攻め懸かるさまは鬼気迫るものがあり、その歩みは門をこじ開けるまで決して止まない。敵の砦を陥落させた時、異人の風体をした豪傑は高らかに勝ち鬨(どき)の咆哮(ほうこう)を響き渡らせる――。

 2010シーズン、J2リーグ第34節終了時点で、ハーフナー・マイクは19得点を記録している。雄叫びを上げ続けた男は、首尾よくヴァンフォーレ甲府をJ1に導いた。

 ハーフナーはサッカー選手だったオランダ人の父と、陸上選手だったオランダ人の母の間に生まれている。父のディドは日本リーグ時代に来日したGKで、名古屋グランパス、ジュビロ磐田、コンサドーレ札幌などJリーグでも活躍。型破りなゴール前での強さは、アスリート一家の血がなせる業か。身長は194センチ。日本人はこの背丈になると動きが鈍くなり、鋭敏さに欠ける傾向があるが、彼はある種の軽妙さも兼備している。

 ベルバトフ(マンチェスター・ユナイテッド)、イブラヒモビッチ(ミラン)、ジョレンテ(アスレティック・ビルバオ)ら各国リーグを引っ張るセンターフォーワードは、いずれも長身でパワーに長じている一方、消える動き=マークを外すのもうまい。単純な俊敏さもあるが、何より判断の速さが非常に優れており、ポストプレーをこなしてから一度消えて猛然と危険地帯に入る動きは巧妙に相手DFを出し抜く。

頼れるターゲットマンがまとう泰然たる空気

 今シーズン、ハーフナーは3トップの真ん中に堂々と陣取り、頼れるターゲットマンとして奮闘した。第34節のJ1昇格が決まった栃木SC戦も、甲府は栃木の粘り強い守備に苦しんでいたものの、79分、GKが蹴り込んだロビングをハーフナーは相手DFにマークされながらジャンプもせず苦もなく競り勝ち、頭で藤田健にパス。そのボールが矢のように走り込んだパウリーニョにつながり、先制に成功して決勝点となった。

 最前線におけるハーフナーの存在感は圧巻だ。

「彼自身の頑張りだけではなく、周りの選手が彼のためにハードワークをして、守備や攻撃に対して彼を生かそうとする動きがあるからこそ、今の形がある」と甲府の内田一夫監督は評しているが、ハーフナー自身も周りの選手を生かしている証しに、サイドFWのパウリーニョ、マラニョンはいずれも得点ランク上位に入っている。

 いまや、ハーフナーにはゴールゲッターとしての泰然とした空気が漂う。

「チームが苦しかったときも、マイクだけは明るさを失わなかった」とチームメートたちが証言しているように、彼は周囲の雰囲気に流されるのではなく、自分の空気で生きる自己中心的とも天然とも言える“我の強さ”を見せるようになった。もっとも、その強さがなければゴールゲッターはふ抜け同然。なぜなら、彼らは自らの得点でチームを勝利に導く宿命を背負っているからだ。

 ハーフナーは貪欲(どんよく)に言う。

「得点は取れるだけ取りたいです」

 ありふれたせりふだが、その執着はゴールゲッターが守るべきおきてだろう。

 では、23歳はいかにしてその灰汁(あく)の強さを身に付けたのか。

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著者プロフィール

1972年、横浜市生まれ。2001年からバルセロナに渡り、スポーツライターとして活躍。トリノ五輪、ドイツW杯などを取材後、06年から日本に拠点を移し、人物ノンフィクション中心の執筆活動を展開する。主な著書に『RUN』(ダイヤモンド社)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)、『名将への挑戦状』(東邦出版)、『ロスタイムに奇跡を』(角川書店)などがある。

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