日本女子、32年ぶりのメダルを引き寄せた「心と力」=世界バレー

田中夕子

32年ぶりに世界選手権でのメダルを獲得した全日本女子。世界トップへの新たな一歩を踏み出した。写真中央は木村 【坂本清】

 最後の1球は、レフトの木村沙織(東レ)に託された。
 佐野優子(イトゥサチ=アゼルバイジャン)からの二段トスを打ち抜き、2枚のブロックを弾いたボールがサイドラインを割る。両手を握り締め、笑顔で何度も何度も飛び跳ねて喜びを表す木村の周りを14人の選手とスタッフが囲む。
「コートの中も外も、みんなが同じ気持ちで戦うことができました。今日の試合(米国戦)も、途中から出た選手が助けてくれたから勝つことができたんです」
 32年ぶりのメダルとなる、銅メダル獲得。木村が言うように、世界選手権の最終戦(3位決定戦)は、まさにチーム一丸でもぎ取った勝利だった。
 2セット目から江畑幸子(日立)に代わった石田瑞穂(久光製薬)はバックアタックで流れを呼び込み、4セット目から井上香織(デンソー)に代わった荒木絵里香(東レ)は、真鍋政義監督が「今日の勝因」と挙げた値千金のサービスエースで勝利を引き寄せた。
 ともにベンチスタートの2人、ましてや石田は最終ラウンドのブラジル戦まではベンチに入ることすらできずにいた。試合に出られない鬱積(うっせき)を抱えながらも、石田が果たした功績を荒木はこう明かす。
「中国に負けた次の日の練習で、一番いい声を出して盛り上げてくれたのが(ベンチアウトの)石田と濱口(華菜里=東レ)でした。ただ支えるだけでなく、試合に出ることに対してもいつもアグレッシブに取り組む姿をみんなが見ていたから、その思いを最後の試合でみんなが分かち合って戦うことができたんだと思います」

効果を発揮したデータとサーブ

敗れはしたものの、ブラジルから2セットを先取した日本 【坂本清】

 とはいえ、全員が「勝ちたい」と思っても気持ちだけで勝つことはできない。最終戦の勝因であり、今大会を通して効果を発したのがサーブだった。
 スタッフが全試合のデータを収集して整理し、膨大な情報の中から狙い所を明確にする。たとえばブラジル戦では、ジャケリネ・カルバリョは前後の揺さぶりに弱く、ナタリア・ペレイラは左右に動かされた状態での返球率が悪いことを伝える。そこにプラスしてローテーションごとの数値を示し、いつどこで誰が誰に打てば崩れるか。ポイントを絞り込んだ結果、1、2セットは完ぺきに近い展開でブラジルのリズムを乱すきっかけをつくった。
 米国戦で3本のサービスエースを取った井上も「通過点を低く、ネットすれすれを狙った後は深めに打つ。技術のポイントがはっきりしていたので、(サーブを打つ際に)精神面で追い込まれることが少なく、8秒ギリギリまで使って自分のペースで打つことができた」と言う。
 的確なポイントを狙うためのサーブ力向上を夏以降のテーマに掲げた成果は随所で発揮された。そして最も効果的な場面、最終セットの3−3で米国の意気を消沈させるサービスエースをとったのは、やはり木村だった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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