日本女子、32年ぶりのメダルを引き寄せた「心と力」=世界バレー
エース木村の存在
攻守にわたって奮闘した木村 【坂本清】
誰もが認める大黒柱であるのは間違いない。だがその分、木村に掛かる負担の大きさは計り知れない。多くの選手は「木村に頼り過ぎている」と反省を述べ、木村自身も「自分の結果次第で、チームの勝敗も変わる」と自認していた。
だからこそ、勝利の後、木村はチームワークを強調した。
その裏に密(ひそ)かに抱えた苦悩。チーム内で木村と唯一の同級生である井野亜季子(NEC)が明かす。
「この大会を通して、沙織はずっともがいていたんです。でも自分が苦しんでも、たとえ1人で戦っていると感じることがあっても、絶対に自分の悩みは言わない。逆にチーム内の雰囲気が悪くなれば敏感に察して、自分が何とかしよう、盛り立てようとしていました。あれだけ頑張っている沙織がどんな時でも『みんなで戦う』と口にしていたから、みんなも必死で、本当にチームが1つになって戦えたんだと思います」
昨秋のワールドグランドチャンピオンズカップ。勝利すればメダル確定というドミニカ戦で敗れた後、木村は悔しさと不甲斐(ふがい)なさに苛まれ、ミックスゾーンで涙を流した。
「サーブレシーブで崩れても、勝負どころで二段トスを決め切れる選手になりたい」
あれから1年。真のエースとなった木村の右腕が、32年ぶりに世界への扉を開いた。
センターポールに並んだ日の丸
米国との3位決定戦勝利後、チームメートと抱き合って喜ぶ荒木 【坂本清】
しかし、あくまで目標は2年後のロンドン五輪。真鍋監督も「世界のバレーはどんどん変化している。日本がどうすれば勝てるか研究し、変化と進化をしていかなければ勝てない」と言うように、世界選手権はこれからへ向けた通過点に過ぎない。
今季の最大目標として掲げた世界選手権でのメダル獲得は達成したが、多くの課題も露呈した。その中の1つを、荒木田裕子強化委員長はこう指摘する。
「優勝したロシアは高さや攻撃力があるだけでなく、二段トスの精度も高い。もっと上に進むためには、日本も二段トスはオーバー(ハンド)で。試合中にドリブルを取られることがあっても、もっと試合の中で積極的にやっていかないと」
8月のワールドグランプリでは、リベロの佐野もオーバーハンドでの二段トスを試みた。だが、夏以降は「バックアタックの速度を高めるために、正確性を優先した」(真鍋監督)という理由で、アンダーハンドでのトスを基本とした。しかしそこでボールの出どころが低くなるためテンポが乱れ、スピードはおろか、低いトスをアタッカーがカバーしなければならない場面も目立った。付け焼刃で改善するものではないだけに、真鍋監督の言葉を引用するならば、まさに「変化と進化」が求められる課題であるのは確かだ。
来年はワールドカップが開催され、いよいよロンドン五輪へのカウントダウンが始まる。これまで以上に厳しい戦いへ向けて。最後に荒木が言った。
「世界三大大会でメダルが取れて、やっと、トップクラスに入るためのスタートが切れた。これから本当の意味でトップの仲間入りを果たすためにはまだまだやるべきことがある。この結果は結果として、次に向かって頑張ります」
ブラジル、ロシア、中国に敗れはしたが、これまで9年もの間敗れ続けたブラジルに、今夏のワールドグランプリで勝利したことが多くの選手の自信につながり、メダルを懸けた戦いで米国に勝利したことはとてつもなく大きな価値を持つはずだ。
それゆえにこそ、これからに向けて。32年ぶりのメダルを手に、女子バレーボール日本代表は新たなステージへ向けた一歩を踏み出した。
<了>