- 室井昌也
- 2010年11月10日(水) 15:00
「野球の神」と呼ばれる指揮官の下、徹底した準備と反復練習

「日本の選手が北京五輪やWBCで“死ぬ気でやっている”と言うが、本当だろうか?」 高校まで日本で育った、SK・金星根監督は日本野球の恵まれ過ぎた環境が甘さを生んでいると憂う。そんな、「野神(野球の神の略)」と呼ばれる指揮官が、徹底した準備と反復練習を科し、妥協なき集団に仕立て上げたのがSKワイバーンズだ。
18時半開始のホームでのナイトゲーム。昼過ぎに球場を訪れると、いつも乾いた打球音が聞こえる。このチームは昼12時か12時半が練習開始時間だ。そして、練習時間が限られるビジターでは、特打組数名が遠征先近隣の高校を借り、打ち込みをしてから球場入りする。日々鍛えられた成果は4年連続韓国シリーズ進出、3度の優勝が実証している。
「韓国代表が強いといっても、チーム単位ではまだまだ。ただSKは別格」と日本球界の海外担当スカウトたちは話す。SKは2005年からのアジアシリーズ、日韓クラブチャンピオンシップで、日本のチームに土をつけた、唯一のチームだ(07年・中日、08年・埼玉西武に勝利)。
「千葉ロッテが上がってきたらいいのに」
10月19日、韓国シリーズを4タテで決めた試合後、そう語った金星根監督。05、06年にインストラクター、巡回コーチとして在籍した古巣に、本気を見せる時がきた。
特別な思いで東京ドームのマウンドに上がる門倉

今大会に特別な思いを持つ選手が2人いる。1人は韓国2年目の今季、エース・金廣鉉17勝に次ぐ14勝(7敗)を挙げた門倉健だ。門倉は開幕戦に勝利すると、その後6戦負けなし。4月の月間MVPに輝いた。「ことしはキャンプでしっかり投げ込みができたので、バランスがとてもいいです」。下半身が安定したピッチングは低めに制球され、自慢のフォークがさえた。奪三振率は昨季の7.00から8.38にアップ。ランナーを出しても粘り強い投球が続き、防御率はリーグ3位の3.22だ。「巨人にいたころは野球が嫌いになりかけていました。でも今はものすごく楽しいです。ウチのチームはいいヤツばかりだし、みんな試合を最後まであきらめません。金星根監督に恩返しするため絶対に胴上げしたいです」。門倉は2年前とは違う、晴れやかな気持ちで東京ドームのマウンドに上がる。
そして、もう1人は主将の金宰ヒョンだ。昨年の韓国シリーズ前日、今季限りでの引退を発表。今大会が本当に最後の試合となる。シャープなスイングの中距離打者として活躍した金宰ヒョンは、07年のアジアシリーズ決勝戦でも、中日・山井大介から追撃のソロアーチを放つ勝負強さを見せた。背番号7を背負うイケメンキャプテンはラストゲームでどんなバッティングを見せるのか。
SK野球の特徴は、打線では破壊力はないが、少ないチャンスを果敢な走塁と、高い作戦遂行能力で点をもぎ取る野球。投手陣は先発投手が崩れても、それを「1番手投手」と見て、適材適所の細かな継投でつないでいくものだ。シーズン通りのSKなら、一発勝負の今大会で高い集中力を発揮しそうだが不安材料はある。それは、過労と右顔面麻痺で金廣鉉が離脱。そして13日から行われる広州アジア大会の代表選手として、セットアッパー・鄭大ヒョン、クローザー・宋恩範、正捕手・朴勍完、セカンド・鄭根宇、サード・崔廷、センター・金江ミンの計7人がエントリーから外れているからだ。しかし、シーズン中も欠場者を代役が補う組織力で首位を守ったSK。悲願である日韓の頂点を目指し執念の野球を見せる。