アルゼンチン代表再生への道は原点回帰か=真価の問われるバティスタ監督

ポゼッションサッカーへの回帰

アルゼンチンの前線にはタレントがひしめく。指揮官の選択は? 【写真:AP/アフロ】

 また、複数のメディアが伝えたところによると、バティスタの監督就任にはメッシのコマーシャル面が大きくかかわっていると言われる。当代のスーパースターの“お眼鏡にかなう”監督を探す必要があり、メッシはバティスタに絶対的な信頼を寄せている。バルセロナのストライカーは、北京五輪でバティスタが提示したシステムの中で伸び伸びとプレーした。ピッチの外ではさほど共通点があるわけではないが、リケルメとのコンビネーションは完ぺきだった。

 これで、リケルメの代表への扉は再び開いたと言える(マラドーナ監督時代には、意見の相違から自ら代表を辞退していた)。ボカ・ジュニアーズのエースは5月に左ひざを手術し、6日のアルヘンティノス・ジュニアーズ戦で約半年ぶりに戦列復帰した。また、南アフリカの地に立つことのなかったエステバン・カンビアッソ、ハビエル・サネッティといったベテランや、パブロ・サバレタのメンバー入りもあるだろう。バティスタは14年までの任期を2つに分けて考えている。1つは自国で来年開催されるコパ・アメリカ、もう1つは14年に隣国ブラジルで行われるW杯だ。

 バティスタの考えはこうだ。コパ・アメリカまでは、ベテランと若手を融合してチームを作る。その後、14年W杯に向けて世代交代を図るべく、国内リーグの選手、ヨーロッパでプレーする選手、25歳以下の選手といったいくつかのチームをうまくミックスしていく。W杯南米予選は開催国ブラジルを除く9カ国で4.5席を争うと見られるが、アルゼンチンにとっては難しいことではないだろう。

タレントぞろいのFW陣を生かせるか?

 内容について言えば、バティスタが目指すのは典型的なアルゼンチンサッカーへの回帰だ。現在のスペイン代表、あるいはバルセロナのプレーに近い。これは、前監督時代に行われていたセンターバックのサイドへのコンバート(ガブリエル・エインセやニコラス・ブルディッソ)がなくなることを意味する。また、ガゴ、エベル・バネガ、アンヘル・ディ・マリア、ホセ・エルネスト・ソサ、リケルメ、ハビエル・パストーレ、メッシといったよりテクニックのある攻撃陣が起用されるだろう。これらの選手が連係をより深めれば、ボール保持を基盤としたサッカーを実現することも可能に違いない。

「よりボールを触れば負担が減る」。バティスタがトレーニング中、自らの目的を説明するのに用いるフレーズである。だが大きな問題は、ポゼッションサッカーのポイントは中盤の強化にあるものの、タレントは前線にそろっていることだ。果たして、バティスタはMFの枚数を増やし、FWは1人か2人にするつもりなのか。前線には、ゴンサロ・イグアイン、ディエゴ・ミリート、テベス、リサンドロ・ロペス、マウロ・サラテ、セルヒオ・アグエロ、エセキエル・ラベッシといった才能がひしめく。

 バティスタにとって、アルゼンチンのように常にメディアのプレッシャーにさらされながら仕事をするのはたやすいことではないだろう。加えて、マラドーナが既に代表監督の正式決定について最初の矢を放ったように、外野からの攻撃もすさまじい。バティスタの次なるテストは、11月17日にカタールで行われるブラジル戦だ。新しい選手が招集される可能性もあるだろう。永遠のライバル相手に、代表監督としての真の価値を示すチャンスとなる……。

<了>

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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