新生ヒートは“ビッグ3”かみ合わず黒星発進=NBA2010−11シーズンが開幕

宮地陽子

レブロン「ローマは一日にして成らず」

全米の注目を集めたNBA開幕戦。(左から)ボッシュ、ジェームズ、ウェードのビッグ3を擁したヒートはセルティックスに敗れた 【Getty Images】

 マイアミに集結したスーパーチームはどんな素晴らしいプレーを見せてくれるのだろうか。1995−96シーズンのシカゴ・ブルズが達成したNBA最多記録の72勝を上回ることができるのだろうか。ボストンで3年前に結成されたビッグ3と同じように、最初のシーズンから優勝できるのだろうか──。7月にレブロン・ジェームズがヒートへの移籍を発表して、ドウェイン・ウェードやクリス・ボッシュとともにビッグ3を結成して以来、世界中のNBAファンはそんな会話を交わしながら、首を長くして開幕を待っていた。ヒートにとってもNBAにとっても、これほど完ぺきなオフシーズンのシナリオはなかった。

 そして10月26日(日本時間27日)、ついにその日がやってきた。新生ヒートを一目見ようと、ボストンのTDガーデンに1万8624人の観客が詰めかけた。米国内だけで500万世帯以上がヒート対セルティックスの試合にチャンネルを合わせ、その視聴率はケーブル局で放映されたNBAレギュラーシーズン試合としては史上最高を記録。会場の雰囲気も、まるでNBAファイナルが行われているかのように盛り上がった。
 しかし実際に試合が始まると、コート上のヒートはスーパーチームにはほど遠かった。ビッグ3はまったくかみ合わず、外からのシュートも入らず、第1クオーターはわずか9点に終わった。試合を通してのフィールドゴール成功率はわずか36.5%で、ジェームズとウェードの二人で計14本ものターンオーバーを犯した。後半に入ってジェームズの活躍で点差を詰め、試合残り1分余には3点差まで追い上げたとはいえ、期待されたスーパーチームにはほど遠い姿をさらけ出した。80−88で敗れた後、ジェームズは「ローマは一日にして成らずだというのはわかっていた」と語った。

 ヒートのヘッドコーチ(HC)エリック・スポエルストラも言う。
「これはプロセス(過程)だ。まだパニックするときではない」
 偶然だが、セルティックスのドック・リバースHCも、試合前のロッカールームでのスピーチで、同じ“プロセス”という言葉を使っていた。
「これはプロセスだということを理解する必要がある。6月までに私たちはきょうよりいいチームになっている。しかし、きょうの時点でどこが相手でも勝てるだけの力はあるはずだ」

開幕戦の魅力は“未完成の楽しさ”

 数時間後に開幕を迎えたロサンゼルス・レーカーズにしても同じことだった。試合前にリングセレモニーで昨シーズンの優勝指輪を受け取ったものの、コート上でのプレーは“チャンピオン”のレベルにはほど遠かった。ヒューストン・ロケッツ相手に苦戦し、一時は15点のリードを奪われた。夏に行ったひざの手術後、まだ脚力を取り戻している途中のコービー・ブライアントは、前半12本中8本のシュートを外し、デレック・フィッシャーもロン・アーテストもシュートが入らなかった。控え陣の活躍によって2点差(112−110)で勝ったものの、試合後、フィル・ジャクソンHCが「この試合に勝つことができたのは好運だった」と言ったほどだった。

 とはいえ、開幕戦はそれでいいのだとも思う。最初から完ぺきな試合をしてしまっては面白くない。シーズン終わりに向けて成長の余地があるからこそ、戦いがいもあるし、ファンにとっても見る楽しみができる。開幕戦の最大の魅力は“未完成の楽しさ”なのだ。この後、6カ月近くをかけてどこまで理想のチームに近づけるのか、その夢を楽しむ日でもあるのだ。
 翌日、NBAデビュー戦(※)で20得点、14リバウンドの活躍をみせたロサンゼルス・クリッパーズのブレイク・グリフィンが試合後に、いみじくも言った。
「この試合を実際以上に大げさに考えたくない。これは生きるか死ぬかの状況だったわけではなく、最初の試合に過ぎないのだから」

<了>

※2009年のドラフトで全体1位指名を受けるも、昨季は故障で全休した。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

東京都出身。国際基督教大学教養学部卒。出版社勤務後にアメリカに居を移し、バスケットボール・ライターとしての活動を始める。NBAや国際大会(2002年・2006年の世界選手権、1996年のオリンピックなど)を取材するほか、アメリカで活動する日本人選手の取材も続けている。『Number』『HOOP』『月刊バスケットボール』に連載を持ち、雑誌を中心に執筆活動中。著書に『The Man 〜 マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。現在、ロサンゼルス近郊在住。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント