危機を乗り越え存続へ、残された課題=東京ヴェルディの土壇場勝負3

海江田哲朗

「多摩地区全体で手厚くサポートする方向に」

東京Vのホームタウンで中心的な役割を担う稲城市。石川市長はクラブとの関係性、協力プランを語ってくれた 【海江田哲朗】

 東京Vの経営問題においては、2年前から身売りや存続危機など、さまざまなニュースが報じられた。それらは稲城市にとっても小さくない関心事だったはずだ。
「情報はメディアを通じて知ることが多いですね。その都度、担当部署の体育課からヴェルディさんに問い合わせ、事情を聞いています。基本的に、そういったことは物事が進むプロセスで出てくるものですから、冷静に受け止めています。クラブの経営問題までわれわれが介入すべきではないでしょう。『頑張ってやっています』と言われれば、それ以上話を聞くことはできません。そこはクラブの仕事の領域として尊重したい」

 実に理性的な考え方で、筋としてはその通りなのだろうけど、もうちょっとずうずうしく突っ込んでもいいのではないかと思う。なんたって、東京Vの所在地は稲城市なのだ。全国に37しかないJクラブのおひざ元である。
「遠慮というかね、われわれにも弱点があるんです。最大の要因は、市内にJリーグの試合を開催できるスタジアムを持っていないこと。味の素スタジアムがあるのは調布市で、FC東京さんに出資しています。やはり、その点は大きいですね。『稲城市は東京Vのホームタウンですよね』と尋ねられれば、『そうですよ』とお答えします。しかし、本当のところはホームタウンだと胸を張って言い切れるだけの十分な材料を持っていません。地元で育て上げたチームではなく、川崎市からの移転という経緯があり、出資しているといっても20万円ですから。稲城は人口8万4000人の小さな市で、動員力でも多大な貢献は難しい。よって、ヴェルディさんに対して、われわれがどうこう要求するのはおこがましいといいますか、慎重にならざるを得ないんです」

 東京Vを支える自治体として、今後どういったビジョンを描くのだろうか。当面の具体的な協力プランがあれば、ぜひとも聞いておきたい。
「さらなる出資や融資などの財務面のバックアップは難しいと判断しています。これまでの関係性を考えると、現段階ではコンセンサスの面で限界がある。そこはJリーグにもあらかじめご理解いただいています。現状、出資自治体は4市ですが、それを拡大して多摩地区全体で手厚くサポートする方向に持っていきたい。そして、ヴェルディさんが求める何かに応えられれば、それが大きな一歩になるでしょう。『ヴェルディをどうかよろしくお願いします』というメールが市民からも届いていますから、どんな形の支援が可能なのか研究を深めなければ。ホームタウン推進懇談会の場で、商工会をはじめ各団体が話し合っていることも具体的な動きにつなげていきたいですね」

 ポイントの1つは、前述した練習施設の問題だ。羽生社長は「基本的には現状通りを希望するが、コストが合わなければ出るしかない。しかし、今のところそれに代わる場所がない」と話す。東京Vにとって、すべてのカテゴリーが集結して切磋琢磨(せっさたくま)できる場であり、ここには数値化できないリソースを多分に含むため、費用対効果といったクールな扱いがしにくい面もある。
「施設の負担がかなり重いという話は聞いています。それをどうにかするのが命題だと。まだ可能性の段階ですが、ヴェルディさんが存続するための選択肢の1つとして、それが必要ならばハード面で協力は考えられます。ただし、どの自治体も現存する公共施設は利用者がおり、それを占有化するとなると……。簡単ではないですね。今後の検討課題です。まずは、経営陣にスポンサーを見つけていただき、財政を立て直してもらいたい。その後、われわれに協力できることはあるはずです」

すべてが東京Vの得た教訓

 稲城市は東京Vにとって最も関係の深い自治体だ。それでも今後のやり方次第ではもっと距離を縮められ、より良好な関係を築けると感じる。今の経営危機を乗り越えたとして、自治体との結びつきを強化しなければ、問題の根っこは解決されない。東京Vの物語には続きがあったといい気になっていたら、いつかまた痛い目に遭う。

 あるサポーターからはこんな話を聞いた。
「商店街のポスター張りなどの地域活動に、初めて参加したという人が何人もいるんです。何かしないと気持ちが焦るばかりで、どうにも落ち着かなかったみたいで(笑)」
 人々の中には、危急の事態が迫り、思いもしなかった能力が開発された人もいるはずだ。例えば、サポーターがチケットを買い取り、お客さんを呼び込む「サポーターズシート」の設置はユニークな試みである。こちらは現在も募集中で、ご希望の方は下記に問い合わせを。存続のメドが立ったことに安堵(あんど)する一方で、無力感を抱える人も少なくないと見る。存続に向けたいくつかの運動、クラブへの働きかけは、大きなうねりを作り出すには力不足だった。

 そこには変わらない人がいてもいい。他人に強要し、全体主義に傾くのはそれはそれで異常だ。
 うまくいったことも、うまくいかなかったことも、すべてが東京Vの得た教訓であり、財産である。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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