危機を乗り越え存続へ、残された課題=東京ヴェルディの土壇場勝負3

海江田哲朗

クラブ存続に見通し、昇格の資格も

受け入れ先が見つかり、クラブ存続が可能に。昇格の資格も失わず、東京Vの未来に光が差し込んだ 【写真:佐藤博之/アフロ】

 10月19日、Jリーグ理事会が開かれ、記者会見に臨んだ大東和美チェアマンは東京ヴェルディ(以下、東京V)の件で審議された内容について次のように説明した。
「東京Vから現在集まっているスポンサー、出資企業の報告があり、経営が継続できる見通しが確認されました。出資企業については書面での最終決議が行われており、来週29日に開催される臨時理事会で結論を出すことになります。また、J1昇格の資格の有無についても審議され、理事や実行委員からさまざまな意見が寄せられましたが、(現状は昇格の資格を失わないと判断し)規約に沿った運用をすることが確認されました。この部分は(Jリーグに株式が譲渡された時点で)早めに議論しておくべきだったと思います。われわれの反省点です」

 大東チェアマンが話している時、着座する東京Vの羽生英之社長は両手を下で組み、じっとうつむいている。時折、目をつむり、薄く開きを繰り返していた。社長就任から約4カ月半、ここに至るまで大仕事だったんだろうなと思う。マイクを受け取った羽生社長は細部の話に入った。
「今回、大型スポーツ専門店チェーンのゼビオ株式会社と5年間の包括スポンサー契約を締結しました。ヴェルディの経営理念、再建計画を説明したところ、快くご賛同いただき、感謝しています。包括契約というのは、ユニホームスポンサーに限らないということ。傘下にゼビオナビゲーターズネットワークという会社がございまして、ここはアスリートを雇用して活動のサポートを目的としているんです。ここでベレーザの選手を雇用していただき、選手の環境を整えてもらえるパートナーとしても期待しています。また、ゼビオさんはサプリメントの開発や食育の分野にも積極的に取り組まれており、アカデミーの選手のケアにも活用できそうです。今後の経営体制につきましては、29日の臨時理事会で出資企業の承認を受け次第、株主の方々が話し合って決定するという運びになります」

 ゼビオ株式会社との交渉では、トップチームとアカデミーの価値に加え、女子のベレーザとメニーナ、バレーボール、トライアスロンといった総合スポーツクラブの土台が評価されたそうだ。交渉が順調に進むにつれ、複数の企業が出資に乗り気になってきたというから、同社の存在は非常に大きかったと言える。
「まだ最終的な理事会の承認を得ていないので、詰めを誤らないようにしたい。出資企業が認められ、集まった出資金額が(金融機関から借り入れた)債務超過分を上回れば、昇格の資格の問題はクリアとなります。債務超過を解消できず、3位に入っても上がれなかったら選手たちに申し訳ないですからね。今日は資格を与えていただき、スタートラインに立ったということ」

 羽生社長は「昇格の資格を与えていただいた」と話した。ポロリとこぼれた本音だ。いくら規約に抵触しないといっても、さすがに当然の権利とは考えていなかったのだろう。多少の無茶は承知で、健闘を続けるチームのために周囲を説き伏せた。残り7試合、3位のアビスパ福岡と勝ち点6差の5位。これに東京Vは勢いを得て、ガンガン走るに違いない。

 今後、早ければ11月上旬に新経営陣が発表され、新しい体制へ移行するという。羽生社長が理事会に提出した来季の事業計画は、今季からさらにダウンサイジングし、総予算8億円を予定している。ホームスタジアムは従来通り味の素スタジアムを軸とし、1億5000万円という高額な練習施設は貸主の株式会社よみうりランドと減額交渉中とのことだ。関係者の話によると、「1億5000万円でさえ、それまでの半額以下まで特別な譲歩を引き出したもの。毎年その額で維持できると思ったら大間違い」だそうだから、難航が予想される。このあたりの問題はさておき、想定されたいくつかのパターンの中で、望外とも言える最高の決着。二重丸、花丸、どんな言葉で飾っても、仕事の成果に釣り合うものではない。

稲城市長が語るホームタウンとの関係

 さて、東京Vの未来に明るい光が差してきたところだが、周辺に目を配ると楽観には程遠い。例えば、これからは自治体とのより緊密な関係、一体感が必要になる。そこで、出資自治体4市(稲城市、多摩市、日野市、立川市)の中で、中心的な役割を担う稲城市の石川良一市長に話を聞いた(取材は9月28日)。先日、第28節のギラヴァンツ北九州戦は「稲城市サンクスマッチ」と銘打たれ、石川市長は4−0の完勝を味の素スタジアムで見届けたばかりだ。
「今季、北九州に負けていたのはヴェルディだけと聞いていたので、リベンジできて良かったですね。キックインセレモニーも今までで一番気持ちよくボールが転がってくれました(笑)」

 まず、これまでの東京Vとの関係をどう振り返るのだろうか。石川市政は1991年4月にスタートし、現在5期目。2001年、ヴェルディ川崎から東京ヴェルディ1969と名称を改め、東京に拠点を戻してからの10年間を見てきた。
「わたしの知る限り、地域での活動は一生懸命やってくれていますよ。多摩川清掃や学校の巡回指導、市民祭り、スポーツフェスティバルなどに選手や指導者の方々が参加していただき、大変ありがたいな、と。ただ、ある時期までは東京をホームタウンとしながら、その一方でヴェルディブランドは全国に展開するという方針でやってこられたのだと思います。全国にファンがいる、ナショナルチームのイメージですね。ところが、Jリーグの考え方は地域と交流を深めながら、共に成長していくというもの。そのあたり、発達形態の違いは感じます」

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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