韓国サイドが感じた日本の変化=敵国の証言からザックジャパンを知る

吉崎エイジーニョ

韓国代表選手が日本の変化を証言

激しい肉弾戦で日本を封じた韓国だが、中盤の争いには勝てなかったとの見方が強い 【Getty Images】

 前半は韓国の厳しいプレスが日本の脅威となった。12分、駒野友一が負傷したシーンはその象徴の1つ。左サイドの長友が中にクリアせざるを得ない状況を作った。しかし、この「日本MF対策」も、韓国サイドでは「失敗だった」と見られている。遠藤保仁、長谷部誠、松井大輔、本田圭佑、香川真司で組んだ中盤には勝てなかったと。

 以下、試合翌日のスポーツ各紙の一面トップの見出し。
「パク・チソンの抜けた韓国、中盤での争いで負けた」(『イルガンスポーツ』)
「ベンチのチソンもイライラした中盤構成」(『スポーツソウル』)
「残念な90分、パク・チソンがいたならば……」(『スポーツ東亜』)
「ベンチのチソンもイライラした」(『スポーツ朝鮮』)
「キャプテン(パク・チソン)の空白が大きかった」(『スポーツ・カーン』)
「勝ちをつかめなかった、中盤の争い」(『スポーツワールド』)

 見事に、中盤の話のオンパレード。ちなみに前日に古傷の右ひざ負傷のために欠場が発表されたパク・チソンは、3−4−3のダブルボランチに入ることが予定されていた。
 実際に後半、韓国は日本の中盤からの飛び出しを防ぎ切れなかった。67分に長谷部、89分に本田の突破から日本に決定機を作られている。

 では、W杯前の5月24日、ホームで日本が0−2の完敗を喫した時とどんな変化があったのか。5月と10月の2試合でプレーした各選手に話を聞いた。
「組織力がアップしている上に、攻撃のルートが多様化していると感じる。特に本田のプレーぶりは印象的だった」(イ・チョンヨン/サイドMF)
「5月の日本と比べて、MFの組織力がアップしているように感じる」(チョ・ヨンヒョン/センターバック、ボランチ)
「5月の日本に比べて、プレッシングに激しさが増していたと思う。W杯から選手があまり変わっておらず、そのスタイルが成熟したからだと思う」(イ・ヨンピョ/左サイドバック)
 イ・ヨンピョは翻って韓国は「W杯後に若い選手が入っため、新戦術への対応に時間がかかっている」とも。

ザックジャパンを知るヒントは「MFの組織力アップ」

 イ・チョンヨンの「攻撃のルートが増えた」とは、縦パスや、後半に見せた長谷部と本田の突破のことを指している。これは、チョ・グァンレ監督の「中盤でのプレーを減らした」という証言とも一致するものだと考えられる。
 これをザッケローニカラーと見るべきか? それともW杯からの継続性と見るべきか?
 いずれにせよ、議論のポイントが1つ提示されたのでは、と思うのだ。90年代から、どちらかといえばショートパス志向でチームを作ってきた日本代表が、個人突破を含めた縦への強い意識を持つチームとして変わろうとしている。これは進化か? それとも持ち味を捨てようとしているのか?

 むしろ、ザッケローニ・ジャパンの「現在地」を知るヒントは「MFの組織力アップ」(イ・チョンヨン、チョ・ヨンヒョン)にあると思う。守備のやり方に「ザック流」が表れている。韓国からの証言では、そんな点があぶり出される。
 日本戦後、チョ・グァンレ監督が言った。
「岡田監督の時代は、一度ポジションを下げてから、しっかり守るというやり方だった。しかし、今は高い位置からのプレッシングも併行している。守備組織としてはかなり強くなっている」

 この日、チョ・グァンレ監督は「どうしても日本に勝ちたい」と66分に投入したサイドアタッカー(ヨム・ギフン)を82分に下げ、ストライカー(ユ・ビョンス)を投入するほどの執念を見せた。そんな敵将の言葉が、ずしりと響いたソウルの夜だった。

<了>

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著者プロフィール

1974年生まれ、北九州市出身。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)朝鮮語科卒。『Number』で7年、「週刊サッカーマガジン」で12年間連載歴あり。97年に韓国、05年にドイツ在住。日韓欧の比較で見える「日本とは何ぞや?」を描く。近著にサッカー海外組エピソード満載の「メッシと滅私」(集英社新書)、翻訳書に「パク・チソン自伝 名もなき挑戦: 世界最高峰にたどり着けた理由」(SHOPRO)、「ホン・ミョンボ」、(実業之日本社)などがある。ほか教育関連書、北朝鮮関連翻訳本なども。本名は吉崎英治。

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