大宮、さいたまダービーを浮上のきっかけに
「魔」の9月を勝ち越しで終えて
鈴木監督が試行錯誤して作り上げてきた大宮のサッカーがようやく形になりつつある 【写真提供:大宮アルディージャ】
以前から機会があるごとに記述しているのが、「ダービーはきっかけになる」ということ。鈴木淳監督就任直後の京都サンガF.C.戦に勝って以来、6試合白星から見放されていた大宮が勝ち点3を獲得し、続く湘南ベルマーレ戦にも勝って今季初の連勝を挙げたのが、第16節のアウエーでのダービーだった。新体制後、リーグ戦16試合で6勝4分け6敗と戦績はまったくの五分。J1残留への眼前のライバルであったFC東京をたたき、一気に上へ突き抜けていくためのきっかけを、再びこの浦和戦で勝ち取る絶好のチャンスだ。
ようやく見えてきた「チームの土台」
就任時、大宮の印象を聞かれた鈴木監督はこう評した。ほかのチームと比べても、決して試合内容は遜色(そんしょく)ない。だが、プラスとマイナスのギャップが大きいがゆえに、ビッグクラブに勝利したかと思えば、下位チームに簡単に勝ち点を献上してしまう。そのギャップを小さくしていくことで、負けを引き分けに、引き分けを勝ちに変えていく。それが、勝ち点を積み重ね順位を上へと押し上げていくことにつながっていく。
そのために、鈴木監督がまず着手したのが、「チームの土台」。「チームの骨格となるようなところをまずはしっかりさせていきたい。そうなれば、チームとして安定した試合ができるようになるので、個人のパフォーマンスも発揮しやすくなる」(鈴木監督)
だが、土台作りも容易ではなかった。鈴木体制下でコンスタントに試合に出ているのは、GKの北野貴之に、青木拓矢と金澤慎のボランチコンビぐらいか。藤本主税やラファエルの負傷による戦線離脱と復帰、イ・チョンスや鈴木規郎らの獲得。メンバーの出入りに加え、指揮官は福田俊介、渡部大輔、金久保順ら若手を積極的に起用し、さまざまなポジションチェンジや組み合わせを試していった。そうした曲折を経て、9月に入ってやっと布陣も固まりつつある。「チームの土台」がようやく見えてきた。
3人の夢の共存へ向けて
1つは、大宮の現時点での最大の課題であり、夢でもあるラファエルとイ・チョンス、石原直樹の共存だ。天皇杯2回戦のカマタマーレ讃岐戦では、石原とイ・チョンスの2トップに、ラファエルが中盤の左サイドに下がる布陣を採用した。たぐいまれなラファエルのキープ力を中盤で生かし、そこを起点として攻撃力アップを狙ったシステム。だが、チーム全体として機能したとは言い切れず、“格下”の地域リーグのチーム相手だったからこその4得点だとも言える。実質的には守備をなおざりにした3トップのような形になってしまい、J1チーム相手ではどうなのか、まだまだ周囲の疑問符をぬぐい去ることはできなかった。
次に3人が同時にピッチに立ったのは、前節のFC東京戦。序盤から続いたFC東京の攻撃を粘り強く阻み、攻め疲れを待ったかのように藤本に代えて石原を投入。イ・チョンスを中盤右サイドに下げると、これが生きた。
積極的に縦へ出るイ・チョンスに対し、それまで攻撃的だったFC東京の左サイドバックの中村北斗は、最終ラインにくぎ付け。そして、その右サイドを起点に、決勝点が生まれた。「攻撃的なポジションは今までにもどこでもやっている。監督の起用に応えるだけ」と中盤でのプレーにも意欲を見せるイ・チョンスと、やはり前線で生きる石原とラファエル。鈴木監督は明言こそしなかったが、指揮官にとって3人の共存へ向けて大きなヒントとなった試合となったはずだ。