ソフトバンクの運命を変えた「劇的」本塁打=鷹詞2010〜たかことば〜

田尻耕太郎

胴上げ目前だった西武と、苦しんでいたソフトバンク

 パ・リーグが大変なことになってきた。9月18日〜20日の“天王山”で2位の福岡ソフトバンクが首位の埼玉西武に3連勝。ゲーム差は0.5に縮まった。

 3日前まで誰もが埼玉西武の優位を疑わなかった。両チームの直前一週間の戦いぶりが、あまりに明暗が分かれていたからだ。
 埼玉西武は前々節の千葉ロッテ戦で3連勝して11日に優勝マジック「8」を点灯させた。前節のオリックス戦は1勝2敗と負け越したが、福岡ソフトバンクはそれ以上に深刻な戦いをしていた。10日からの北海道日本ハム戦と続く千葉ロッテ戦がそれぞれ1勝2敗。そのうち2つはこれまで今季無敗を守ってきた守護神・馬原孝浩の黒星。14日には今季初のサヨナラ負け。前節は埼玉西武が1勝2敗と負け越したにもかかわらず、同日に白星と黒星を重ねたためゲーム差は全く変わらずにマジックだけが減るという、最もフラストレーションのたまる展開となっていたのだ。

チームとファンがひとつになった小久保のサヨナラ弾

 しかし、“天王山”の結果は真逆となった。福岡ソフトバンクに一番足りなかったもの、そして奇跡の逆転優勝を演出するためには絶対に必要だったもの……。それが初戦で生まれたからだ。
 福岡ソフトバンクには「劇的」な瞬間が必要だった。今、チームとファンがひとつとなって一番盛り上がれるもの。それは小久保裕紀の本塁打だった。
 小久保は主将としてチームメート全員からの絶大な信頼を集めている。しかし、4番としては14本塁打と物足りない数字だった。それでもチーム内から不満の声が聞かれなかったのは小久保の人徳なのだが、やはり小久保は「1ミリでも遠くに飛ばす」ことを信条とするホームランアーティスト。8月21日以来の本塁打をみんな待っていた。

 18日の初戦、延長11回裏。小久保は左中間スタンドへ特大のサヨナラ2ランを放った。打った瞬間に両手を大きく広げてバンザイをした。ベンチの仲間たちも両手を突き上げた。スタンドのファンも一斉に立ち上がった。この試合は9回表に馬原が3点差を追いつかれての延長戦。それを今後への不安材料と指摘する意見もあったが、そんなものは関係ない。これ以上ないというよりも、これしかない最高の勝ち方だった。

「ヤフードームがあんな雰囲気になったのは初めて」

 2戦目は福岡ソフトバンク打線が爆発して11対4で大勝。3戦目は初回に3点を奪われたが、直後に暴投で1点を返す幸運。6回無死一塁では小久保の当たりがセカンドの正面に飛んだが、片岡易之の負傷で試合途中からセカンドに回っていた原拓也がまさかの失策。続く多村仁志のタイムリーで1点差としたときに、打ちあぐねていた石井一久が打球が指に当たるアクシデントで交代。2死満塁として代打のオーティズが逆転タイムリーを放って5対4で競り勝った。

 3試合すべてが福岡ソフトバンクの逆転勝利だった。リリーフ陣の差がもろに出たと言えるだろう。この3試合、福岡ソフトバンクのリリーフ陣で失点したのは初戦の馬原の3失点と3戦目の甲藤啓介の1失点だけ。しかも2戦目の先発・大隣憲司は3回途中、3戦目のホールトンは2回で降板するという緊急事態もあった上での結果だ。
 対する埼玉西武は3試合でリリーフ陣が12失点。しかも痛恨だったのは、右ひじ違和感をおして登板したシコースキーが初戦にサヨナラ被弾し、2戦目には2カ月半ぶりに1軍復帰した岸孝之が松中信彦に決勝弾を浴びるなど2失点。福岡ソフトバンクの打者からは「いいときのカーブとは全く違う」と本調子とは程遠いとの声も聞かれた。リリーフ陣は元来の課題だったが、ここにきて傷口を広げてしまったのは痛すぎる。

 福岡ソフトバンクは初戦に打たれた馬原の状態が気になるところだが、3戦目は走者を背負いながらも無失点に抑えた。最後の打者の中島裕之との対決は12球の死闘。153キロの直球を交えながら、140キロ台のフォークで攻め抜いた。二人の戦いは時間にして10分を超え、最後は空振り三振。ヤフードームは1球ごとに大歓声が沸き起こり、セカンドを守っていた本多雄一は「守っていてヤフードームがあんな雰囲気になったのは初めてだった」と顔を紅潮させていた。この名勝負を制した馬原はこれで32セーブ目を挙げ、健在をアピールできたのは大きい。

球史に残る大混戦 両チームとも最短Vは25日

 ただ、現時点での首位はまだ埼玉西武だ。残り4試合を全勝すれば、福岡ソフトバンクの結果に関係なく優勝できる。しかし、23日にもし敗れて、福岡ソフトバンクが勝利すれば逆にマジック「2」を初点灯させる。
 両チームとも最短Vは25日。勝利の女神がほほ笑むのはどちらか。球史に残る大混戦となったパ・リーグの結末はあと数日で分かる。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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