広島ユースが実践する「日本サッカー界への提言」=高円宮杯ラウンド16 広島ユース 7−1 C大阪U-18

小澤一郎

ポジションの最適化

2ゴールを決めた岡本洵。だが、広島ユースは攻撃を特定の選手に依存しないのが特徴 【平野貴也】

 後半に入り、DFやボランチでプレーしていた選手が突如FWの位置でプレーしていた時間があったので、森山監督にその点について聞くと、「いつもやっているんで。バテた選手を代えて、(交代で)入れた選手のポジションがかぶるからという感じです。適当です」と、笑いながら答えが返ってきた。しかし、これには続きがある。
「(特定の)ポジションにこだわらず、どこでもできないといけない。ピッチの中に入ったら、ポジションなんてぐしゃぐしゃになるし、守備も攻撃もそうした中でポジションを探していかなくてはいけない」
 指導者が選手のポジションを決めるのではなく、選手がポジションを探す。「適当」と言っておきながら、森山監督は明確なコンセプト、哲学のもとで、選手が自ら最適なポジションを探すことのできる環境を与えているのだ。

 広島ユースのように、人もボールもめまぐるしく動くパスサッカーが機能した時の美しさ、破壊力はこのC大阪U−18との試合でも十分に表れていた。試合を見ながら、「どうすればこうしたサッカーを実践できるのか?」と考えていたのだが、ひとつのヒントは森山監督の言葉にあるポジションの最適化ではないか。広島ユースには、選手のポジションや動き方に制約やパターンがない。だからといって、極端に攻守のバランスが悪くなることも、カオスに陥ることもない。

 その根底には、目に見えない、言葉にできない普遍性のようなものがある。それは突き詰めると、ピッチ上の選手1人ひとりがその状況、状況で最適なポジションを取り、その上できっちりとリスクチャレンジとリスクマネジメントを共存させているのだ。練習や日ごろの指導法をじっくり取材しなければ結論めいたことは言えないが、選手の自主性やクリエーティブな発想を奪うことなく、サッカーのセオリーや普遍性を教え込んでいる森山佳郎という監督は、やはりただ者ではない。

 広島ユースのサッカーも森山監督のコメントも、人を引きつける魅力を持っている。それと同時に、彼らはトップチームを率いるペトロヴィッチ監督がそうであるように、「日本サッカー界への提言」を行っていると確信した。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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