「スポーツの価値は目に見えない」平尾誠二=みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて

スポーツナビ

チームの感情は成長する上で重要

日本サッカー協会理事、自身のNPO法人での経験も踏まえ、ラグビー界への提言を行った 【スポーツナビ】

Q.19年W杯を開催する日本ラグビーにとって、この9年間でやるべき課題・ポイントをご説明ください

―――僕は今、神戸でNPO(特定非営利活動法人)の「SCIX」をやっていて、インテリジェンス講座を開催しています。そこで、この人の話を聞きたいなという人はほとんど呼びました。
 9年前の第1回の時に加藤久さんを呼んで、「日本のサッカーが急激に強くなったのはどうしてですか?」と聞いたんです。すると彼は非常に端的に「パスが速くなった」って答えました。その時に僕は、「何とおもろない答えなんだ」と思ったんです、実はですよ(笑)。つまり、パスが速くなるために、日本はどれだけ時間がかかったか、っていうことなんです。パスが速くなるだけで、変わるんですよ、プレーが。

 サッカーのボールは丸いんですが、日本のグラウンドは土が多いじゃないですか。そうするとボールが摩擦であまり速くならないんですよ。今回のW杯で優勝したスペインは、短い距離のパスがえらい速いんですよ。それをつなげていくから、予測された防御網を突破する力があるわけですね。では、彼らは何でそんなに速いパスができるのか。普段の環境がそうさせているわけです。芝生にいつも水を撒いて、ボールが速くいく状態で練習をするんです。一番難しいのはパスを蹴るのではなく、トラップする力。その速い球を足元で吸い付ける力が要るんです。それでボールをコントロールできないと勝てないわけです。
 つまり、加藤さんが言いたかったのは、トラップする力がなかったということです。それは、日本は土のグラウンドだったから。Jリーグできるまではそんなに環境がよくないから、遅いパスしかないわけです。ボールの質がよくなって、いいグラウンドができ始めて、それを何年もやるうちにそういう技術が出てくる。すぐできない。トラップの力がすごいと聞いて、僕はそれにすごい時間がかかるんだなと思ったんです。

 では、ラグビーは何ぞやというと、もっといっぱいあるんでしょう。何か単純に見えることに気づき、それをちょっと向上させるのにはすごい時間がかかる。環境の整った中でやることでしか、なかなか向上させられないんです。ラグビーでひとつ良くなってきたと思うのは、トップリーグのレベルが非常に高くなったことです。これは、外国人選手が増えて、彼らの技術スタイルがスタンダードになってきて、みんながそれに慣れてきた。それが日本のランキングを上げている要因だと思います。

Q.理不尽さを生かしたコーチングを神戸で導入していますか?

―――そうあったらいいなと思っているだけです(笑)。この世の中、なかなかやるのは大変です。慣れていない方が多いので。ただ、怒りをぶつけるのはありかなと、今それぐらいはしていいのかなと思っています。
 サッカーW杯の前、岡田(武史)さんがちょうど日本代表の監督を受けられた時に、ちょっと面白いことを言っていました。彼はしばらく現場を離れていて代表監督になる時に、「最近の若い選手の気質はどうなってる?」と僕に聞いてきたんです。「これおまえ、どう思うか」と言ったんです。「最近のプレーヤーは勝っても喜ばない、負けても悔しがらない、(試合が)終わったらとっとと帰る」という。岡田さんいわく、彼は年齢的に僕よりちょっと上ですが、「何が面白いんだろうな」と言ったんです。

 スポーツをやっていて、負けたらはらわたが煮えくり返るくらい悔しい思いをして、飯ものどを通らない、こんなことをみんな経験している。勝ったら「うわーっ」と、はちきれんばかりに喜び、昨日まで「コイツいやだな」と言っていたやつと肩を組んで笑っているという。負けたら悔しい話を延々とし、勝ったら朝まで飲みにいく。こういうことが今はないっていうんですよ。本当に社会の縮図だと思います。勝っても、「うわーっ」てないんですよね。負けて、「くっそー」ってないんですよ。終わったら、勝っても負けても忘れたかのように帰っていく。バスの光景はいつも一緒みたいな。

 何が面白いんだろうな、というのはちょっと感じていました。でも、これはあまり良くないと思うんです。これは、変えてもいいところなんです。負けたらはらわたが煮えくり返るほど悔しいんですよ。でも、選手はかっこ悪いから隠しているんだと思うんです。これは、指導者の方が出したらいいと思います。それはなかなか、今の若い選手たちだけでやれといってもムリ。こちらがうまく仕掛けてやらないと難しいと思います。

 このことによって、チームが感情を持つんですよね。これは重要なことなんです。チームは生き物です。感情がないと無機質で、全然おもろないものになりますから。それと繁栄しないんです。チームの感情が出てくるのは、成長する上で重要。これはチームのカルチャーになります。理不尽さというのは、そうしたものが出てくるきっかけとなると思います。ばかげたものは必要ないと思います。ちょっとしたものがあって、それをみんなで乗り越えていく、というのはあった方がいいのではないでしょうか。

<了>

「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップに向けて」は、日本でラグビーワールドカップが開催される2019年まで、100回を目標に行われる。次回、第5回は10月6日、スポーツマーケティングの指南書『エスキモーに氷を売る』の著者ジョン・スポールストラ氏を迎え、「成功のためのスポーツマーケティング術」というテーマで行われる。

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