最高の“Bチーム” 若さと可能性を秘めた米代表=世界バスケ

宮地陽子

ビッグネームは辞退

4年前の前回大会では銅メダルを獲得した米国。辛口メディアからの評判を覆すことができるか!? 写真は2006年9月撮影、左からアンソニー、ウェイド、ジェームズ 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】

 米国代表といえば、バルセロナ五輪のときは世界中に夢をもたらした“ドリームチーム”だった。2年前、北京五輪では名誉挽回のための“リディームチーム”。実際に金メダルを取り、バスケ大国、米国の威厳を取り戻した。
 それでは8月28日からトルコで始まる世界選手権に出る米国代表は何だろうか? ヨーロッパに出発する直前のキャンプ地、ニューヨークの辛口メディアがつけたあだ名は“Bチーム”だった。北京五輪で金メダルを取ったレブロン・ジェームズ、コービー・ブライアント、ドウェイン・ウェイド、カーメロ・アンソニーら、トッププレーヤーたちが、故障やフリーエージェントなどを理由に全員辞退した結果の、2軍チームというわけだ。
 「自分たちが2軍だとは思っていない」と、チーム最年長(33歳)のチャンシー・ビラップスは言う。「コービーやレブロン、メロ(カーメロ・アンソニー)はいないけれど、それでも僕らは世界で一番の才能をそろえたチームだと思っている。成功すると思っている」

実績は劣るも、戦いの準備は万全

 実際のところ、今夏の米国代表はチームの半分にあたる6人が22歳以下と若く、国際経験も少ない。NBAの経歴でも、オールスター経験がある選手はわずか4人(ビラップス、デュラント、ローズ、グレンジャー)、しかも、ビラップス以外の3人は昨季のオールスターが初出場だったのだから、ドリームチームやリディームチームの選手たちの実績とは比べ物にならない。
 それでもひとつ確かなことは、たとえ“Bチーム”であったとしても、崩壊寸前だったアテネ五輪チーム(2004年。3位)や、地元開催だったインディアナポリス世界選手権チーム(02年。6位)よりは世界と戦うための準備ができているチームだということだ。何といっても、05年からジェリー・コランジェロ会長とマイク・シャシェフスキー・ヘッドコーチの体制で継続し、積み重ねてきた経験がある。たとえば、4年前に日本で行われた世界選手権では、準決勝で対戦(そして敗戦)したギリシャ選手を背番号で語っていたシャシェフスキーも、先日のギリシャでの親善試合では選手を名前で語るまでになっていた。
 そのシャシェフスキーは、今年の代表チームを「強豪ではない。しかし成長中のチームだというのがいいところだ」と描写した。
 コランジェロも、チームの弱点を認めながらも、可能性があるチームであることを強調する。
「このグループの持つ気質は好きだ。若くて、ミスを犯すこともあるだろう。調子の波もあると思う。しかし、チームの気質と運動能力によって乗り越えられるのではないかと思う。必要な場面でシュートを何本か決めることができれば成功(優勝)できるかもしれない」

サイズ不足を補う鍵は――

 実績以外にも、チームに足りないものがある。サイズである。キャンプに呼んだビッグマンが次々に故障や契約問題などで離脱した結果、最後に残った12人の中で、ふだんパワーフォワード/センターをしているのは3人(チャンドラー、オドム、ラブ)だけ。ポジション的には、ふだんスモールフォワードのゲイやグレンジャーをパワーフォワードに回すことができるが、2年前のようなリバウンドの支配力はない。オフェンスでもインサイドのパワーゲームに持ち込むのは難しい。オフェンスではシュート成功率が、ディフェンスではいつものマンツーマンだけでなく、ゾーンディフェンスをいかに効果的に用いることができるかが鍵となるだろう。
「ミスを補うだけの力はないから、失敗の余地はあまりない」とシャシェフスキーも認める。「リバウンドは5人全員で取りにいく必要がある。このチームが負けるとしたら、リバウンドで負けるときだと思う」

大黒柱はNBA得点王、21歳のデュラント

昨季のNBAで得点王に輝いたデュラントが、どのような活躍を見せるか注目だ 【Getty Images】

 チームの大黒柱は昨季のNBA得点王、21歳のケビン・デュラント。206cmの長身ながら、オールラウンドの攻撃を仕掛けられる器用さや多彩さが武器の、次世代のスーパースターだ。この先何年にもわたって米国代表を支えていく選手の一人で、彼の活躍なしには米国代表の優勝はないと言っても過言ではないのだが、弱点は時として謙虚すぎるところ。キャンプ前半では、チーム第一を意識し過ぎたのか力を発揮しきれていなかった。コーチ陣から「積極的に攻めろ」と後押しされ、チームメートから「君にすべてはかかっている」と信頼され、少しずつエンジンがかかってきた。8月22日にマドリードで行われたスペインとの親善試合では25得点を挙げた上に、試合終盤でスペインの逆転シュートを2本続けてブロックと、攻守での活躍を見せた。
 世界選手権での目標を聞かれたデュラントは言った。
「金メダルが欲しい。優勝しか考えていない。それ以外の選択肢はない」

<了>
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著者プロフィール

東京都出身。国際基督教大学教養学部卒。出版社勤務後にアメリカに居を移し、バスケットボール・ライターとしての活動を始める。NBAや国際大会(2002年・2006年の世界選手権、1996年のオリンピックなど)を取材するほか、アメリカで活動する日本人選手の取材も続けている。『Number』『HOOP』『月刊バスケットボール』に連載を持ち、雑誌を中心に執筆活動中。著書に『The Man 〜 マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。現在、ロサンゼルス近郊在住。

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