痛すぎる敗戦 全日本男子が失った貴重な機会=バレー男子ワールドリーグ2010予選総括

田中夕子

韓国とのプレーオフに敗れワールドリーグ出場権を逃した日本=長野市のホワイトリング 【共同】

 試合がなかったからこそ、できたこと――。
 試合がなかったために、試せなかったこと――。
 バレーボール男子日本代表にとって、2010年初めての国際大会となった「ワールドリーグ2011予選」では、マイナスとプラス、4試合を通してその両面が浮き彫りになった。

地道なトレーニングの成果がサーブで現れる

5月からの合宿の成果が顕著に現れたのがサーブ。清水(写真)らが、サービスエースを決め、チュニジア戦は連勝 【坂本清】

 まず、試合がなかったからこそできたことは何か。福澤達哉(パナソニック)はこう言う。
「5月からしっかりトレーニングができていたので、確実にパワーアップすることができたし、ボールを打つときにも今まで以上に力が伝わっている手応えを感じます」
 その成果が顕著に現れていたのがサーブだ。
 8月17、18日に行われた1次ラウンドのチュニジア戦では、石島雄介(堺)、清水邦広(パナソニック)、富松崇彰(東レ)、福澤のジャンプサーブがさえ渡り、連続得点でチュニジアは意気消沈。序盤から完全な日本ペースで試合を進めた。

 福澤の言葉にもある通り、5月からの合宿で植田辰哉監督は「オールアウト(筋肉を限界まで追い込むこと)」と題し、昨年、一昨年以上にトレーニング時間を割いてきた。中でも大石博暁トレーナー指導のもと、より重視したのが「ボールインパクト時、絶対に必要な筋肉」(大石トレーナー)という上背部の筋力アップだった。特殊なゴムでできた半球のボスの上に手をつき、不安定な状況で行う腕立て伏せなど地道なトレーニングを重ね、大石トレーナー曰く「就任してからの6年の中で、最も成果を感じた」

 結果はサーブやスパイクで存分に発揮され、チュニジア戦は連勝。試合後、富松が言った。
「始まる前は試合がない不安もあったけれど、まずは勝てたことで、ここまでやってきたことが間違いじゃないんだという自信が持てました」

世界の強豪との試合経験を積んだ韓国に完敗

ワールドリーグの経験で技術的にも進化を遂げた韓国代表(奥)。全日本男子にとっては6年ぶりの敗戦よりも重い現実だった 【坂本清】

 しかしその自信は、わずか1週間後に砕かれる。
 試合がなかったチームと、試合をしてきたチームの差を、この上ない形で見せつけられたのが8月24、25日に行われた2次ラウンドの韓国戦だった。
 足首のケガでチームを離脱している宇佐美大輔(パナソニック)に代わって、主将を務めた山村宏太(サントリー)が言った。
「夏場にワールドリーグで苦しい試合を重ねてきた韓国は進化を遂げていた。それに対して、自分たちの対応が甘かったことを痛感しました」

『宿命のライバル』と揶揄(やゆ)される韓国だが、04年以降日本は負け知らずの6連勝。サイドからの攻撃を中心とした、韓国スタイルとも言うべきパワーバレーを日本は熟知していたはずだった。ところが、結果は韓国の2戦2勝。そして、植田監督が就任してから初めて韓国に敗れたということよりも、もっと重い事実に直面させられた。
 松本慶彦(堺)が言う。
「今までの韓国とは全然違う。コンビも複雑になっていたし、前はどんな状況でも決めにきていたのが、ブロックをうまく使うようになった。相当強くなっていました」
 ワールドリーグの本大会は12戦全敗で16チーム中16位に終わった韓国。しかし、ブラジル、ポルトガルなど世界のトップに位置する強豪国との対戦を通じて得られた経験の大きさは計り知れない。結果にはつながらなかったものの、アジアのチームが世界で戦うために必要な高さに対する策など、ワールドリーグを通して技術面で大きな成長を遂げていたのだ。

 首を痛めて万全の状態ではなかったとはいえ、「自分が決め切れなかった」とうなだれたエースの清水は、2試合を終えた後、韓国をこう評した。
「ブロックアウトを取るときも、ただ単にブロッカーの手に当てて打つのではなくて、ブロッカーの指先を狙って、なおかつ後ろにいるレシーバーが届かないところまで飛ばす打ち方をしている。サーブで攻めることも含めて、自分たちがしなければならないバレーボールを、完全にやられました。経験を積んでいる違いが大きかった。とにかく悔しいです」

世界選手権までに残された山積みの課題

 昨年の主力であるセッターの宇佐美、阿部裕太(東レ)をケガで欠き、トスを上げたのは全日本に今季初召集された今村駿(堺)、近藤茂(東レ)の両名。試合経験が足りないことに加え、近藤は大会直前の合宿で足首を捻挫(ねんざ)し、「5日間は歩くこともできず、チュニジア戦の頃からリハビリを始め、チーム練習に合流できたのは試合の3日前」という状況。コミュニケーション不足によるコンビミスも生じるなど、致し方ない事情もあった。
 とはいえ、9月25日に開幕する世界選手権(イタリア)は1カ月後に迫る。「ドクターストップがかかった」(植田監督)という宇佐美の合流は絶望的であるため、ワールドリーグ予選同様に、現有戦力で戦わなければならない。残りわずかな時間でコンビの精度を高め、サーブ力のさらなる向上、スパイクレシーブからの攻撃力アップや、サーブからのブロックにつながるディフェンスシステムの構築など、取り組むべき課題は山のように積まれている。

 韓国に敗れ、日本は来年もまたワールドリーグという貴重な実戦の機会を失った。そして韓国は、6年ぶりに「日本に勝った」という自信と経験を手にした。
 痛すぎる敗戦の結果は変えられない。来年は、ロンドン五輪の前年。何をすべきか、答えは明白だ。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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