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犬飼前会長「やらなきゃという信念は変わらない」
Jリーグ秋春制移行問題を考える:第3回
「秋春制問題」について、犬飼前会長が持論を述べた
「秋春制問題」について、犬飼前会長が持論を述べた【宇都宮徹壱】

 犬飼基昭氏が、日本サッカー協会(JFA)会長職を1期2年で退任することが報じられたのは7月24日のことである。あまりの唐突なニュースに、しばし言葉を失った。その2日前、2022年のワールドカップ(W杯)招致活動に関する記者会見で、意欲あふれる前会長の姿を私は間近で目撃していたからだ。それだけに「体調不良」という理由は、どうにも腑に落ちないものを感じてならなかった。翌25日、副会長から昇格した小倉純二氏が新会長に就任。かくして、2期目が確実視されていた犬飼体制は、突然の幕切れを迎えることとなった。


 さて、W杯を挟んで久々に再開する、シリーズ「Jリーグ秋春制移行問題を考える」第3回は、この問題の火付け役である犬飼前会長へのインタビューを掲載する。取材したのはW杯前の5月20日。あれから随分と時間が経過し、今回の政権交代で状況も大きく変わった。小倉新会長は、秋春制の必要性を認めつつも「北(寒冷地)に設備がない以上、無理強いはできない」としているし、新たにJリーグのチェアマンに就任した大東和美氏も「すでに昨年に方向性が出ているという認識」であるとして、秋春制移行に否定的な見解を示している。そんな中、今さら犬飼前会長のインタビューを掲載することに、どれだけ意味があるのか――そう考える方も少なくないだろう。


 だが私は、むしろこの時期だからこそ、あらためて前会長の言葉をここに再現すべきであると考える。というのも、少なくとも犬飼氏の退任が決まるまで、シーズン移行のプロジェクトが着実に進行していたことが、このインタビューから明確にうかがえるからだ。そこで、少なからぬ予算とマンパワーが投入されていたはずだが、今回の新体制発表によって、いったん棚上げとなる可能性は大である。私自身は、秋春制移行に決して賛成の立場ではないが(むしろ極めて懐疑的である)、JFAの唐突な方針転換については、賛成・反対の立場を超えて、サッカーファンはきちんと目を向ける必要があるだろう。そんなわけで以下、秋春制移行に向けて意欲満々で語っていた、犬飼前会長のインタビューをここに掲載する。(取材日:5月20日 インタビュアー:宇都宮徹壱)

シーズン移行は会長になる前から考えていた

――犬飼さんが会長になられてから、ずっと主張されているシーズン移行。今年に入ってから、あまり聞かれなくなったように思えるのですが、進捗はいかがでしょうか?


 シーズン移行については、外に間違った情報や中途半端な情報ばかりが流れていますね。その話に入る前に事実を言いますと、わたしがJリーグの専務理事だった時に「JFA/Jリーグ将来構想委員会」のメンバーに入るようにと言われたんですね。「将来構想委員会」というのは、JFAのプロジェクトで、Jリーグのプロジェクトじゃないんです。


 それで、JFAの副会長として鬼武(健二)チェアマンが委員長をやって、そのメンバーでいた時にわたしが提案したんです。Jリーグの専務理事として、シーズン制を変えなかったら、日本のサッカーは行き詰まりますよ、代表選手が全部疲弊しちゃうと。

 というのも、わたしが浦和レッズの社長をやっていた時に、5人も6人も代表に出していたんですね。1年中休めないんですよ、選手は。そうすると、どこかでけがをする。どこかで選手が行き詰まっちゃうという危機感が常にあったんです。そういうことがあって、選手を休ませるためには「世界とカレンダーを合わせないとムリですよ」と。


――とはいえ、一口で「世界」といっても、それぞれの気候に合わせたカレンダーがあります。アジアひとつ取っても、整合性を合わせるのは難しいと思いますが


 たとえばアジアでも西の方は、夏は40度、50度、60度で(試合が)できないから、全部インターナショナルマッチデーというのは1月に入ってくるんです。日本はその時のシーズンで言えば、1月はオフの次期なんですね。選手が休まなければいけない時に、代表選手は常に招集されて、コンディション作りをしなければならない。

(クラブが)チームを作る活動が始まると(代表)選手は試合で持っていかれてましてね。浦和時代に、これはどうしたらいいかなあという感じで「これはもうシーズンを変えなきゃダメだ」と、その時にわたしが提案したことで(プロジェクトは)始まったんです。


――そのあたりの経緯は、あまり広く知られていませんよね。犬飼さんが会長に就任されてからクローズアップされた話題だけに


 ずっと検討しているうちに、僕が協会の会長になったのでメンバーから外れたわけです。それでもプロジェクトは継続検討をしていていました。ただ協会のプロジェクトだから、検討が終わったら報告してくださいということで、鬼武委員長がサッカー協会の副会長として常務理事会で報告したんです。ところがそれが、数字的な裏付けだとか、いろんなものが全くなくて、「ただやれない」と。ただ「時期尚早」だと。1つは(シーズンを)変えることによってみんな大変な思いをするんだけど、それによって得られるメリットが少ない、とこう言ったんですね。


――それが昨年(09年)の3月の話ですね? それに対して犬飼さんが考えていらしたメリットというものは、どうだったんでしょう


 その時にわたしが言ったのは、代表選手が世界の人と同じ時期に休むことができて、しっかりした代表のプレーができると。ただしそれは、Jリーグのチェアマンにとっては、あまり大きなメリットではなかったわけです。確かにJリーグも、代表選手を輩出しているようなクラブもあれば、全然関係ないクラブもいっぱいありますから。

「ほとんどできている」シーズン移行後のカレンダー

――その後、どのようなやりとりがあったんでしょうか?


 それで報告があった時に、わたしが議長をやっていたので「これでいいですか?」と言ったら、常務理事以上全員が「これではダメだ、納得できない。何の裏付けもないじゃないですか」と。「観客が減るというけど、どれくらい減るんですか?」と言っても、「さあ……」という話だった。それでわたしは「もう1回再検討してもらわなきゃいけない。全員がそう言うので、もう1回検討してください」と差し戻しをしたんですね。

 それでもなかなか動かないんで、鬼武さんに「あれはどう検討するんですか?」と聞いたら、「えっ? そんなこと言われたかなあ」って言われたんだけど、常務理事会は録音テープがあるんでね(笑)。「聞きますか?」って言ったら「いやあ……」とかいう話になったんで、じゃあもう委員会でやらずに(JFAとJリーグ)両方からメンバーを出して、数字をきちんと作りましょうと。


――つまり「将来構想委員会」ではなく、別のプロジェクトチームを立ち上げることになったわけですね?


「将来構想委員会」はやめて、両方からのメンバーを出すことで、新たなワーキンググループでやりましょう、ということになったんですね。それでスタートさせたんですけど、(シーズン移行をするためには)スタジアムをそのままにしておくのはいけない。このくらい暖かくするには(コストが)どのくらいかかるとかいうことで、外部のコンサル(コンサルタント)を採用したんです。

 そのコンサルに、実際に現地のスタジアムにも行ってもらって「こういう季節に試合をやったら、どれくらい費用がかかるか」ということを数字的に詰めたんです。そうしたら、そういう(ネガティブな)裏付けが覆されたんですよ、実際に。じゃあ、こういうふうにするための日程ということで、今はカレンダーを作っているところなんですよ。


――では今まさに、シーズン移行後のカレンダーを作っている状況なんですね?


 そうです。ほとんどできていると聞いているんですけど。ただ、寒い地域の一部の人たちが、かなり反対しているということで、Jリーグが心配していると聞いています。どんなことでも変えようと思ったら、自分たちの権益を侵されることに対して、ものすごく反対する人がいるんですね。それはそれで話を聞かないといけないんですけど。


――実際、北国では「試合をする以前の問題」が、多々あると聞いていますが


 じゃあ今のシーズン制で、そのまま夏に試合をやっていていいのかと。スタジアムに入るために並んでいて、熱射病になって救急車で運ばれる人が、浦和でもかなりいたんですよ。寒い地域の人たちはそういうのを知らないでしょ、と。(当時)わたしのところにも「暑いの何とかしてくれ」というクレームがいっぱい来ていたんです。そこで、並ぶところにできるだけテントを張ったり、氷柱をいくつか立ててみたり、いろいろ工夫したんですね。だから寒いところも、いろいろ工夫すれば何かできるんじゃないかなと思うんですけど。


――とはいえ夏場は夜の試合が多いので、かなり暑さは緩和されているのでは?


 でもナイターになると、子供たちに見せられないんですよ。家に帰ると10時、11時になってしまうから。ところが冬にやれば、全部デーゲームになるので、子供も見られるわけですね。

 とにかく今は「寒いところに冬試合をやらせるのはとんでもない」という意見だけが来ているんですが、現状のシーズンでどんな問題が実際に起きているのかを考えないと。文句だけを取り上げて「あの会長はとんでもないことを考えている」と言われても、それは一方的だと、わたしは思っているんですね。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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