犬飼前会長「やらなきゃという信念は変わらない」=Jリーグ秋春制移行問題を考える:第3回

宇都宮徹壱

秋春制になれば寒冷地は潤う?

秋春制移行反対を唱え、署名活動を行うサポーター(写真は08年12月のもの) 【写真は共同】

――本当にシーズン移行を進めるのであれば、やはり寒冷地のクラブの関係者やサポーターに対して「シーズンを変えたらこんなに素晴らしいことがあるんだよ」という具体的なメリットを提示する必要があると思うのですが、いかがでしょうか

 いっぱいありますよ。まずね、冬に試合をやるとパフォーマンスが上がって、すごくいいサッカーが見せられるんですね。それから雪国の人にとっては、シーズンを変えると、シーズンが始まる前のキャンプは夏に行われるから、ほとんどのチームが北海道や山形といった寒い地域でキャンプをやるんですよ。
 そうすると、それにサポーターもついていくから、北海道なんかどれだけ潤うことか。Jリーグの真剣なキャンプを北海道の子供たちは見られるし、いろんな地域から人が移動して、北海道にいろいろとお金が落ちる。「そういったことを考えていますか?」っていうことを、わたしは札幌の新聞社の人に言ったことがあるんですけど、そういうメリットがあります。

――夏はそれでいいとして、冬については寒冷地にはデメリットしかないですよね

 僕が言っているのでは、1月はホーム2試合なんですよ。2試合が寒いからいやだと全部否定するのではなくて、いろいろと知恵を使えないですか、と。例えば、その2試合のホームゲームを1月は全部アウエーにして、季節のいい時にホームゲームを2試合増やすとか、やる気になればいろんな案が出るんですよね。
 それと同時に、やっぱり屋根のある練習場を、協会やJリーグで何とかバックアップしてできるようにするとかね。そうすると、雪国でも子供たちが冬でもサッカーができる環境ができるんです。何もそのまま(のスタジアム)でやろうと言っているんではないんです。だから、そういったことはいろいろやっていきましょうということで、コンサルの方からも「この位のヒーティングをすると何億かかります」といったことが、スタジアムごとに(具体的な数字が)出ているんですよね。その財源をtoto(スポーツ振興くじ)に頼もうかとか(知恵を出すことで)いろんなことができるんです。

――今までの話をまとめますと、すでにシーズン移行のためのカレンダー作りをしていて、具体的な数字もどんどん上がってきていると。これはどこかのタイミングで、きちんとまとめて発表されるんでしょうか?

 ドンと出しますよ。どこかのタイミングで。

――それは割と近い将来でしょうか?

 割合近いですね。来年の1月はアジアカップが入ってきて、その次(の年の1月)もW杯予選が入っていますから。そうすると、恒常的に代表選手は休めないんです。それに代表選手が疲弊しちゃって、けがでもして代表が負けると、全部協会の責任として来ますからね。

対話は望むところ、逃げも隠れもしない

――これはJFAマターの話ではないですが、Jリーグの過密日程は何とかしなければいけない状況に来ていると思います。チーム数を減らすといった選択肢もあった方がいいのかなと思うのですが、犬飼さんのお考えはいかがでしょう

 世界を見ますとね、日本でACL(AFCチャンピオンズリーグ)を戦うトップクラブでも、年間50試合くらいなんです。ヨーロッパのトップクラブでは年間60試合を超えていて65試合くらいやっている。南米では70試合を超えているんですよ。日本はたった50試合くらいなのに、なぜ過密なんだと。どこかおかしくない? というのがあるんですよね。じゃあ、ヨーロッパはなんでそんなにできているのと。

――選手層が厚いというのはあると思いますね

 それもあるでしょうし、選手が鍛えられていますよね。

――ただ、ヨーロッパがすべて正しいことをしているわけではないと思いますし、日程的に破たんしそうなところもあるわけで、ヨーロッパの悪い部分も見ながら、日本独自で調整していくことも必要かなと思うんですけれど

 そのへんの調整が非常に難しいのは、やっぱりJリーグの理念があるから。興行とかビジネスとかが先行するんではなくて、地域としっかりやっていこうというのはわたしも大賛成。だけど結局、そういうことをやりながらサッカーが成り立っていくのは、代表が勝たなければ全部つぶされるようなことなんですよ。
 だから、日本代表をどうやってカバーしながら、Jリーグの理念を成り立たせるか、みんなで考えないと。僕は(シーズン移行は)Jリーグ(の専務理事)時代に提案した話で、協会の会長になったから急に「代表、代表」と言っているわけではないんです。そういうところが全然、外に流れていないので、わたしとしては不本意なんですよね。

――先ほど、浦和時代の話をされていましたけど、当時の犬飼さんはサポーターやファンとの対話を大切にしていらしたイメージがあります。現在、非常にお忙しい立場でいらっしゃることを承知で申し上げるんですが、今回のシーズン移行の問題にしても、例えば寒冷地に出向いていって、現地のサポーターとタウンミーティングをするといったお考えはありますでしょうか?

 こういうことを提案して検討に入る時には、たぶんいろんな地域から要求があると思うんですけどね。当然、逃げも隠れもしませんから(笑)、行って対話しようと思いますよ。

――犬飼さんとお話したいという方は、けっこうあちこちにいますよ(笑)

 そうですか。それはもう、僕にとってはありがたい話で、今日こうして質問されることもね、メディアに間違って出ていることを説明できるんで、すごくいい機会だと思っていたんですよ。ですから、僕の意見を直接聞いてくれる場があるならば、喜んで話をしたいと思っています。

――ぜひ実現していただきたいですね。そろそろ最後の質問になりますが、シーズン移行の問題というのは、例えば今後、会長が変わった後も、引き続き実現の方向に動いていくのでしょうか?

 もちろんそうです。代表もJリーグも、どうやったら一番うまくいくかということは、サッカー界の命題ですからね。何が何でも僕の時代に、みんなが納得しないのにごり押しして、ということは思わないけど、やらなきゃいけないという信念は変わりません。それは協会の中で統一していますよ。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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