もしあなたのクラブがなくなったら=東京ヴェルディの土壇場勝負

海江田哲朗

わずか9カ月という短さで事実上の経営破たん

東京Vのサポーターは存続運動を行っているが…… 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】

 現在、東京ヴェルディは存亡の分かれ目にある。
 昨年10月、それまで東京Vを運営してきた日本テレビが、クラブOBを中心とする東京ヴェルディホールディングス(以下、東京VHD)に株式を譲渡。経営陣を一新した東京Vは、「2010〜2012年:クラブの基盤固め」「2013〜2016年:クラブの価値向上、J1トップ3へ」「2017〜2020年:J1&アジア王者へ」「2021〜2024年:世界王者へ」という、壮大な15年計画のロードマップを掲げてスタートした。ところが、この計画は早々に頓挫する。原因は、収入の不足。特に、予定したスポンサー料収入5億4000万円のうち、半分程度しか確保できなかったのが響いた。そして6月、近々の資金ショートが確実という段になって、Jリーグが救済に乗り出した。東京Vの取締役は総退陣し、株式はJリーグの関連企業であるJリーグエンタープライズへ。Jリーグから派遣された経営陣によって、クラブは運営されている。なお、この体制は今年限りと明言されており、11月末までに引き継ぎ先が確定しなければ東京Vに来季はない。ここまでが現状に至るアウトラインだ。

 今季、東京Vは新たな歴史をつむぎ始めるはずだった。クラブ規模の大幅なダウンサイジングを図り、収支をトントンで経営を維持しつつ、少しずつ力を蓄えて数年後の好機に備える。これが前経営陣のおおまかなプランだった。が、わずか9カ月という短さで行き詰まった。事実上の経営破たんだ。
 うまく流れを作れればできるはずだったのに、できなかったこと。果たせなかった目標、遂げられなかった思いもまた歴史の一部である。なぜ、現実とは逆のことが起こらなかったのか。まず、ここを今回のシリーズの出発点としたい。

崔前会長と前取締役・小崎との意見の相違

 前代表取締役社長の渡貫大志と会い、尋ねた。人心掌握に失敗し、一丸となってクラブを支える体制を作れなかった理由について。
「僕らの登場にあたって、どういった背景を持ち、どのように計画立てているのか、十分に伝え切らないうちに始まってしまった。自分たちのいいところも悪いところも理解してもらい、スタートすべきだった。あえて隠したつもりはないのだけど、周りに対して危なっかしい印象を与えてはならないと思う一方、みんなの助けが必要なんだとうまく伝えられなかった。そのうち資金集めが不安視されるようになり、人間関係の摩擦が生まれた」

 前代表取締役会長の崔暢亮と渡貫は、読売クラブユース時代からの盟友だ。そして、前取締役の小崎貴紀は、かつて渡貫の部下として接点があった。つまり、経営陣3者の意思疎通という点では、渡貫がキーパーソンだった。崔と小崎は経営方針や人事をめぐってたびたび衝突した。これ自体はどうってことのない話で、むしろ異議申し立てができるのは組織として健全だ。問題の是非はともかく、渡貫は会長を支える立場をとった。経営トップの考えがことごとく否定されるようでは、組織として成り立たなくなる。
 渡貫は崔についてこう語る。
「彼は誤解を受けやすい。売り言葉に買い言葉で極端なことを口走っても、最後にはちゃんとブレーキを踏む。部分的な食い違いがあっても、クラブのビジョンや方向性といった考え方は間違っていなかった。どうか信じてついてきてほしいと思った」
 十代のころから付き合いのある渡貫なら理解の及ぶ範囲だろうが、知り合って間もない人たちに気持ちを汲んでほしいというのは無茶である。それは上に立った者のおごりであり、甘えだ。

 崔と渡貫は弱みを見せまいと、「お金のことは大丈夫だ。きっと集めるから」と口癖のように言った。しかし、結果というものをまるで出せなかった。昨年11月の時点で支援表明書を取り交わしていた大口の協賛企業は全滅だった。資金調達の失敗は、周囲の疑念を生み、信用を落とした。小崎は早い段階からJリーグと情報交換し、資金ショートという最悪の事態に備えようとした。崔はこれを組織の秩序を乱す裏切り行為ととった。両者の溝は埋めようがないほど広がっていた。

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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