歓喜と落胆の王子たち=2010年プリンスリーグ総括

安藤隆人

攻め切るサッカーの富山第一は北信越を制す

清水ユースは、2年生エース柏瀬暁の活躍などで、7年ぶりのプリンス東海の覇権奪還に成功した 【安藤隆人】

 個性的で面白く、結果を残したチームは室蘭大谷、尚志、富山第一、清水ユース、神戸ユース、G大阪ユース、立正大学淞南が挙げられる。室蘭大谷は札幌ユースと同じく無敗で勝ち点でも並んだが、得失点差で2位に終わった。1、2年生に面白い選手がおり、さらに能力ある3年生がそろい、チーム力は非常に高い。鋭い反応と精度の高いキックを持つGK佐藤裕輔、屈強なフィジカルを誇るセンターバック櫛引一紀、攻守の要・石川勝智、決定力の高いエース安藤瑞樹が固めるセンターラインは強固で、MF小栗和也、FW内山北斗ら1年生がチームに思い切りの良さを付け足す。今後が非常に楽しみなチームだ。
 尚志はプリンス東北で唯一、青森山田と引き分けた。アウエー戦でも3−4の壮絶な打ち合いを演じている。独特のリズムのドリブルから強シュートを放つエース渡部圭祐、左サイドのチャンスメーカー湯浅秀紀、技巧派MF川邊祥太とアタッカー陣にタレントをそろえ、すさまじい破壊力を持つ。

 破竹の勢いを見せ、優勝候補だった星稜、新潟ユースを退け見事にプリンス北信越を制した富山第一は、4−2−3−1を敷き、1トップには抜群の決定力と突破力を誇る鈴木勇二を置き、スピードアタッカー中田大貴、攻撃的左サイドバック女川勇人と、アタッカー陣にタレントをそろえる。エースを軸に2列目以降が果敢に飛び出し、どんな状況でも最後まで攻め切るサッカーが魅力だ。
 清水ユースは一昨年は2部リーグに所属、昨年は1部復帰を果たしたものの、6位に沈んだ。しかし、大榎克己監督の下、徐々にチーム力がアップ。今年は2年生エース柏瀬暁、1年生のころから攻撃をけん引しているテクニシャンの柴原誠の1トップ1シャドーが軸となり、右のアタッカー石原崇兆、左の期待のルーキー藤嵜智貴、同じくルーキーながら攻守のバランサーとなる石毛秀樹など、全学年にタレントがそろった。戦いをこなすごとに力をつけていったチームは、無敗で03年以来、7年ぶりのプリンス東海の覇権奪還に成功した。

見事な巻き返し見せたG大阪ユース

神戸ですでにトップデビューしているFW小川慶治朗 【安藤隆人】

 G大阪ユースは今年は屈辱の2部スタートとなったが、「巻き返すことしか考えていなかった」と抜群の得点力でチームをけん引するFW石原雅仁が語ったように、FW原口拓人、MF水野旭ら3年生が中心となって、2部リーグを全勝で突破。高円宮杯全日本ユース代表決定戦では、神戸ユースに敗れたものの決勝進出と見事な巻き返しを見せた。
 その代表決定戦を制した神戸ユースは、最初は攻守がかみ合わず2、3節で連敗を喫し、4節終了時点でわずか勝ち点4と、苦しい立ち上がりとなったが、名将・黒田和生監督の下、徐々に立て直していく。トップデビューしているFW小川慶治朗、左サイドのチャンスメーカー峯崎聖久らが軸となる攻撃と、センターバック釘貫泰弘、アンカーの片岡爽を軸にした守備ががっちりとかみ合うようになり、来年から始まる全国リーグと高円宮杯全日本ユース出場権を手中に収めた。立正大学淞南はずば抜けた個はいないが、センターバック竹内洸、MF福島孝男、加藤大樹らがリーダーシップを発揮し、組織力は高い。
 このようにしっかりと結果を残すチームがいる中で、横浜FMユース、星稜、新潟ユース、大津など、実力がありながら不覚を取ったチームもあった。今年は全国リーグの出場権も懸かっていただけに、歓喜と落胆の格差は大きく、まさに明暗が分かれる結果であった。

 これで実質、03年からスタートしたプリンスリーグは、現行の形での終わりを迎えた。来年からは全国リーグの下部リーグという新たな側面が加わる。より門戸が広がるプリンスリーグ、果たして新興勢力は台頭してくるのか。より変化のあるリーグ戦を期待したい。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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