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ジャブラニ受難

 ワールドカップ(W杯)も終わろうとしているが、選手や専門家からは公式球への苦情が続出している。監督、選手、とくにGKは、奇妙な形をした新しいボールをつかむことの難しさを説明する。ジャブラニはズールー語で「祝杯」を意味し、南アフリカでは多くのファーストネームで使われている。しかし、W杯が始まってみると、ジャブラニは喜びより苦痛を与えることになった。


 大会が始まった時は、ジャブラニの持つパワーが問題になった。スロベニアのロベルト・コレンは「コントロールするのがすごく難しい」と言い、ナイジェリアのディクソン・エトゥフは「今までで最悪のボール」と手厳しい評価を下した。製造したアディダス社は、このボールへのクレームは選手たちがジャブラニを使い慣れていないせいだと主張する。


「ネガティブな反応に驚いた、と言うつもりはない。新しいボールができれば、選手たちがそれに慣れる必要があるということです」と、トーマス・シャイクバン国際宣伝部長は言う。

「ボールが軽いという人もいるが、それは間違いです。FIFA(国際サッカー連盟)の基準は厳しく守られています。われわれが目指していたのは速いボールではなく、安定したボールです」


 しかし、この回答は選手や専門家を納得させるものではなかった。元リバプールのクレイグ・ジョンストンは、FIFAのブラッター会長に対して、記録に基づいた12ページにわたる手紙を出している。そこにはこう書かれていたという。

「ブラッター会長、W杯の前にボール製造会社の担当者がオフィスにやって来て、こう説明したとしましょう。このボールは完全な球体です。ただ、選手には難しいボールです。過去のどんなW杯よりミスが多発するでしょう。得点は少なくなります、FKのゴールも減り、パスもつながりません、コントロールもしにくく、70%のクロスは目標に届きません。さて、この説明を受けて、会長、あなたはどうしますか?」

 ブブゼラ同様、大半の人々にとってジャブラニも大会を邪魔する存在である。高く飛んだときの軌道は極めて予測しにくく、GKにとっては恐ろしいミスを誘発する。イングランドのGKロバート・グリーンは米国戦でボールの軌道を読み損ね、一見何でもないシュートをファンブルしてゴールインさせてしまった。準決勝でウルグアイのディエゴ・フォルランが決めたミドルシュートも、GKステケレンブルフの守備範囲だった。これ以外にも、通常のボールだったら起こり得ないシーンが続発した。


 ドイツはクラブによってはジャブラニを使用していた(ブンデスリーガでは、ホームチームの契約しているスポンサーによって使用するボールが違う)。そのためにボールの特性を把握していて、ボールの進化による被害を最小限にとどめることができた。

 しかし、イングランドのプレミアリーグを筆頭に、大多数の国々にはそうしたチャンスがなかった。アディダスはブンデスリーガのボールサプライヤーだが、プレミアやリーガ・エスパニョーラのボールサプライヤーはナイキ社である。イングランドはW杯前のトレーニングでさえ、ジャブラニを使用していない。スポンサーのアンブロ社との契約で、ある期日まではアンブロのボールを使用しなければならなかったからだ。


 FIFAとアディダスのスポークスマンは、ボールへの慣れがカギだったと言う。「ボールが市場に出たのは昨年12月でした。ドイツ、アルゼンチン、米国のリーグで使用して、ネガティブな反応はありませんでしたから、W杯での使用に問題があるとは思っていませんでした。実際、ジャブラニは弊社が開発した最高のボールです」と、アディダス社は自信を持っている。


 しかし、大会中に各国GKから発せられたコメントは散々だ。イングランドのデイビッド・ジェームスは「すべての選手にとって厄介」、ジャンルイジ・ブッフォンは「軌道がまったく予測できない」と語った。不規則な変化も、それがある程度規則的ならば慣れることも可能だ。だが、毎回軌道が異なるのでは、対処のしようがないという。

「最初の日から、このボールは正しくないと思ったよ。世界最高の選手たちが集まるW杯にふさわしくないボールだ」


 いつもの通り、FIFAの見解は“消防隊員のルール”を選手たちに要求するものと言える。「FIFAの長年のパートナーであるアディダスの作ったボールであり、すでにテスト済みで証明済みである」と、FIFAメディアオフィサーのニコラス・メゴットは述べている。よろしい、ではディエゴ・マラドーナの見解をどう受け取ればいいのだろう。プレスカンファレンスで、マラドーナ監督はジャブラニには問題があると明らかにした。トレーニングでボールを蹴ったときのマラドーナの感想は「思った通りにコントロールできない」だ。マラドーナでさえ扱えに困るボールを、いったい誰が満足に操れるというのだろう。ボールに何らかの問題があると考えた方が自然ではないか。


 スペインのメディアによると、NASA(アメリカ航空宇宙局)がテストした結果、選手側に立つ結論が得られたという。つまり、時速72キロを超えると、ボールの軌道は予測できないというのだ。FIFAは9月に参加国の監督を集め、ジャブラニについて協議する予定だそうだ。ブラッター会長は最近のNBAでの出来事を想起したに違いない。


 NBAのコミッショナー、デイビッド・スターンは新しいバスケットボールから古いボールへの変更を決めていた。だが、3カ月間、新しいボールを使った時、選手から不満が噴出した。「テストの結果は、革製の従来のボールより高性能のはずだった。より多くの得点、正しいリバウンドなどの成果が確認されていた。しかし、選手の反応は常にネガティブなもので、それが最も重要な実験結果なのだ」。最終的にスターンは、こう結論づけたのだった。


<了>

ポール・ギバルシュタイン/Paul Gibersztajn

1965年10月20日生まれ。1992年よりスポーツジャーナリズムの世界に入り、主に記者としてフランスの雑誌やインターネットサイトに寄稿している。フランスのサイト『www.sporever.fr』と『www.football365.fr』の編集長も務める。98年フランスワールドカップ中には、イスラエルのラジオ番組『ラジオ99』に携わった。イタリア・セリエA専門誌『Il Guerin Sportivo』をはじめ、海外の雑誌にも数多く寄稿。97年より『ストライカー』、『サッカーダイジェスト』、『サッカー批評』、『Number』といった日本の雑誌にも執筆している。ボクシングへの造詣も深い。携帯版スポーツナビでも連載中

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