「ありえん!」ロッベン!=中田徹の「南アフリカ通信」

中田徹

2020年五輪開催を狙うダーバン

W杯を通して人々は南アフリカを今まで以上に知るようになった 【ロイター】

 25日に行われたグループリーグ第3戦のポルトガル対ブラジル戦を観戦した後もダーバンに残り、結局4泊した。初日は駅前のビジネスホテルに泊まった。スタジアムまで歩いて2キロだったが、あまりの暑さに音を上げそうになった。
 翌日から、町中から20キロ北ほどにある浜辺のB&Bに移り、乾燥したさわやかな日、雨が降ったりやんだりの日、風がものすごく降った日とダーバンのいくつかの天候を経験した。それでも共通したのは、毎日暖かかったこと。南アフリカの季節は今は冬だが、それほど海水も冷たくないのだろう。泳いでいる人もいた。
「一番暖かなワールドカップ(W杯)開催都市」。それが今大会のダーバンのキャッチフレーズである。

 2020年の五輪開催を狙っているダーバンだが、W杯を今回開いたことによって、より開催権獲得の意欲を高めているという。ポルトガル対ブラジルのコラムで、「ダーバンはいくつかの競技施設があるにもかかわらずスタジアムを新設した」と書いた。今回W杯のために作られたダーバン・スタジアムの周辺には立派なクリケット場、ラグビー場、競馬場がある。かつてのダーバンはイギリス人の影響が濃かったため、スポーツ施設のインフラが整えられたのだという。
「今回作ったダーバン・スタジアムを有効的に利用しないといけないのも五輪招致の理由の1つ。しかし古いなりにもスポーツ施設が整っているダーバンなら、施設の改修で多くの競技が賄え、IOC(国際オリンピック委員会)が目指すコンパクトでお金のかからない五輪を開くことができる」と現地在住者は言う。

国への誇り

 五輪やW杯といったビッグイベントを開催するには、競技施設以外にも“交通”、“通信”、“宿泊”が重要だと言われている。
 交通に関しては、少なくともダーバン・スタジアムへのアクセスはとても便利だ。すぐ横には鉄道駅がある。町中から歩いても20分程度。今大会はスタジアムまでの車の乗り入れを徹底制限しているが、そのおかげで試合後の渋滞はなく、電車、シャトルバス、徒歩で観客は町や駐車場へ戻って行く。
 通信は、このインターネットの時代、もはや問題がある立候補都市を探す方が難しいだろう。
 宿泊については、「ホテルやB&Bの数がダーバンは少ないかもしれない」と事情通は言う。「それでも南アフリカの白人の住居というのは、ヨーロッパ並みかそれ以上に立派。だから看板を掲げていない“にわかB&B”がW杯でも出てきて、ヨーロッパから来る客はインターネットでそれを探して泊っている」とのことだ。

 また、オーストラリアのサポーターは、ダーバンにある古いスタジアムを借り切って、スポンサーからテントを提供してもらって泊っていたそうで、とても盛り上がっていたとのことだ。ダーバンなら洋上に船を浮かべてホテルにすることもありだろう。今回のW杯は大陸持ち回り制を採用していた時期に決まったのだが、五輪は「南アフリカはW杯を開催した。アフリカ初開催となる五輪も南アフリカで」という流れもあり得るシナリオだそうだ。

 となると、われわれにとって心配なのが治安だ。今回は旧市街を歩かなかったので、その辺の治安を肌で感じることはできなかったが、少なくとも観光客が集まる海岸沿いはそれほど問題なさそうだった。とはいえ、僕も自衛のためファン・フェスタでは16時からの試合だけを見て、夕食を町で食べた後はまっすぐB&Bへ帰り、20時半からの試合は部屋で見ていた。現地で生活する人からすると、「ダーバンはコソ泥のような人はいるけど、それは世界どこでも同じ。人殺しのような物騒な事件は少ない。生活していて危険は感じない」とのことだ。

 また徐々にではあるが、南アフリカの住民にも「国への誇り」というのが芽生え始めており、自治体は「あなたたちが悪いことをすると、それは五輪招致活動に悪い影響を与える」と啓蒙(けいもう)活動をし、案外それが影響を与えているみたいなのだ。
 東京、広島も開催に意欲を燃やす2020年の五輪だが、南アフリカからはダーバン以外にもケープタウンが開催をもくろんでいる。ダーバンもケープタウンも、気候は穏やか、山あり海あり、観光施設が整っており、治安もそれほど悪くない。W杯開催で自信もある。五輪に向けて、彼らの動向は今後楽しみだ。

「ありえん!」

ロッベンの得意とするシュートが決まる 【ロイター】

 さて、28日に行われたオランダ対スロバキア戦は、オランダが手堅く2−1で勝ち、準々決勝でブラジルと戦うことになった。
 スロバキア戦で「ありえん!」と驚かせたのが、ロッベンの復活弾である。5日の壮行試合、対ハンガリー戦での負傷でオランダ国民を凍りつかせたロッベンだったが、驚異的な回復を見せ本大会第3戦のカメルーン戦で約20分間プレーし、その4日後のスロバキア戦では待望の先発出場を果たし、70分間プレーした。カメルーン戦もスロバキア戦も得意のカットインシュートをさく裂させ、うち1本はポストを直撃し、もう1本は貴重なゴールとなった。開幕から2戦、「ロッベンがいないとオランダはクリエーティビティーがなくなる」とドイツ紙はオランダを酷評したが、確かに彼がいるオランダは攻撃のアイデアが3割増しする。

 そんなわけで29日の日本対パラグアイ戦を観戦するため、プレトリアへ移動する。早朝のダーバン空港でチェックインし、落ち着いた気分で現地通貨「ランド」をキャッシングする。財布はいっぱいになった。ゆったりとした気持ちで搭乗を待っていると、キャッシュカードをディスペンサーにさしっ放しだったことに気づいた。ATMマシーンに戻ると、ああ、もうキャッシュカードはない。レシートを見ると30分前にお金を引き出したのだから、誰が持っていても自分が悪い。仕方なく証明書を作ってもらうために交番に行くと、すでにキャッシュカードが届けられていた。
「南アフリカでこれはありえん!」と叫んだのは言うまでもない。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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