マリナーズ、戦力補強でプレーオフ進出は可能なのか?=トレードによるメッセージとマイナス面

丹羽政善

ブラニャンがマリナーズ復帰

09年、キャリアハイの31本塁打を放ったブラニャンがマリナーズに復帰した 【Getty Images】

 マリナーズが初めてプレイオフに進出した1995年、チームは8月に入って、ビンス・コールマンを獲得。その日――8月15日(現地時間)、地区首位を走るエンゼルスとは12.5ゲーム差もあったが、そのトレードが「われわれはあきらめていない」というフロントの意思表示となり、意気に感じた選手らは、最後の最後でエンゼルスをとらえたという。

 マリナーズは6月26日深夜、昨季キャリアハイの31本塁打を放ったラッセル・ブラニャンをトレードで獲得したが、狙いは同じ。それは、「まだあきらめていないぞ」というフロントのメッセージそのもの。

 が、トレードが成立したとき、レンジャーズとの差は14ゲーム。15年前の8月時点での12.5ゲーム差に比べればまだ可能性はあるが、あの年はケン・グリフィーも8月15日に復帰しており、伸びしろは今回と比較にならない。

 ブラニャンのインパクトを論じる以前に、地元メディアは将来を約束されたイズキール・カレラというマイナー選手を放出したことに反発している。シアトル・タイムズ紙のジェフ・ベイカー記者は、「14ゲーム差でこのトレードをするか?」とブログ上で疑問を投げかけていた。

 彼も含め、ファンらは、ビル・バベシ前マリナーズGMが行ってきたこの種のトレードに対する拒絶反応が強い。今回もトレード相手となったインディアンスには、秋信守、アスドルバル・カブレラという元マリナーズの選手がいる。「同じ間違いを繰り返すのか?」といった声に不思議はない。

クリフ・リーのトレード話も…

 いずれにしても、ブラニャンを獲得したことで、このところ盛り上がっていたクリフ・リーのトレードの話題はしばし凍結か。

 先週、メッツがジェンリー・メヒア投手とアンヘル・ペイガン外野手を交換要員として考えているという報道があって、シアトルメディアもそれに乗った。

「その2人ならマリナーズも断れないだろう」と。

 ペイガンは決してフランクリン・グティエレス級ではないが、メシアはリーグでも指折りのプロスペクトとされる。

 今年春のキャンプ。練習後のクラブハウスで、マイク・カープが一昨年まで所属したメッツのオープン戦に見入っていたので、横に並んで時代遅れのブラウン管を見つめていると、彼がこう話しかけてきた。

「すごいぞ、この投手は。見ててごらん」

 振りかぶる。投げる。一連の動きにさほど力感はない。が、表示された球速は97マイル(約156キロ)。

「もっと出るから」

 さすがに2月の終わり。100マイルは出なかったと記憶するが、スムーズにリリースされたボールは、コンスタントに97マイル前後を記録した。

「だろ?」

 カープは自分のことのように胸を張った。

 並行して、ツインズがウィルソン・ラモスというマイナー選手を柱に、リーとのトレードを画策していると報じられた。捕手の有望株だが、ツインズにはジョー・マウアーがおり、昇格が厳しい。逆に、正捕手のいないマリナーズには魅力――。

 どちらのトレードを選択したとしても、シーズン後にはフリーエージェントとなって移籍が確実視されるリーの去就を考えれば、現実派に抵抗はない。オールスター前にもリーのトレードが決まるとの憶測もあったぐらいだから、今回のブラニャン獲得は、メッツやツインズも、虚をつかれたか。

プレーオフ進出ラインは?

 ブラニャン獲得にひざを打った理想派は、彼の加入でオフェンスが刺激され、チームがプレーオフ争いに加わる。それは無理でも、後半戦で来季につながる戦い方を見せられれば、リーも残留の意志を固め、来季以降の長期契約をオフに結ぶ――というシナリオを思い描いている。

 まったくの夢ではないが、トレードするかどうかの決断にタイムリミットがあることが厄介。7月31日までに、リーの意志も含め、明確な線が見えるのか。

 マリナーズは16日から6連勝を飾ったが、それがかえって状況を複雑にしたともいえる。ブラニャン獲得を決めたのも、そこに一縷(いちる)の望みを見たからだろう。

 ただ、現実的な問題に話を戻せば、27日の試合も落として、首位との差は15ゲーム。試合数はまだ半分以上残っているが、どう計算しても甘くはない。

 レンジャーズは現在46勝29敗。残りは87試合。マリナーズは31勝44敗。残りは同じ87試合。

 仮に、レンジャーズが残りを44勝43敗でいくとしよう。すると最終的な勝敗は90勝72敗。マリナーズが90勝しようと思ったら、残り87試合を59勝28敗で乗り切らなくてはならない。その場合の勝率は6割7分8厘。

 もう少しレンジャーズがハードルを上げて、地区の優勝ラインが93勝となった場合、マリナーズは残り試合を62勝25敗――これからの3カ月で37も貯金しなくてはならない。

 そこにはつまり、どんな物差しを当てても、「まだまだ」という言葉がうそっぽく響く。

 可能だとしてもレンジャーズがペースを落としてくれる保証はなく、エンゼルスもまた上昇傾向。若手のカレラをあきらめて、ブラニャンを獲る理由はあるのか、という前出のベイカー記者のポイントもそこにある。

 ブラニャン獲得でマリナーズは、リーの去就、チームの将来性、今季の行方を考えたとき、リスク承知でわずかな可能性に賭けたのか、ある程度の勝算があって動いたのか。――そんな微妙な揺れの中で、ジャック・ズレンシックGMが大胆な舵(かじ)を切った。

<了>
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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