インディー格闘家・入江秀忠、メジャーへの道 FINAL ROAD 

入江秀忠

インディー格闘家・入江秀忠が41歳にして念願のメジャー団体デビュー 【t.SAKUMA】

 生きることと、夢を追い続けることは俺にとってイコールである。生きているかぎり、たとえいくつになろうとも一つ、また一つと目の前にある目標を越えて行きたいと考えている。それがどんなに困難な道になろうとも。

 だけど、本当に長かった。

 メジャー挑戦を表明してどれぐらいの月日を重ねただろうか? このメジャーへの道も、このまま100作ぐらいまで永遠に書き続けるはめになるのではと、真剣に思い始めていた矢先の出来事であった。

 今春に死に場所を求めて各団体に郵送した“格闘家としての遺書”をSRC側が真剣に協議してくれ、いろいろなすったもんだがあったのだろうが参戦に値するとついに決断をくだしてくれたのである。
 それを聞いた時は当の本人もしばらくは呆然としていたのだから、かなりの大英断だったのではないかとお察しする。

川村の言葉が“悔み”として残る

対戦相手の川村(右)の言葉が、“悔み”として残った 【スポーツナビ】

 そしてそれから数日が立ち、暦も5月中旬に入ったころついに“インディー格闘家”のメジャー参戦発表の日がやってきた。俺はきっちりこの晴れの日にスーツに身を包み、ワールド・ビクトリー・ロードがある中目黒に降り立った。
 記者会見前に同社の向井(徹)社長にごあいさつしてから、案内された控え室で待機していると菊田(早苗)選手がやって来た。
 しばし談笑していると、となりのガラス張りの向こうには川村(亮)選手の顔がチラリと見えた。まわりの環境がだんだんと整う中、あーこれはメジャーの会見なのだなとひしひしと感じられ、いままでにないような緊張を感じた。
 もうすぐ業界から「1000パーセント、いや10000パーセントない!」とまで言われた、俺のメジャーデビューが現実のものになろうとしている。
そしてまもなく俺たちは会見場に吸い込まれていった。

 目まぐるしいフラッシュと報道陣の数の中会見がはじまり、たんたんと進行が進む中、菊田選手コメント、そしてその後川村選手の言葉を聞いていた。

「入江選手は実力者だと思います」
 川村選手は他にもいろいろ話はしていたのだろうが、なぜか俺の中に大きなプレッシャーと、そして“悔み”としてこの言葉が心に残った。
 もし、5年前なら……もう5年早くメジャーのリングに上がっていたら……もっと最高の自分が出せたもしれない。

 俺は川村選手の試合を見たことがあった。それは、旧キングダムの大先輩である金原(弘光)さんとの試合。熱く殴りあい会場もヒートアップさせる二人に、とことん格闘家としての本能を目覚めさせられた。
 あれから3年か・・・本当に彼とリングで向かいあうことになるとは…

 そうこうしていると俺がコメント言う順番が回ってきた。
 俺は少し迷ってはいたけれど、今回はDEEPなどで馴染みのある、いつものキャラクターにはならないでいた。ここは実力者のみが集う場所、それのみを見せればいい。

 俺は報道陣に静かに口を開いた。いくつか口ごもる部分もあったけれど、真剣に今の気持ちを語ったつもりだ。それは、旧キングダムが崩壊してずっと今まで夢見てきたシーンだったかもしれない。いつもの甲高い声の乱入も、会見途中でのそうじ用具入れのロッカールームから突然俺が登場するパフォーマンスも、もう佐伯(繁DEEP代表)はどこにもいなかったけど、俺はこの日この時、確かに目標「メジャー」にたどりついた。

まさに四面楚歌、インディーの苦労

“格闘技界1の問題児”を自認する入江は、“悪友”佐伯DEEP代表(右)が主催する大会で過激な試合をやった過去も 【t.SAKUMA】

 会見のあと、俺は足早に中目黒を去った。あとは何も考えずに練習すればいい。思えば、本当に“いばらの道”とはこの事だった。

 修斗から、当時まったく畑違いの旧キングダムに入団。入団してみたはいいが、なんと団体は1カ月ももたず崩壊の憂き目に合ってしまう。
 その後は団体運営の事など何も分からないまま格闘技団体の社長に就任してしまい、格闘技界のはぐれ者の選手達を集めて、ガラガラの北沢タウンホールでキングダムエルガイツを旗揚げした。

 あれから10数年、選手としてはかなり“やらないでもいい”苦労をしてきた。伝統だけはある団体だっただけに、俺にはつぶすことも、そこから逃げ出す事もできない。大手のプロモーションに選手派遣を依頼しても旧団体崩壊時の諸問題が解決してない場合が多くて、しかめっ面はされても決して笑顔で迎えられる事はなかった。まず、団体としてクリーンなイメージと信用を取り戻す事が先決であった。

 俺は選手としての一番良い時を、練習や試合よりありとあらゆる雑用に費やすしかなかったのだ。心にたまったものを吐き出せばきりはなかった。
 
 えーい、もう最後の試合になるかもしれないからぐちってもいいかな!!

 俺は20後半から、30代中ころまで誰にも負けない自信があった。それはプロレス団体の流れを継ぐキングダムを、格闘技側の人間から色眼鏡で見られないように様々な所に出稽古に出向き実力も証明してみせた。どこの団体にも「入江は弱い。キングダムは弱い」と絶対に言わせはしなかった。

 それが裏目にでた。

 いろいろな所で、「入江という無名なのだけど、すごく強い奴がいる!」という事がうわさになり“おいしくない相手”として誰も俺との対戦を受けてもらえなくなってしまったのである。

 何度もリングに上がらせてくれと大手プロモーションに頼むのだが、なんの大きな後ろ盾もなく、実際にリングに上がる聞いたこともない無名の選手が自分自身を売り込むのだから、アポイントを取ろうとしても電話口で担当者にせせら笑われるか、あいつは頭がおかしいと陰口を叩かれるか、しまいには「本当にシュートできるの?」と聞かれる始末である。

 まさに四面楚歌。
 普通にやっていたら、このままずっと暗闇な中でもがき苦しむしかない……だったら普通にやらなければいい。

 この発想から“格闘技界1の問題児”は誕生するのである。
 そう呼ばれるまで、思い起こせばいろいろな事をやらかしてきたものだ。“悪友”佐伯が主催するDEEPでは“ヒジ・頭突き・金的有り”の世界1過激なエルガイツルールを休憩中にやったり、2日間で格闘技史上初となる3興業3連戦を強引に敢行した。
 メジャー進出を念頭に置いてからは、こと大手団体の会場前でアポなしで署名活動したり、各団体・各プロモーションに出向き「入江劇場」と言われる乱入を繰り返してきた。
 いろいろと賛否両論はでたのだが、俺に対する認知は「入江? あ〜、あのアホか」といろんな意味で格段に上がってきた。

 どんなに馬鹿にされてもいい……這いあがるために誰もやらないことをやるんだ。

 しかし、こういうキャラでも試合では真剣に戦った。俺たちインディーは負けると誰も擁護してくれない。一度負けると10回は負けたかのように言われ続けるのである。ただ、ただ道なき道を勝ち進むしか方法はないのである。

やっとのことでたどりついた未開の地「SRC」

ようやくたどり着いた念願の舞台で、入江はすべてをかけて戦うつもりだ 【スポーツナビ】

 そして長い月日が過ぎて老兵は日々老いていき、生傷も体中に増え、精神的にも肉体的にもボロボロになって、もはやこれまでか? とあきらめかけた時、やっとのことでたどりついた未開の地こそがSRC(センゴク・ライデン・チャンピオンシップ)だったのである。まさに映画にたとえるなら、エンディングも終わり出演者達のエンドロールが流れている状態といっていい。

 今大会に向けてのかなり厳しい特訓の毎日にも耐えぬいたつもりだ。ここまではい上がってきた事への思いと、団体崩壊時には1人だった俺を、今はたくさんの人達が支えてくれることを考えれば、まだきっと俺はやれるはずだ。
 体は絶えず痛みを訴えてくるのだが,最高のコンディションでリングに上がらなければ対戦相手にも失礼になる

 そして、そのリングで待つのはライトヘビー級キング・オブ・パンクラシストの川村 亮。日本人無敵の王者だ。間違いなく今までで最強の対戦相手だといってもいいだろう。

 だけど、とにかく俺は這い上がってきた。

 かなりの遠回りはしてしまったが、俺は念願だったあの旧キングダムの聖地、代々木第2体育館で流れていた“キングダムのテーマ”で入場し、メジャーのリングで戦うことができる。

 平成22年6月20日 SRC13 両国国技館。
 俺はこの日の3日前、41回目の誕生日を迎える・・・

 今までの思いも、忘れ物もすべて持って俺はリングに上がる。
                       
キングダムエルガイツ  入江 秀忠

「SRC13」

6月20日(日)東京・両国国技館 開場13:00 開始15:00

<メーンイベント SRCフェザー級チャンピオンシップ 5分5R>
[王者]金原正徳(パラエストラ八王子/チームZST)
[挑戦者]マルロン・サンドロ(ノヴァ・ウニオン)

<セミファイナル SRCライトヘビー級ワンマッチ 5分3R>
泉 浩(プレシオス)
イ・チャンソブ(CMA KOREA/亀尾異種格闘技ジム)

<第7試合 SRCウェルター級ワンマッチ 5分3R>
菊田早苗(GRABAKA)
Yasubei榎本(Enomoto Dojo)

<第6試合 SRCライト級ワンマッチ 5分3R>
真騎士(SRC育成選手)
ホドリゴ・ダム(アライアンスBJJ)

<第5試合 SRCウェルター級グランプリシリーズ2010 1回戦Aゾーン 5分3R>
中村K太郎(和術慧舟會東京本部)
オマール・デ・ラ・クルーズ(ドミニカ共和国/Fight Training Academy)

<第4試合 SRCウェルター級グランプリシリーズ2010 1回戦Aゾーン 5分3R>
和田拓也(SKアブソリュート)
イ・ジェソン(韓国/CMA KOREA/TEAM POSSE)

<第3試合 SRCフェザー級ワンマッチ 5分3R>
大澤茂樹(SRC育成選手)
戸井田カツヤ(和術慧舟會トイカツ道場)

<第2試合 SRCフェザー級ワンマッチ 5分3R>
臼田育男(木口道場)
カン・ギョンホ(韓国/CMA KOREA/Team MAD)

<第1試合 SRCライトヘビー級ワンマッチ 5分3R>
川村 亮(パンクラスism)
入江秀忠(キングダムエルガイツ)

<オープニングファイト第2試合 ライト級 5分2R>
徳留一樹(パラエストラ八王子)
石塚雄馬(AACC)

<オープニングファイト第1試合 ミドル級 5分2R>
一慶(チーム・クラウド)
ナム・イェウォン(韓国/CMA KOREA/大田チーム FINISHジム)
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著者プロフィール

1969年6月17日 生まれ。長崎県出身。キングダムエルガイツ代表。インディ格闘家・プロレスラー

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