ひとつになれた日本代表=宇都宮徹壱の日々是世界杯2010(6月14日@ブルームフォンテーン)

宇都宮徹壱

日本の勝利を支えた4つのポイント

チームとしてひとつになった日本が、本田のゴールでカメルーンを下した 【ロイター】

 さて試合内容については、今さら多くを語る必要はないだろう(念のために記すなら、日本は前半39分、本田のゴールが決勝点となり1−0でカメルーンに勝利)。ここでは日本の勝因について、ポイントを絞って言及することにしたい。私が考える勝因は、以下の4点である。すなわち――
(1)日本のカメルーン対策が明確であったこと
(2)コンディションの良い選手を適材適所で起用したこと
(3)ディフェンスの集中が最後まで途切れなかったこと
(4)チームが「ひとつになれた」こと
 以下、それぞれ振り返ってみることにしたい。

 まず(1)について。カメルーンの強みは、エトーを中心とする強力3トップ。そして弱みは、若いセンターバック(20歳のヌクルと23歳のバソル)、そしてカメニに代わって抜てきされたGKスレイマヌの経験不足、およびコンビネーションの欠如である。
 前者について「やはりあまり前から行きすぎると、向こうもガンガンくる展開になる。ある程度、持たせてからプレッシャーをかける方が得策」(岡田監督)というプランが、そのままうまくはまった。後者については、前半からGKとセンターバック間のミスを誘発させるようなクロスやサイドチェンジを積極的に加えることで、彼らは想像以上にバタつきを見せていた。前半39分の松井のクロスによる本田のゴールも、そうした伏線があったがゆえの感動的なゴールであったと見るべきであろう。

 次に(2)について。(1)で挙げた相手の弱点を突くべく、岡田監督は左右のMFに大久保と松井を起用した。いずれも得点能力が高いわけではないが、縦で勝負する意識が強く、スピードもあり、そして何と言ってもコンディションが非常に良かった。これらの要素は、カメルーンのディフェンス陣に揺さぶりをかける意味では極めて有効である。と同時に、上記の条件に最も適さなかった中盤の選手が、誰あろう中村俊であった。その意味で、日本の10番に全く出番が与えられなかったのは、ある意味必然だったとも言える。
(3)については、それほど多くの説明は必要ないだろう。イングランド戦でも、コートジボワール戦でも、不運な失点(オウンゴール)こそあったものの、基本的に及第点を与えられるだけのレベルには達していたからだ。この日の試合ではさらに、守備の意識が最後まで持続したこと、そして闘莉王が不用意な上がりを見せることなく、しっかりとディフェンス面で貢献できていたことを指摘しておきたい。

ひとつになれた日本と、なれなかったカメルーン

試合後、勝利の喜びを爆発させる日本サポーター。彼らは間違いなく「勝ち組」であった 【宇都宮徹壱】

 そして(4)である。実はこの要素が、日本とカメルーンとの明暗を、最も如実に分けていたように思えてならない。いみじくも、この日のマン・オブ・ザ・マッチに選出された本田は「自分たちの強みは団結力だと思う」と語っている。

 ではカメルーンの場合は、どうだったか。実のところ、エトーをはじめとするベテラン選手とルグエン監督との間では、かねてより対立が表面化していた。一方でルグエンは、極端な「若手重視」の方針を掲げ、結果としてポジションの要所に経験の少ない若い選手を据えるようになってしまった。こうした経緯が背景となり、ルグエンはチームの掌握に苦慮することとなり、それはまた現地メディアにおける格好の批判の対象となってしまった。要するにルグエン率いるカメルーンは、個々の能力では日本を上回っていたものの、チームとしてはバラバラだったのである。

 もちろん日本の場合も、コートジボワール戦後に「チーム内での溝が深まった」とか「亀裂が入った」といった報道が少なからずなされていた。もしかしたら、実際に監督対選手、あるいは選手同士の間で何かしらの対立や葛藤はあったのかもしれない。それでもこの日の試合に関して言えば、選手間での意志統一はしっかり取れていたし、なおかつ岡田監督の敷いた戦術に対して忠実で、それぞれが最大限の力を発揮していた。それだけ日本は「ひとつになっていた」のである。
 ついでにいえば、試合前の国歌斉唱に際して、スタメンもベンチも全員が肩を組んで『君が代』を歌ったことについて、実は選手側から提案されていたことを岡田監督は明らかにしている。これまたチームが「ひとつになっていた」ことの証しであろう。思うに彼らは、自分たちよりも戦力的に優れていた4年前の代表に何が欠けていたかを、強く意識していたに違いない。

 いずれにせよ、日本は大切な初戦で勝ち点3を得ることに成功した。もちろん、当の岡田監督が語っているように、「われわれはまだ、何も手にしていない」。グループリーグ突破まで、まだまだ気が抜けない戦いが続くのも事実である。だが少なくとも、これで私たちは3戦目の対デンマーク戦までを楽しむ「担保」を手にしたわけである。しかも次のオランダ戦は、真剣勝負で当たって砕けることも、超守備的に臨んで0−0を目指すことも、さらには2軍メンバーで試合を捨てることも、いずれも可能なのである。これほどの選択肢を持ちながらグループリーグを戦えるというのは、4年前にはまったく考えられなかったことだ。

 今後の日本サッカーの進化を考えれば、今日の勝利は「小さな一歩」だったのかもしれない。それでも現時点では、とてつもなく大きな意味を持つ勝ち点3であったことは、誰もが認めるところであろう。岡田監督率いる日本代表が、私たちにもたらしてくれたものの重みは実のところ、今後の2試合を経て初めて実感できるものなのかもしれない。ともあれ、国内でテレビ観戦している皆さんも、大いにこの大会を楽しもうではないか。何しろ、現時点の日本には「ベスト4」を含む、あらゆる可能性が秘められているのだから。

<この項、了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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