デ・ロッシが導く世界王者への道=イタリア代表2連覇達成の鍵を握る男

「(前回大会の)成功を繰り返したい」と話したデ・ロッシ 【Getty Images】

 イタリア代表のダニエレ・デ・ロッシはワールドカップ(W杯)2連覇に並々ならぬ意欲を見せる。彼はかつて代表の中心的役割を担ったデルピエロ、トッティらに象徴されるようなファンタジスタではない。華麗なテクニックではなく、気迫溢れるプレーでチームをけん引するファイターだ。
 思えば、デ・ロッシは前回大会の優勝メンバーでありながら“消えた選手”でもあった。グループリーグの米国戦では、相手選手にひじ打ちを食らわすという悪質な反則により、4試合の出場停止処分。22歳(当時)という若さが裏目に出たものなのか、それともハードマークを売りとするプレースタイルが生み出した偶然の結果だったのか。いずれにしろ、前回の優勝チームにデ・ロッシの存在感は希薄だった。
 あれから4年――精神的にも成長してチームリーダーとして活躍する男の姿が、イタリア代表にある。決して前評判は高くないが、“アズーリ”(イタリア代表の愛称)が再び世界王者になるために、14日のパラグアイ戦から新たなる戦いが始まる。

2006年のタイトルを防衛できる力がある

――W杯を迎えるイタリア代表の状態はどう?

 期待感に溢れているよ。チームには2006年のタイトルを防衛できる力があると思っている。選手を入れ替える必要はあったけど、僕はチームから4年前と同じ欲求を感じている。あの成功を繰り返したい。

――イタリアの障害となる2つのデータがある。イタリアは初優勝後、優勝した次の大会で輝いた例がない。そして欧州のチームは、欧州以外でのW杯で優勝したことがないことだ

 なるほど、もしその通りなら僕らはプレーしない方が良さそうだね(笑)。でも僕はそういったことはあまり信じないんだ。試合はプレーしてみなければ分からない。どうなるかはその後に分かるものさ。

――もう1つ、前回大会以降の4年間で一度もパフォーマンスが安定しなかったという重要な問題点もある

 それは当たっている。マルチェッロ・リッピが代表監督を続けたくないと発表した時は大きなショックで、少しチームの士気が下がった。その後就任したロベルト・ドナドーニは溢れんばかりの熱意を僕らに伝染させていったけどね。ユーロ(欧州選手権)2008ではすべてがうまくいったわけではなかった。準々決勝に進むことはできたけど、PK戦の末スペインに敗れた。その後はリッピが復帰し、良い形で10年W杯への予選を戦うことができた。

――君にとって、イタリアが06年の強さを取り戻すための鍵は何だろう?

 あの時のチームは素晴らしかった。鍵となるポジションに鍵となる選手がいて、みんなが完ぺきな形で期待に応えた。安定感を保証したGKのブッフォン、ネスタ離脱の緊急事態をカバーした驚くべきストッパーのカンナバーロとマテラッツィ、ガットゥーゾとピルロの信じられないデュオ、サイドからゲームを作るカモラネージ、トッティとデルピエロのタレント、FW陣の働きなどもね。もしこれらのパフォーマンスを繰り返すことができれば、イタリアはもう一度遠くまでたどり着けると確信しているよ。

イタリアが4度も優勝経験があるのは偶然ではない

――君はレアル・マドリーの興味の対象となっており、今夏の大型補強の1人となる可能性がある。近い将来にこれだけ重要な変化が待っている状態で、落ち着いてW杯に専念することはできるものだろうか?

 正直、レアル・マドリーでプレーできるチャンスを得られるのは大歓迎だ。何年か前にも移籍に近づいたことがあったけど、当時は実現しなかったので再びチャンスを逃したくない。でも、イタリア代表にいる間はそのことを考えることはできないし、それは大きな過ちとなりかねない。今、優先すべきはW杯なんだ。クラブのことを考える時間はその後にある。

――だけど、W杯の結果次第で君の未来も変わりかねないのでは?

 そうかもしれないけど、それも間接的な原因にしかならないだろう。W杯の1カ月間にやったことだけを見てレアル・マドリーが僕に興味を持つとは思わない。南アフリカでのプレーがすべてを制限することにならなければいいと思っている。

――リッピは変わったと思う?

 彼は常に穏やかな人で、周囲に大きな落ち着きをもたらしてくれる。それは選手にとってとてもありがたいことなんだ。彼は十分すぎるほど、僕らのことをよく理解している。ちょっと見るだけで僕らがどんな気分か、何を考えているのか分かってしまうんだ。

――自分たちのグループをどう見ている?

 パラグアイと僕らが、決勝トーナメント進出の候補だと言わなければ誠実じゃないだろうね。でも、それは机上の理論であり、実際は試合を戦ってみないと分からない。

――“南米のイタリア”(パラグアイ)と対戦することについては?

 パラグアイは非常に厳しいチームで、予選で素晴らしい戦いを見せたことは知っている。空中戦という大きな武器もある。注意しなければいけないね。

――今回、イタリアはもう少し攻撃的なプレーを見せてくれるのだろうか?

 僕らには僕らのスタイルがある。それは代表だけでなく、国内リーグでも見られているものだ。でもそれは言われているような“カテナチオ”(カンヌキを意味し、イタリアの鉄壁の守備を指す)ではなく、前回大会の準決勝ドイツ戦で見せたようなリスク回避を伴ったプレーなんだ。常にできるわけではないけど、可能性があれば数メートル前方でラインを止めることもある。イタリアが4度も優勝経験があるのは偶然だとは思わないよ。

<了>

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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