高橋尚成が立ち向かう初めての試練=メジャーリーガーとしての真の勝負へ
2試合連続ノックアウト
先発ローテーションの一角を勝ち取ったメッツの高橋尚成 【Getty Images】
渡米以来最悪の内容だった5月31日(現地時間)のパドレス戦(4回で8安打6失点)の後を受け、必勝を期して臨んだ6月6日のマーリンズ戦。5回まではわずか2安打1失点とうまく立ち回りながら、6回表に突如として崩れた。
打順が3回り目を迎えたこの回に相手の中軸にとらえられ、5安打を集中されて4失点。最後はコーディ・ロスに2ストライクと追い込んでからレフトスタンドにたたき込まれ、結果的に2試合連続KOという形になってしまった(その後にチームが逆転勝ちし敗戦投手は逃れる)。
「低めに投げられていたと思うし、5回まではゲームをつくれていた。それが6回は慎重になり過ぎたところもあってか、もったいない点の取られ方をしてしまった」
試合後の高橋本人のコメントからも悔しさがにじんだ。5回までの投球内容は今季最高と思えただけに、とりわけ残念な結末だったろう。そしてその崩れ方が急激だったゆえに、今後に一抹の不安を感じさせたのも事実である。
慣れられると厳しいのか?
マーリンズの4番打者、ホルヘ・カントゥは高橋とのマッチアップをそう振り返った。基本的には称賛しながらも、しかし相手の主砲の言葉は現時点での高橋の限界を指し示したようで興味深い。実際に最初の2打席目まではタイミングが合わずに凡退したカントゥだったが、第3打席にはタイムリーヒットを放っている。
果たしてジェリー・マニエル監督も、試合後にカントゥをほぼ同じ趣旨のコメントを残していた。まず「全体的にはいいピッチングをしてくれていた」と前置きしながらも、「相手打線にうまくアジャストされた。今後は2、3巡目以降は打者への攻め方を変えて行く必要があるかもしれない」と語ったのだ。
もともと打者を圧倒するほどの球威はない高橋は、スライダー、カーブ、シンカーといった持ち球を丁寧にコントロールすることで活路を開いてきた。
だが、好投している間ですらも「相手に慣れられたら苦しいはず」と見る記者、ファンは少なくなかった。些細(ささい)なミスが命取りになりがちな投球スタイルは元から。そして同じチームと対戦の数を重ねるごとに、コントロールミスを見逃してもらえる可能性はどんどん低くなるのだろう。
「メジャーの中でも最高級の制球力」
もっとも、クレバーな投球が持ち味の高橋本人も、マークが厳しくなるのはもちろん承知している。
「もう自分がどんなピッチャーかというのは(相手も)分かっているだろうし、その中で結果を出していかなければいけない。次にチャンスをもらえたら、同じ失敗しないように」
そんなシンプルなセリフの中に、雪辱への気概がにじんだ。先ほど「限界」という言葉を使ってしまったが、しかし実際には「慣れられるまでの好投」が高橋のリミットだとは限らない。馴染みの顔となった後、今度はどんなアジャストメントをしてくるか。それこそが、メジャーリーガーとしての真の勝負である。
かつてマニエル監督は、高橋について「春季キャンプの時点では何を期待すれば良いのか分からなかった」と正直に語っていた。しかしそんな無印の状態から、35歳の左腕は懐疑の声を次々にはねのけてここまでたどり着いた。そして5月26日のフィリーズ戦時には、同じマニエル監督から「高橋はメジャーの中でも最高級の制球力の持ち主」と絶賛されるまでになったのだ。
そんなこれまでの道のりを思い返せば、2度の失敗であっさり見限るのは早過ぎる。開幕からアップ&ダウンを繰り返すメッツの中で、うれしい誤算として輝いてきたベテランの、さらなる打開策に注目である。
ハネムーンは終わっても物語は続く。「アメリカンドリーム」の続編から、まだまだ目を離すべきではない。
<了>
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