金久保、大宮に現れたニューヒーロー=新監督の下で“未来のエース”が躍動

土地将靖

監督交代とルーキー抜てき――未来のエース誕生

ルーキーの金久保は監督交代直後の京都戦で勝利に貢献。未来のエース誕生を予感させた 【写真提供:大宮アルディージャ】

 成績不振から、鈴木淳新監督の下でリスタートを切った大宮アルディージャ。「外から見えることと中に入って見えることはまったく違う。まずは今までやってきたことをベースにしていきたい」と指揮官が語った直後の京都サンガF.C.先発メンバーは、1人を除いて従来の構成からそう大きく外れたものではなかった。

 決して大きくはない、むしろサッカー選手としては小柄な体格ながら、激しく自己主張する存在感。パスを引き出そうとセンターバックのすぐ手前まで顔を出し、サイドへパスを散らし、あるいは中央へ切り込んでフィニッシュに飛び出していく。そのたぐいまれなサッカーセンスと豊富な運動量で鈴木監督に抜てきされたその「1人」が、ルーキー金久保順だ。
「カップ戦で先発していたので特に余計な意識はなかったですけど、今日は自分個人どうこうよりも、チームとして絶対に勝ち点3を取らなくちゃいけない試合。それが達成できて良かったと思います」

 シーズン途中での監督交代劇、その直後の試合でリーグ戦初先発を果たし、開幕戦以来の白星に貢献した新人のコメントとしては、らしからぬ落ち着きぶりだ。
 鈴木監督は「悪くなかったと思いますよ。チーム全体の中で、あるいは京都の選手と比べた中でもパフォーマンスは良かったんじゃないかな」と及第点を与えたが、金久保は自身のプレーを冷徹に分析した。
「まだまだミスが多い。守備で迷惑をかける分、攻撃に関してはもっと中心になって、存在感を出していかなくてはいけないと思っている。自分としては全然良くなかった。前へ前へというイメージを強く持って試合には入ったんですけど……点を取りたかった」

 前半9分に橋本のクロスに頭から飛び込んだシーン、そして後半6分、石原がヘディングで落としたボールをゴール前でとらえきれなかったことを悔やんだ。しかし、ゴールへの積極性、ピッチ上を広範囲に動き攻撃を組み立てていく構成力は、まさに中心選手そのもの。京都戦は、将来のアルディージャのエースが産声を上げた試合となった。

シュートへの意識とスピード――世界レベルを目指して

「小さいころから夢見てた場所。やっと始まるんだな、やっとスタートできるんだな、という気持ちです」

 4カ月前の新体制発表記者会見の席上で、そう初々しく語っていた。あこがれ続けたJリーグ、プロサッカー選手としての第一歩を踏み出した思いをかみ締めながら、しかし、心の内にはもっと大きな野心を秘めていた。
「自分がどれだけできるかは自分次第。上を狙いたい。試合を決定付けられる選手になりたい」

 カップ戦での公式戦初出場、リーグ戦への途中出場と着実にステップを踏み、そして今、中心メンバーの座をつかもうとしている。もちろん課題はある。自分でもそれは自覚している。
「一番はシュートへの意識ですね。アシストに美学を感じてしまうので、どうしてもパスを考えてしまうところがある。強引でもいいから、シュートを打たなきゃゴールは絶対に入らない。シュートへの意識は試合ごとに高くなっていると自分では感じています」

 さらに大きな課題。それは、日本サッカー界が抱えている問題でもある。
「スピードが上がったときにまだまだ周りを見ることができていない。普通にボールをもらうだけだったら周りが見えるんですけど、スピードが上がったときに一番いい選択ができるようにならないと。世界の選手も、ハイスピードの中で判断や技術を生かしている。スピードに乗っているときに、いかに自分の特長である技術やラストパス、シュート、そういうものの精度を上げられるかというのが課題ですね。大学(流通経済大)のときのコーチが言っていたんですけど、いい選手ほどスピードを落とさずに判断して、正確な技術を発揮する。スピードを落とせばどんなプレーでも簡単にできます。いろんなスピードをどんどん上げていかないと、僕みたいな小さい選手はつぶされちゃう」

 オシム前日本代表監督も言っていたことだ。金久保のような若い選手にとっては、世界はあこがれのまなざしで見つめるものではなく、具体的な目標とするものなのだ。
「テレビで見ていても海外とJリーグではスピード感が全然違う。そういう意味では、目指すべきところはもっと上じゃないといけない。大学2年の夏にイタリア遠征に行って、ミランのユースとも試合をしたんですけど、そのときはけっこう衝撃を受けましたね。後にトップ昇格したジェンナーロ(現リボルノ)がいて、Jリーグのどの選手よりもうまかった。そんな選手でも、トップチームでは試合に出られずによそへレンタルで出されてしまう。そういうのを見ると、Jでどうこうというよりも、もっと上を目指すためにはどうしたらいいんだろうって考えます。だったらJの中でも当たり前にやれないといけないし、もっと存在感を出していかないといけないと思います」

 金久保の言葉には、具体的に「日本代表入り」「海外でプレー」といったフレーズは出てこない。繰り返されるのは「うまくなりたい」「チームに欠かせない存在になりたい」――。そうした短期目標の延長線上に、大きな目標が映っているのだろう。

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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