木村拓也の足跡とユーティリティープレーヤーの系譜=プロ野球ニュース通信簿 Vol.2
先週の五つ星ニュース――木村拓也コーチが死去
2008年9月、通算1000安打を達成した木村拓也さん。常に全力プレーでチームを支えた 【写真は共同】
ユーティリティープレーヤーは偉大だ
今回、木村コーチが亡くなったことで、同コーチの現役時代の代名詞でもあった“ユーティリティープレーヤー”という言葉が注目を浴びた。一人で複数のポジションをこなす万能型選手の呼称で、チームにとっては使い勝手のいい貴重な存在。とりわけ木村コーチの現役時代は、投手以外のすべてのポジションを守った経験があり、さらにスイッチヒッターという格段に器用な選手だった。
ユーティリティープレーヤーは偉大だと思う。野球というスポーツが九つのポジションから成り立っていることを考えると、多くのポジションをこなせるということはそれだけ野球センスにあふれている証拠だろう。現役では東北楽天の草野大輔や阪神の平野恵一などが内外野守れるユーティリティープレーヤーとして活躍しているが、彼らはときに4番やエースに負けないぐらいの存在感でチームの窮地を救う。今回の訃報をきっかけに、少しでもユーティリティープレーヤーの認知度が上がり、そこから新たな野球の醍醐味(だいごみ)が広まっていけば、それもまた木村コーチに報いることになるはずだ。
投手を含む全9ポジションをこなした究極の万能選手
そして極め付きは00年6月のオリックスvs.近鉄。当時オリックスに移籍していた五十嵐は、近鉄に大量リードを許していた8回、なんとピッチャーとして登板。1イニングを無失点に抑え、全ポジションでの出場を達成した。これは当時の監督だった故・仰木彬が敗色濃厚の中で少しでもファンサービスをと考えた末の、粋な計らいであった。
とはいえ、五十嵐のユーティリティーぶりは圧巻だった。打撃面においても全打順で先発出場を果たしたこともあるほど器用な選手で、現在までにプロ野球史上7人しかいない全打順本塁打も記録。なお、他に同記録を達成した6人の通算本塁打はいずれも100本以上だが、五十嵐はわずか26本。おそろしく効率的な“打ち分け”と言えるだろう。
史上唯一、三つ以上のポジションでベストナインを受賞
74年9月29日、南海vs.日本ハム。消化試合ということもあり、日本ハム監督の中西太はファンサービスの意味も込めて、高橋に1試合で全ポジションを守らせるという前代未聞の試みに打って出た。3番・一塁で先発出場した高橋は、1回ごとに捕手→三塁手→遊撃手→二塁手→左翼手→中堅手→右翼手と転々とし、9回には投手として登板。打者一人をセンターフライに打ち取り、ファンを大いに喜ばせたのだ。
また、ファンを沸かせたユーティリティープレーヤーといえば、プロ野球史上唯一、三つ以上のポジションでベストナインを受賞した現・阪神監督の真弓明信が印象深い。バース・掛布雅之・岡田彰布の最強クリーンアップを擁した80年代阪神打線の核弾頭として一世を風靡(ふうび)した真弓は、通算1888安打、292本塁打を記録するなど、五十嵐や高橋といったスーパーサブと違って花形スターだったが、守っては遊撃手、二塁手、外野手のそれぞれのポジションでベストナインを獲得したユーティリティープレーヤーだった。
もちろん、彼ら以外にも数多くの名ユーティリティープレーヤーが、長いプロ野球の歴史を鮮やかに彩っている。そして、それは今後も増え続けていくことだろう。
球界が悲しい知らせに沈む今、歴代の名ユーティリティープレーヤーの系譜に思いをはせながら、僕は故人の偉大な足跡を偲ぶ。木村拓也への哀悼の意を込めて。
<了>
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