興南vs.関西、勝敗を分けた“間”=タジケンのセンバツリポート2010
裏目だったタイムの温存「取ってもよかったんですけど」
山下(右)の絶妙な“間”の取り方が興南高に勝利を引き寄せた 【写真は共同】
何となく、それを感じるときがある。
7回表、興南高(沖縄)の攻撃のときもそうだった。
簡単に2死を取った後、関西高(岡山)のエース・堅田裕太は2番の慶田城開に対し3球続けてボール。ひとつストライクを取ったものの、あっさりと歩かせた。
グラウンド整備で間があき、流れが変わりやすいといわれる6回表から6回裏、7回表(2死まで)と両チーム合わせて8人連続凡退。淡々と進みかけていた試合の流れを止める四球。それだけに、嫌な予感がした。
さらに、3番の我如古盛次にも2球続けてボール。ストライクがどうしてもほしい状況で、次のストライクをどう取るのか。再び嫌な予感がした矢先、魅入られたかのようにストレートが甘く入った。我如古はこれを見逃さず、右中間への三塁打。3対1と2点差に突き放す貴重な一打になった。
これにがっくりきたのか、堅田は続く真栄平大輝に死球、銘苅圭介にも四球(銘苅の初球に真栄平は盗塁)を与え、2死満塁までピンチを広げる。2死走者なしからの失点に加え、四死球が絡んでのピンチ。6回まで84球中57球がストライクと、ストライクを取るのに困らない堅田がリズムを崩したことで、守備側は明らかに嫌な流れ。だが、関西高はこのイニングにタイムを取らなかった。監督だけでなく、野手もタイムを取ってマウンドに声をかけに行く選手はいなかった。
「ツーアウトからミス(四球)をすると甲子園は嫌な雰囲気になる。長打が嫌だなと思ったんですけどね。堅田は集中できていなかった。できれば長打のあとにタイムを取ってもよかったんですけど、8、9回でもっとピンチが来る可能性があるので、あそこはタイムを取りませんでした」(江浦滋泰監督)
結果的に、この場面は山川大輔をセカンドゴロに抑えて1点で切り抜けたが、あわや大量失点のケースだった。
タイミングを逃さなかった興南高「あれで楽になった」
無死から渡辺雄貴に安打を許すと、すかさず捕手の山川がタイムを要求。内野陣をマウンドに集めた。
2点をリードした無死一塁。特別ピンチというわけではない。だが、山川には嫌な予感があった。昨年の春夏の甲子園の経験だ。センバツの富山商高戦では0対0の延長12回に2失点、夏の明豊高戦では3対0とリードしながら6回に2点、8、9回に1点ずつ失い、サヨナラ負けを喫している。終盤に走者を出した場面で、いかに冷静に守れるか。それがチームの課題だった。
「自分たちは経験からランナーが出てしまうとタイムを取らない悪いクセがあるんです。ランナー一塁からでも崩れるパターンもある。タイムを取って、もう一度リズムをつくろうと思いました」(山川)
ここでひと呼吸入れたのは大きかった。エース・島袋洋奨はもちろん、守っている野手も昨年の苦い経験が頭をよぎっていたからだ。
「自分たちは7、8、9回で負けている。後半にランナーが出た時点で昔(昨年)の雰囲気になることもありました。(山川)大輔から『集中切らすな。硬くなってるんじゃないか?』と言われて、楽になりました」(一塁手・真栄平)
このタイムのあと、島袋は6、7番を連続三振に取るなど3人で終わらせた。山川の好判断が光った場面だった。
「(ランナーを出してから)勝負を急ぎすぎる面があるので、山川には間を取りなさいと言っていました」(我喜屋優監督)
ちなみに、9回の守りも対照的だった。
7回にタイムを温存した江浦監督がタイムを取り、伝令を送ったのはダメ押しともいえる4点目を奪われたあと。一方の我喜屋監督は無死から島袋が連打を浴びた時点で伝令を送った。
「みんなニコニコしていて、落ち着いていないのは自分だけだと思いました。あれで楽になりました」(島袋)
相手の流れを止める、リズムを変える、自分たちを冷静にする、リラックスする、今何をするべきかを明確にする……。
タイムの持つ“間”には多くの意味がある。精神面に大きく影響を与え、状況把握など危機管理の要素を多分に含むだけに、点を取られてからのタイムは有効とはいえない。
嫌な予感――。
これを感じたときこそ、取るべきときなのだ。
内野陣が集まれるタイムは3回。回数を気にしながらも、ここという場面でいかに迷わず取れるか。
“間”を制した興南高の勝利だった。
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