3連覇狙うアイシン、創部3年目のリンク栃木=JBLプレーオフ出場チーム紹介・前編
2位以下を大きく突き放してプレーオフ進出を決めたアイシン。写真はエースの竹内公輔 【Photo:AZUL/アフロ】
JBL2009−2010レギュラーシーズンはまれに見る大混戦となった。開幕から着実に白星を積み重ねたアイシンが2位以下を大きく引き離し、2月21日にプレーオフ一番乗りを果たした後、続く3チームがなかなか決まらない。残りのいすをめぐって熾烈(しれつ)な戦いが繰り広げられた末、ようやくその3チームが決定したのは3月20日だった。暫定順位は2位リンク栃木、3位パナソニック、4位日立であるが、それもラスト2試合の結果いかんでは変動する可能性がある。まさに最後まで死力を尽くしての戦いとなった今シーズン。4月3日から始まるプレーオフを前にまずは1位のアイシン、現時点で2位につけるリンク栃木の戦いぶりを振り返ってみたい。
レギュラーシーズンを独走したアイシン
プレーオフ進出を決めた時点での27勝5敗(勝率0.84)という数字もさることながら、今季のアイシンの強さを物語るのは、同じチームに『連敗』していないということだった。敗れた後、その敗因をしっかり修正して翌日のゲームを勝ち取る戦いぶりはチームの成長の証しといっていいだろう。
それだけに、そのアイシンが喫した終盤の5連敗は周囲を驚かせた。無論、理由はある。2月28日に81−82で落としたリンク栃木戦はジョシュ・グロスがけがで欠場。翌週日立に2連敗した試合は、そのグロスに加え、肩の痛みを訴えた桜木と疲れからひざの不調が心配された柏木を休ませての戦いだった。
「もちろん主力の欠場を敗因にしてはならないし、戦う以上勝ちを目指すのは当たり前のこと。だが、この先のことも考え、厳しい試合になることは覚悟の上で(疲労がたまった)桜木と柏木を休ませることにした」(鈴木HC)
1位で進出を決め、残りの3チームを待つばかりのアイシンがいち早く次のステージを見据えているのは当然のこと。万全の状態でプレーオフに臨むために『勝利』より優先させるものがあったとしても不思議ではない。いわば日立戦の2連敗はアイシンにとって『想定内』の黒星だったかもしれない。
しかし、その翌週、桜木、柏木がコートに戻った東芝戦でまたもや2連敗となると話は違ってくる。微妙なプレーのズレを最後まで立て直すことができないまま敗れ、その試合からは、勝利に対する気迫が感じられなかった。
プレーオフ進出を決めてから約1カ月。2位以下の顔ぶれが決まらない中で高いモチベーションを持ち続けるのは容易なことではない。自分たちにとって『消化ゲーム』となった残り試合に若干の気の緩みが生じることも否定できないだろう。だが、その若干の気の緩みが思わぬ大きなほころびにつながることもある。そのことをあらためて実感する意味でも、東芝戦の苦い2連敗はチームにとって苦い良薬となったのではないだろうか。
3月20日のトヨタ戦。4クオーター残り8分43秒、12点のビハインドを背負った場面からアイシンは一気に加速した。柏木の速攻を皮切りに怒涛(どとう)の連続得点で残り3分50秒には逆転。久々に『強いアイシンの底力』を見せつけ、86−79で勝利した。
「今日は選手の目の色が違っていた。勝負どころで力を出し切るうちらしいゲームができたと思う」と笑顔で語る鈴木HCの視線の先には、この日からスタメンとして戦列復帰したグロスの姿があった。
苦しみながら勝利した一昨年、昨年に比べ、戦力、気力ともに充実した感がある今年。3連覇を狙う『王者・アイシン』が今季もまた優勝候補の筆頭にいることは誰しも認めるところだろう。
リンク栃木 創部3年でプレーオフ進出
JBL2年目にしてプレーオフ進出を決めたリンク栃木。田臥勇太らが引っ張るオフェンス力で王者・アイシンに対抗する 【加藤よしお】
だが、リンク栃木は戦いながら成長した。黒星先行に加え、途中にはヘッドコーチの交代劇もあったが、リーグ後半戦から確実にチームとしての精度を上げ勝ち星を連取。最終的には5位に終わったものの、プレーオフ進出まであと一歩……という見事な戦いぶりを見せた。
そして今シーズンはラスト2試合を残して25勝15敗、暫定2位でプレーオフ進出。その快進撃の要因に挙げられるのは『波に乗った時の爆発的なオフェンス力』だろう。昨シーズンの得点王に輝いたシューター川村卓也は今季もゴールアベレージ20.63(3月21日現在)をマークし、断トツのトップを走る。本人の努力、シューターとしての秀逸な資質もさることながら、ポイントガードの田臥勇太が繰り出す「ここしかない」という絶妙なアシストパスが高い成功率の一因になっていることは間違いない。リンク栃木のオフェンスのカギとなるのは『スピード』であり、速い攻めからゲームの流れをつかんでいくチームだが、足の故障で開幕後しばらくコートを離れていた田臥が戦列復帰したことで、チームプレーにスピード感が増した。川村を筆頭に伊藤俊亮、大宮宏正、竹田謙、田中健、さらには成長著しい若手シューター片岡大晴など内外どこからでも攻められるメンバーがそろっているだけに、対戦チームにしてみれば「波に乗せてしまうと1番やっかいなチーム」となる。3月21日、三菱電機を106−66で下した一戦はまさにリンク栃木の破壊力を証明したゲーム。容赦ない波状攻撃で終始相手を圧倒した。
ただ当然のことながら、リンク栃木のオフェンスが不発に終わる試合もある。相手の執拗(しつよう)なマンツーマンに攻め手を失った10月10日の東芝戦ではわずか59得点、11月14日の日立戦では62得点。じっくり守られ、武器であるスピードを断たれた時、どう切り替えいかに戦うかがプレーオフでの課題の一つになるだろう。
明るい材料はオールジャパン前にチームを離れたレジー・オコーサに代わり加入したアルフレッド・アボヤの活躍。2月27日、28日のアイシン戦では15得点9リバウンド、14得点7リバウンドと貢献し、チームに大きな弾みをつけた。
創部3年目にして初のプレーオフ進出を果たしたリンク栃木。ここまでチームを育てたトーマス・ウィスマンHCが(日本代表チームのHCに就任するため)今季で辞任することが決まっていることもあり、選手たちがより大きな結果を求める気持ちは強いはずだ。レギュラーシーズンの勢いをそのまま大舞台に持ち込むことができれば、アイシンの3連覇を阻む可能性は十分あると言っていい。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ