今なぜ「秋春制」なのか?=Jリーグ秋春制移行問題を考える:第1回
グローバリズムとローカリズムの相克
激しい降雪の中で行われた山形対名古屋戦(昨季J1第2節)。雪国にホームを置くクラブは秋春制移行に難色を示す 【写真は共同】
個人的に秋春制とは、グローバリズムとローカリズムの相克のひとつである、と考えている。そしてそれは、日本サッカー界にとっても、各クラブにとっても、常に頭を悩ませる永遠の課題でもある。
当初、Jリーグが目指していたのはローカリズムであった。それは、Jリーグの拡大路線が鮮明になった05年以降であったと考える。05年といえば、徳島ヴォルティスとザスパ草津が加盟して、J1が18チーム、J2が12チーム、合計30チームとなった年だ。それからたった5シーズンでJクラブは7チーム増加し、最終的には40チームとなることを目指している。ここでのキーワードは、間違いなくローカリズムであり、いかに百年構想の理念と地域密着型のクラブを全国津々浦々に広めていくか、であった。
だが一方で、グローバリズムへの視点も、ここ数年で高まっている。それは07年と08年のJクラブによるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)連覇であり、昨年に導入が決まった移籍ルールの国際化である。秋春制の導入も、こうした文脈から見る必要があるだろう。そして日本のファンがグローバリズムを意識せざるを得なくなるのが、6月に開幕するW杯となる。
今から悲観的な予想をするつもりはない。が、およそ「世界を知り尽くしている」とは言い難い監督、スタッフ、選手で構成された現在の日本代表が、本大会で世界から衝撃を受ける可能性が高いことについては、異論はないだろう。本大会での結果はどうあれ、本当に「ベスト4」でも実現しない限り、世界との彼我の差を日本中のサッカーファンが痛感することは不可避である。すると、どうなるか。「ガラパゴス化する日本サッカー界を何とかしなければ」という機運が高まりを見せることは十分に考えられよう。
好むと好まざるとにかかわらず、グローバリズムとローカリズムの相克は、今後ますますサッカーファンの間で議論されるだろう。その中に、シーズン移行の問題がある。世界の潮流を意識して、日本のシーズンをヨーロッパに合わせるべきか。それとも日本の現状に則して、これまでどおりにリーグを運営するべきか。はたまたグローバリズムとローカリズム、双方の折り合いを付けるような着地点はないのだろうか――。
ただ単に、感情論だけで「賛成」「反対」を声高に叫ぶだけでは、何も解決しない。そうではなく、さまざまな視点から検証することで、この秋春制の問題、ひいてはその向こう側にあるグローバリズムとローカリズムの相克について、議論を深めていくべきではないだろうか。それこそが、自明のごとく訪れる「ポストW杯」に対して、われわれサッカーファンが採るべき態度なのだと、個人的に考える次第だ。
そんなわけで当連載は、およそ月1回のペースで、この「古くて新しい問題」秋春制の是非について検証していく予定である。乞うご期待。
「秋春制」問題の流れと関連事項
犬飼基昭氏がJFA会長に就任。直後にJリーグ秋春開催の持論を披露する
08年10月28日:
Jリーグ将来構想委員会がシーズン移行を議題に挙げ、今後も本格的に検討することを確認
09年2月26日:
シーズン移行に反対するサポーター有志の会代表らがJFAハウスを訪れ、田嶋幸三専務理事に5万5511人分の署名などを提出。
09年3月9日:
Jリーグ将来構想委員会の鬼武健二委員長が「シーズン秋春制移行はしない」との結論を報告。「スタジアムの問題などで、冬場の試合は難しい」「観客動員が見込める7〜8月に試合をしないのは、クラブ経営にも大打撃」と説明
09年3月10日:
犬飼会長がJリーグ将来構想委員会の結論を「議論が不十分」として、専門のワーキングチームで検討を続ける考えを表明
09年3月14日:
Jリーグ第2節、山形対名古屋の試合が激しい降雪の中で行われる(結果は0−0)
09年12月24日:
犬飼会長が「観戦者の多さは対戦カードで決まり、季節では決まらない」として、1月の常務理事会で秋春制導入の必要性をあらためて訴える考えを示す
10年2月11日:
東京・国立で行われた東アジア選手権、日本対香港の試合で観客数が1万6368人となる。Jリーグ開幕後の国立での代表戦としては最低記録
<了>