念願の初優勝を目指す、日本のエース佐藤敦之=東京マラソン見どころ

加藤康博
 今年11月、中国・広州で開かれるアジア競技大会の男子マラソン代表選考会を兼ねた東京マラソン2010が、28日(午前9時10分スタート)に行われる。
 先に行われた昨年12月の福岡国際マラソンでは、日本人トップが9位と惨敗し、大会史上初めて日本人選手は入賞を逃した。3月に最後の代表選考レースとなる、びわ湖毎日マラソンを控えるが、現時点では代表の座に当確した選手はいない。今年は五輪や世界選手権のない谷間の年だが、世界の強豪は記録を伸ばし続けており、日本勢も足踏みしている時間はない。
 東京の春に先駆けて行われる4度目の東京マラソン。今年はどんな戦いになるのだろうか。

エースの佐藤は好調を維持

日本マラソン界のエース、佐藤敦之。念願のマラソン初優勝を目指し、東京マラソンに挑む 【Photo:杉本哲大/アフロスポーツ】

 今大会、日本人初優勝への期待がかかるのが、佐藤敦之(中国電力)である。2008年の北京五輪では屈辱の最下位となるが、翌年のベルリンマラソンでは8位、世界選手権ベルリン大会では6位、と復活を成し遂げた。
 この世界選手権まではマラソンを連戦することで突破口を開いてきたが、今回はそのやり方に固執せず、昨年10月の世界ハーフマラソン、今年1月の全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)に出場しながら、じっくりと練習で走りこんでの参戦となる。それでもニューイヤー駅伝ではエースの集う最長区間4区22.3キロで区間賞を獲得。しかも、あくまでもこの東京マラソンに照準を絞って、ダメージを残さない走りを心がけての結果だ。好調と見ていい。
 今では日本マラソン界のエースであることを疑う者はいないが、実は佐藤、これまで12回のマラソンを走りながらも優勝はまだない。世界選手権直後は「世界のレースで経験を積みたいが、優勝も経験してみたい」と語っていた。初優勝への渇望がこの東京マラソンへの参戦を決めた理由と言えるだろう。招待選手の筆頭に2時間6分48秒の自己ベストを持つラシド・キスリ(モロッコ)がいるが、昨年の世界選手権では30キロを過ぎてから佐藤がかわし、先着している。安定感のある選手ではないだけに、つけ入るすきは十分にある。

 その佐藤に立ち向かう日本人一番手は藤原新(JR東日本)か。08年の東京マラソンでは2時間8分40秒のタイムで、日本人トップの2位。ここから国内トップクラスの選手へと雄飛した藤原にとって、験のいい大会だ。また同年の福岡国際マラソンも2時間9分台のタイムで3位に入り、安定感もある。昨年は世界選手権の舞台も経験し、キャリアも重ねてきた。初優勝への思いは藤原も負けないものを持つはずだ。

初マラソンの岡本と北村、どんな挑戦を見せるか

学生時代から実績をあげている北村が、初マラソンでどんな走りを見せてくれるか 【Photo:中西祐介/アフロスポーツ】

 今大会でマラソンデビューを飾る新鋭にも期待したい。その中でも注目すべき選手は佐藤の後輩となる岡本直己(中国電力)だろう。
 明大時代には3度、箱根駅伝を走り、4年時にはエース区間である2区も任された実力者だが、中国電力入社後も着実に力をつけている。そして昨年は、1万メートルで世界選手権B標準記録を突破し、先のニューイヤー駅伝では佐藤からたすきを受けた5区で区間賞を獲得した。中国電力でも時代を担うエース格と期待される存在だ。初マラソンでどこまで佐藤に立ち向かえるか。
 
 また学年は一つ下になるが、学生時代の実績では岡本を上回っていたのが北村聡(日清食品グループ)だ。北村もマラソンの初陣に、この東京マラソンを選んだ。小柄ながら力強いピッチ走法が持ち味。今年1月のニューイヤー駅伝では4区区間14位と精彩を欠いたが、実業団に進んでからも安定した成績を残し続けている。高校時代から5000メートルで活躍してきたそのスピードは大きな武器となるだろう。

女子では那須川がV2へ挑む

前回、大会新記録で優勝を飾った那須川瑞穂。2連覇に期待がかかる 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 女子に目を向ければ、前回大会の覇者、那須川瑞穂(ユニバーサルエンターテインメント)が2連覇を狙う。那須川のチームメートであり、昨年の世界選手権ケニア代表のジュリア・モンビも対抗馬になるだろう。海外からの招待選手を見ても自己ベストが拮抗(きっこう)しているだけに、激しい優勝争いが予想される。
 また、06年東京国際女子マラソンで2位に入るなど、長く日本の女子中長距離界で活躍してきた尾崎朱美(セカンドウインドAC)が、この大会で競技生活に一区切りをつけると発表している。
 男女同時スタートゆえに、女子選手の姿は男子に埋没してしまいがちだが、こちらもぜひ、注目したいところである。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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