惨敗後に見えた“新”のアスリート・小原唯志=スピードスケート

高野祐太

悔やまれる1週間前の記録

 スピードスケートの男子1000メートルは、もう少しやれるチャンスがありながら、世界の壁は厚かった。

 1分10秒51だった小原唯志(日本電産サンキョー)の17位が最高だった。杉森輝大(吉羽木材)は1分11秒13で26位、羽賀亮平(日大)は1分11秒46の29位。500メートル銀メダルの長島圭一郎(日本電産サンキョー)は、スタートの合図が共鳴してフライングの合図が鳴ったと聞き間違い、レースを中断。前半組の最終組で再レースとなり、リズムを崩した面もあったか、600メートル過ぎに足が動かなくなり失速。1分12秒71で最下位より1つだけ上の37位に終わった。

 残念なのは小原だ。1週間ほど前に同じ会場で行われた記録会で1分9秒67を出しており、もう一伸びすればメダルも夢ではなかっただけに、どうにも悔やまれる。ブロックするようにした左右の速い切り返しで、リズミカルにスタートしたが、徐々に腰高に。今季は低いフォームに進化しつつあったが、コーナーで上体が浮きぎみになり、出口からの加速につなげることができなかった。
 レース後は、同走のトゥオマス・ニエミネン(フィンランド)が小原の背中をたたくと、小原も足にタッチを返し、健闘をたたえ合った。

 補欠に入っている1500メートルの出番が回って来ない限り、これで小原のバンクーバーは終わることになった。

急成長するも500で力出ず

 ミックスゾーンで報道陣と対峙(たいじ)した小原は、「いやー、ダメでしたね」と苦笑いした。
 「1週間前(の記録会)が1分9秒中盤だったので、前半を出せばメダルも見えてきたが……。リンク状況も違うが(観客の熱気で気温が上昇したため、氷が柔らかくなっていた)、それにしてもふがいない。入り(最初の200メートルのラップタイム)は予定通り(16秒48)だったけど、次(200メートルから600メートル)のラップが25秒71。あそこは23秒台でないと話にならない。ワールドカップなどの大会と違って、アップしているときからいつもと違った」と反省の弁を述べた。

 今回は家族や友人がたくさん駆けつけてくれていたが、本来の力を見せることができなかった。「応援してくれた人に申し訳ない。知っている人が海外まで来てくれるのは違う。うれしいですね」

 昨季から急成長していた。
 ワールドカップ(W杯)の1000メートルで5位に入り、世界スプリント選手権で総合7位に付けた。その後の3月には「スピードが上がったため、コーナーが課題になってきた」と、逆説的に手応えを口にした。

 今シーズンはその流れを加速させ、さらに進化を遂げていた。だが、バンクーバー五輪に向けた最初の関門となる開幕戦の全日本距離別選手権(10月)から、どこか歯車が狂い始める。W杯前半戦の派遣選手を決めるこの大会で失敗し、国内に残ることに。外国勢とまみえる機会を失ったことは大きかった。
 国内ではレベルアップした姿を見せつけるように連戦連勝で、リンク新などの好記録を連発した。ところが、五輪代表を決める年末の代表選考会でも500メートルで実力を発揮できずに、1000メートルしか切符を手にすることができなかった。

進化始まったばかりで引退?

 もし、より世界と戦える500メートルに出場していたら、という思いはある。

「近くにいる長島(圭一郎)さんと(加藤)条治がメダルを取ったことは、指標にもなる」

 恐らく、小原のスケートは進化が始まったばかり。映像で熱心に研究して身に付けつつある技術はハイクオリティー。アスリートとしての真価が問われるのは、これからであるはずだ。だが、報道陣に対して意外なことを口にした。

「これが最後と思ってやって来たから4年後は考えていないですけど、終わってからゆっくり考えます」

 引退を考えている? 再度、確認する。

「とりあずこの1年、オリンピックで頑張ろうとやってきたから。落ち着いてどうするか、いろんな人と話して(決めます)。長島さんも条治もそうだから2回目のオリンピックで結果が出るんじゃないかという気持ちはあります。でも、まあ(今は4年後を)全然考えていないです」

 辞めてしまうのがもったいない理由は、先に挙げたほかにもある。
 小原は日本人にあまりいなかった新しいタイプ――500メートルと1000メートルの短距離系が1500メートルまで視野に入れた選手――なのだ。10月上旬の時点で「W杯前半戦に選ばれたら、1500メートルにも出てみたい」と打ち明けていた。今回も、「500メートルだけでは寂しいんで、日本人は1000メートル“以上”も頑張らなきゃいけないんじゃないかと思う」と“以上”を付けて述べている。それは、小原の場合1500メートルを指すわけだ。

 だから、念を押す。500、1000、1500メートルの3種目で五輪出場っていうのは?

「ハハハッ! そういうのも面白いかもしれないですね。別にやれないことはないです」

 小原様。人生設計などもろもろありましょうが、是非、その方向でご検討ください。
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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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