「日の丸を掲げるイメージはできている」=榎本保・大学野球日本代表監督インタビュー

島尻譲

活躍が期待される斎藤佑。経験や「勝ち運」は日本代表の大きな武器 【島尻譲】

 野球は2012年のロンドン五輪で競技種目から外されるなど競技の普及度は世界的に低く、ユニバーシアード(大学生の競技大会)からも除外されている。そこでIBAF(国際野球連盟)は国別で勝負を決する世界大学野球選手権大会を02年から開催。第1回から参加の日本は、02年・3位(イタリア開催)、04年・2位(台湾開催)、06年・4位(キューバ開催)、08年・2位(チェコ開催)という結果を残している。この世界大学野球選手権大会が今夏、日本で開催される(7月30日〜8月7日/神宮球場、横浜スタジアムほか)。ことしは大学4年生にプロ野球からも注目される逸材が多く、日本悲願の金メダル獲得が期待されている。
 日本代表チームの指揮を執るは、榎本保監督(近大)。昨夏も日米大学野球でさい配を任されて日本を勝利(3勝2敗)に導いた。また、昨秋にはU−26日本プロ野球選抜とのエキシビジョンマッチ(11月23日/東京ドーム)で大学日本代表を率いた。榎本監督は関係者や周囲の強力なサポートに感謝しながら、今後も世界の舞台で通用する選手を発掘するための眼力を研ぎ澄まし、今夏の大会に盤石の状態で臨もうとしている。世界大学選手権で日本はどのような野球を目指すのか。また22名のベンチ入りメンバーはどうなるのか。榎本監督に話を聞いた。

斎藤佑に期待する経験と「大事な勝ち運」

――現状でチーム方針・構成はどのように考えられていますか?

 日米(大学野球)の時と同様に逃げない野球をしたいですね。バッテリーを中心とした守りと機動力でロースコアに競り勝てるようになりたいです。世間ではスモール・ベースボールと言われていますが、気持ちは思い切ってノビノビ、そして、何よりも闘争心のある軍団にしたいです。闘争心があれば、協調性というものは付いて来るものですから。最も頭を悩ませているのは捕手の枠。ブルペンやベンチワークのことを考えると3名おったら助かるんですが……結局は2名に落ち着くでしょう。
 本格的に捕手もできる内・外野手。もしくは内・外野手ができる捕手がいたら助かります。イメージ的には昨季まで巨人でプレーしていた木村拓也のようなユーティリティー・プレーヤーを思い描いています。まだルールがどうなるか分かりませんが、大会直前や大会中のケガなどで選手の入れ替えができない可能性もありますから。

――野手陣は昨夏の日米の主力選手が卒業で大量に抜けましたが?

 ハートが熱くて、心身がタフな選手が多かったですからね。まずは亀谷信吾(法大→トヨタ自動車)の代わりとなるリードオフマン。あとは加藤政義(九州国際大→北海道日本ハム)、中原恵司(亜大→福岡ソフトバンク)、中田亮二(亜大→中日)のような中軸を任せられる選手がほしい。主将を予定している伊志嶺翔大(東海大3年)は卒業する選手たちの意志をシッカリ引き継いでいるし、左打ちの土生翔平(早大2年)も状況に応じた打撃ができる。足の状態(アキレス腱)が心配なければ、ウチの若松政宏(近大3年)も右のロングヒッターでアベレージも残せそう。萩原圭悟(関学大1年)も常に全力疾走を怠らない選手。今後の大学野球界や代表チームのことを考えると、こういう選手は外せないですよね。

――投手陣は二神一人(法大→阪神)が抜けたくらいで、あとは好不調の見極めと左右のバランスでしょうか?

 現状、疲れなどで力にややかげりのある選手もいてるかな、と。ただ、やっぱり、経験は大きな武器ですからね。注目されている斎藤佑樹(早大3年)とかにはたまに「どないや?」って電話していますよ。彼なんかは大事な勝ち運も持っている選手ですから。大石達也(早大3年)も疲れがなかったら非常に楽しみ。日米のメンバーでは野村祐輔(明大2年)を信頼しています。彼の精度の高いコントロール、ちょっと動く変化球は国際大会でも十分に通用する。貴重な左腕は乾真大(東洋大3年)や中後悠平(近大2年)が日米では頑張ってくれましたが、その時の状態、主にボールのキレで判断しますね。中後にも「監督が近大やから選ばれるいうことはないぞ」と散々言うてますから。実際、そうやと思っていますし。まだちゃんと見る機会に恵まれていないですがも、大野雄大(佛教大3年)は小手先だけでない力感があるらしいですね。これから春のリーグ戦前のオープン戦、リーグ戦、大学選手権で情報を整理して、大会前の候補合宿(平塚)に選手は呼びます。中央のリーグだけではなく、地方リーグの選手にも積極的に目を向けたいです。

世界一へ「負ける気はない」

榎本監督は世界一へ「最高のイメージはできている」と自信を見せた 【島尻譲】

――榎本監督はキューバでの大会(第3回)をコーチとして経験されていますが、日本開催の利点は大きいと考えられていますか?

 地の利は、まさに大きなアドバンテージですよ。投手のけん制などは国際ルールですから気を配りますが、言葉をはじめとした生活習慣という部分で生じるストレスはないでしょう。水や野菜を安心して口にできるのは大変ありがたいことですし。そして、神宮や横浜といった人工芝球場での試合ということで、日本がどこの国よりも人工芝球場に慣れていると思う。これは守備の捕球や送球で差が出るはずです。あとはアウェイでない分、応援も心強いですよね。野次も全て理解できてしまうという部分もありますが(苦笑)。ただ、本当に応援には勇気付けられるもの。キューバの大会の時でも日本選手がいいプレーをしたら、言葉はよく分からんでもスタンドから多くの賞賛の声と拍手があったのはうれしかったです。

――昨夏の日米大学野球では150キロを超えるようなストレートに加えて、打者の手元で急に沈む、曲がる、揺れるといった外国人特有のムービングボールに、特にバントで手こずった印象があります。その対応策は?

 こればかりは国内で練習している限りは「ムービングボールを投げてくれ」とリクエストしても難しいですからね。でも、いろいろと対応策や作戦は考えています。通常のバントだと前で確実に転がす、キッチリ決めるという意識が強くなるのですが、ムービングボールでそれは思うツボ。日米の経験も踏まえて、軸足の前くらいまで呼び込んでというかたちをつくる。バッティングだと詰まるようなイメージ。作戦に関しては……まだ言えません。

――それでは、最後に大会に向けての抱負をお願いします

 大会3連覇中のアメリカを筆頭に、キューバ、韓国など難敵ぞろいであることは間違いないです。個人的な印象では台湾も手強いですし。だけど、負ける気はない。正直なところ重圧はありますけれども、この立場を与えられたこととご縁に感謝。ロサンゼルス五輪などで監督も務め、野球殿堂入りもされた松永怜一さんから代々伝わっている野球ノートも今は私の手元にあります。歴代の代表監督の知恵、力、経験は役立てなければならないし、私も及ばずながら後進の育成に貢献したい。先を考え過ぎたらアカンのですが、神宮のセンターポールに日の丸を掲げる最高のイメージはできていますよ(笑)。

<了>
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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