JOMOの経験値、アイシンの総合力が際立った大会=天皇杯、皇后杯バスケ オールジャパン2010 大会総括

松原貴実
 元旦から11日まで開催された全日本総合バスケットボール大会(天皇杯、皇后杯、以下オールジャパン)はJOMOサンフラワーズ(女子)、アイシンシーホース(男子)の優勝で幕を閉じた。高校、大学、社会人、地方ブロック代表、JBL、WJBLと、カテゴリーが異なる男女各32チームがそれぞれの目標を掲げて競い合った8日間。今年もコートの上ではいくつもの熱戦が繰り広げられた。

「若さ」で笑い、「若さ」で泣いた皇后杯

トヨタ有利の見方を打ち破り、連覇を果たしたJOMO。大舞台の経験値を武器に最後まで勝利への執念をむき出しに戦った 【(C)JBA】

 大会序盤、会場を沸かせたのは高校チームの健闘だ。九州地区代表で出場した中村学園女子高は1回戦で北海道代表の北翔大に94−59で快勝。2回戦で敗れたものの、前半は6点のリードを奪う快進撃で大学2位の愛知学泉大を慌てさせた。また、東海ブロック代表の岐阜女子高も関西外大(大学選手権6位)に58−63と善戦。インターハイ、ウインターカップの覇者・桜花学園高(高校選手権優勝)は、早大(大学選手権7位)を73−41の大差で下し軽々と1回戦突破を果たした。『大器』の呼び声も高い#15渡嘉敷来夢はこの早大戦で35得点の活躍。ガードの#6岡本彩也花をケガで欠いたこともあり、続く2回戦では山形銀行(社会人選手権1位)に敗れたが、65−67と点差はわずか2点。キャリアで勝る大学、社会人チームを相手に気後れすることなく向かって行った『若さ』が光る戦いぶりだった。

 優勝を目指し白熱した試合が続く後半戦、常に日本の女子バスケットボール界をリードしてきたシャンソン化粧品 シャンソンVマジック(WJBL5位)が準々決勝で敗退する波乱があった。シャンソンがベスト4進出を逃したのは実に22年ぶり。対戦した日本航空JALラビッツ(WJBL4位)と共通するのは『主力が若手に切り替わる過渡期』という点だが、試合を決める後半、若さが思い切りのいいプレーにつながったJALに対し、シャンソンは『粘れない若さ』で失速した。
 また、準決勝でJOMOサンフラワーズ(WJBL2位)に敗れた富士通レッドウェーブ(WJBL3位)も同じくベテランから若手への切り替えを目指すチームである。リーグ戦では4戦3勝で勝ち越しているJOMOに61−70で敗れたことに対し、岡里明美ヘッドコーチは「大事なところで懸念していた若さが出てしまった」と語った。同様に、4年ぶりのベスト4入りを果たしたものの準決勝でトヨタ自動車アンテロープス(WJBL1位)に完敗したJALも「何かをやろうとは思った。やろうとはしたのだが、うちの若さがトヨタの勢いに押されてしまった」(荒順一ヘッドコーチ)と、やはりその敗因に『若さ』を挙げた。勢いに乗った時の若さは強い。しかし、勢いだけでは勝てないのがオールジャパンの大舞台だ。

 JOMOとトヨタの顔合わせとなった決勝戦。試合前の予想は現在リーグ戦トップにつけ、JOMOにも2戦2勝しているトヨタがやや有利という見方が大半を占めた。だが、結果は65−59でJOMOが優勝。初の決勝進出に勢いづくトヨタを退けたのは、幾度となく決勝の舞台に上がり『大勝負の勝ち方』を知るJOMOの経験値だったと言えるだろう。

「打倒アイシン」がキーワードだった天皇杯

3連覇を成し遂げたアイシン。さらに選手層に厚みを持ち、黄金街道をひた走る 【(C)JBA】

 天皇杯は、オールジャパン、JBLをそれぞれ2連覇し、現在もリーグ戦トップを走るアイシンが、今大会3連覇を成し遂げるのか、それとも阻止するチームは現れるのか。それが今大会最大の注目だった。

 準々決勝でアイシンシーホース(JBL1位)と対戦した三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ(JBL8位)、準決勝で対戦したパナソニックトライアンズ(JBL4位)はそれぞれの持ち味を発揮し存分に戦ったと言える。三菱電機は、立ち上がりゾーンディフェンスでアイシンのインサイド陣を封じ込めると、#23エリック・ドーソンを筆頭に積極的な攻めを見せて、第1ピリオドで26−17とリードを奪った。
 また、210センチの#31青野文彦を擁し、打倒アイシンの1番手と目されたパナソニックは、途中12点差まで開く展開にもあきらめることなく必死に食らい付き、第4ピリオドの残り7分にはついに66−66の同点に追いついた。
 が、リードされても、追いつかれても相手のすきを見逃さず、一気に抜き去る力強さがアイシンにはある。終わってみれば81−69(三菱戦)、84−74(パナソニック戦)と、ともに2ケタ差の勝利だった。
 一方、逆サイドで決勝に勝ち上がったのは日立サンロッカーズ(JBL6位)。準々決勝では、リンク栃木ブレックス(JBL3位)を粘り強いディフェンスで抑え込み74−65で勝利すると、準決勝でレラカムイ北海道(JBL7位)と対戦。東芝ブレイブサンダース(JBL2位)を破り初のベスト4に躍り出たレラカムイの勢いに足が止まり、前半は7点のビハインドを背負う展開となるが、後半は攻守ともにきっちり立て直し、78−67で決勝進出を決めた。

 昨年の大会と同じ顔合わせとなった決勝戦だが、試合内容は大きく異なった。昨年は初の決勝の舞台で硬くなったのか、立ち上がりからアイシンの怒とうの攻めを許した日立が、今大会は立ち上がりから果敢に仕掛けて27−20と先手を取る。だが、「日立がスタートダッシュをかけるのは想定内だった」(鈴木貴美一ヘッドコーチ)というアイシンは第2ピリオドにあっさり逆転。その後は一度もリードを許すことなく84−73で優勝。オールジャパン3連覇の偉業を達成した。
 これまでも『穴のない布陣』と言われていたアイシンだが、そこにシューター#6朝山正悟が加わったことでオフェンス力に一層厚みが増した。さらにパナソニック戦ではファウルトラブルで#32桜木ジェイアールを欠いた時間帯を踏ん張った#10竹内公輔の存在感が光った。今大会を見る限り、チーム力ではアイシンが頭一つ抜きんでている印象はぬぐえない。しかし、同じ土俵で戦う以上、打倒アイシンの挑戦は続くはずだ。今回ベスト8に終わった東芝、リンク栃木、準決勝でパナソニックに完敗したトヨタ自動車を含め、各チームのリーグ戦での巻き返しに期待したい。

 最後に、3回戦で見た挑戦者たちを挙げておこう。レラカムイに挑んだ日大(大学選手権1位)、三菱電機に挑んだ慶大(大学選手権2位)、トヨタ自動車に挑んだ青山学院大(大学選手権3位)、アイシンに挑んだ東海大(大学選手権4位)、パナソニックに挑んだ天理大(大学選手権5位)はいずれも第1ピリオドに互角、あるいはリードを奪う戦いぶりで場内を盛り上げた。同じく3回戦で東芝を苦しめた豊田通商(JBL2 1位)ともども格上のチームに挑み、点差が開いても最後まであきらめない気迫溢れるプレーは『挑戦すること』の素晴らしさをあらためて教えてくれたように思う。

<了>
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著者プロフィール

大学時代からライターの仕事を始め、月刊バスケットボールでは創刊時よりレギュラーページを持つ。シーズン中は毎週必ずどこかの試合会場に出没。バスケット以外の分野での執筆も多く、94『赤ちゃんの歌』作詞コンクールでは内閣総理大臣賞受賞。

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