創部3年目にしてベスト8の壁を破ったレラカムイ北海道=天皇杯・皇后杯バスケ

松原貴実
 全日本総合バスケットボール選手権(オールジャパン)大会5日目、男子準々決勝の2試合は、三菱電機の快進撃に苦しみながらも後半に逆転勝利したアイシンと、トヨタ自動車を相手に前半23点のリードで勝負を決めたパナソニックが準決勝に駒を進めた。
 前日の日立、レラカムイ北海道と合わせて、ベスト4進出チームが決定したが、その中で唯一のニューフェイスはレラカムイである。創部3年目にしてようやく超えたベスト8の壁。初めて準決勝の舞台に挑むレラカムイのこれまでの足跡を、準々決勝(対東芝)の戦いぶりとともに振り返ってみたい。

リーグ戦で低迷が続くレラカムイ北海道

キャプテンガードとしてチームを引っ張る桜井良太(#11) 【(C)JBA】

 レラカムイ北海道の創部は2007年。北海道に誕生した初のプロバスケットボールチームとして注目を集めるとともに、折茂武彦、桜井良太(ともに当時トヨタ自動車所属)という日本を代表するトッププレーヤーの移籍で話題を呼んだ。率いるのは米国へコーチ留学した経験を持ち、男子日本代表や早稲田大学、トヨタ自動車など数多くのチームでコーチ修業を積んだ東野智弥氏。北海道先住民族のことばで「風の神」の意味を持つ『レラカムイ』をチーム名に掲げ、JBL(日本バスケットボールリーグ)に新風を巻き起こす気概を持ってチームはスタートした。

 創部と同時にバスケットボールファンを驚かせたのは、194センチの桜井がフォワードからポイントガードにコンバートされたことだ。これは桜井本人の強い希望でもあったが、優れた身体能力を武器に猛スピードでコートを突っ切り、ダンクまで決める屈指のフォワードを「これからの日本が世界と戦うためにも彼ぐらいのサイズ、身体能力を持ったポイントガードが必要。こういったチャレンジができるのはレラカムイだからこそ」と後押ししたのは東野ヘッドコーチだった。攻守の要であるポイントガードが味わう『1年生』チームの苦労も十分覚悟の上のことである。

 JBLに初参戦した2007年〜2008年シーズンのリーグ成績は8勝27敗で8チーム中最下位。翌年は当時OSGから移籍したシューター朝山正悟、パナソニックから移籍した2メートルのセンターフォワード山田大治、インカレで数々の個人賞に輝いたガードの阿部友和をルーキーで迎えて戦力アップを図り、14勝21敗と勝ち星は増えたものの順位は7位と低迷したまま。3年目の節目として何としても結果を出したい今シーズンは、朝山がアイシンに移籍した後、2メートルの大型フォワード井上聡人(トヨタ自動車より移籍)と米国でプレーしていた異色の新人、松井啓十郎を迎えた。しかし、リーグ戦は黒星続き。途中10連敗の地獄も味わって、前半戦が終わった時点で5勝15敗、7位と落ち込んだままだ。チームとして一つの山を越えるためにも、迎えたオールジャパンではベスト8の壁を破りたかった。

東芝のリズムを崩したレラカムイのディフェンス

選手にげきを飛ばす東野ヘッドコーチ。創部3年目にして初のベスト4入りに導いた 【(C)JBA】

 準々決勝の対戦相手は12勝8敗でリーグ3位につける東芝。リーグ戦では2戦2敗している相手だ。周囲の大方の予想が『東芝有利』であっても致し方なかった。だが、試合が始まってみると前半はほぼ互角の展開。29−30の1点ビハインドで折り返した。
「前半、東芝に取られたオフェンスリバウンドは10本。ハーフで10本というのは致命的な数字。だが、それでも点差はわずか1点。1点差でしのいだことが後半につながったと思う」(東野ヘッドコーチ)

 圧倒的に有利なオフェンスリバウンドの数を得点に結び付けられなかった東芝を見て、東野ヘッドコーチはそこに「チャンス」を感じた。後半に入ると、レラカムイは粘り強いディフェンスで東芝のリズムを狂わせ始める。チームプレーが身上の東芝のオフェンスがいつしか1対1の個人プレーになり、インサイドにパスが入らず、外からの無理なシュートが目立つようになる。前半10本だったオフェンスリバウンドは後半わずか2本。インサイドで体を張った山田(#8)、クリスチャン・マラカー(#13)のハードなプレーが、東芝のコーリー・バイオレット(#33)、タイラー・ニュートン(#41)の得点を2人合わせて6点に抑えた。外からは積極的に打って出た松井(#16)がこの日15得点。ペースは完全にレラカムイのものとなった。
 残り10秒を切り、得点ボードの数字はレラカムイ78、東芝55。そして、試合を締めくくる80点目はサイラス・テイト(#44)のダンクシュートだった。まるでこの日のレラカムイを象徴するかのような力強い最後の1本。レラカムイがベスト8の壁を打ち破った瞬間だった。

 戦う以上、勝利を目指さないチームはない。「だが、われわれはプロチームゆえに、なおのこと結果が求められる。結果を出せなければ解雇という厳しい現実が待っている。リーグ戦で低迷しているだけに、このオールジャパンではどうしても勝ちたかった」と東野ヘッドコーチ。
 昨年末、新型インフルエンザに感染してほとんど練習ができなかったという折茂も「まだ本調子ではないが、やる以上、次も勝ちにいく!」と力強く語った。

 挑戦は続いている。準決勝の相手は日立。1月9日16時30分、さらなる壁の向こうを目指すレラカムイの戦いが始まる。


1月9日 男子準決勝の対戦カード
16:30〜日立×レラカムイ北海道
18:30〜アイシン×パナソニック
会場:代々木第一体育館


<了>
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著者プロフィール

大学時代からライターの仕事を始め、月刊バスケットボールでは創刊時よりレギュラーページを持つ。シーズン中は毎週必ずどこかの試合会場に出没。バスケット以外の分野での執筆も多く、94『赤ちゃんの歌』作詞コンクールでは内閣総理大臣賞受賞。

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