走るだけじゃない、くせ者が支える関大一の快進撃=高校サッカー準々決勝

鈴木潤

両足で高精度のキックを誇るボランチの梅鉢

小島悠司(写真)の2ゴールを引き出したのはいずれも梅鉢の正確なキックだった 【鷹羽康博】

 関西大学第一の疾走は止まらない――。「月まで走る」、そんなフレーズにも象徴される彼らの豊富な運動量は、藤枝明誠を4−1でねじ伏せる勝利を挙げた。初の国立行きの切符を手にした佐野友章監督は、「何で勝てたのか分からないが、運動量と球際でガツンといく普段のサッカーができている」と関西大第一らしさが存分に発揮されたことを勝因に挙げた。

 キックオフ直後から藤枝明誠のエース・安東大介とトップ下の大山和早には、DF水田優輝と小島悠司が徹底的にマークについた。この相手のキーマンに自由を与えなかった要因は、DF陣の激しいマーキングに加え、無尽蔵にピッチを走り回った両ボランチの梅鉢貴秀と久保開立が、安東と大山の2人にボールが渡った瞬間に挟み込みを見せた点を見逃すことはできない。
 しかし、そのような戦術的な貢献度だけではなく、この両ボランチはまさに“くせ者”と呼ぶにふさわしい自らの持ち味を存分に発揮し、辛味の効いた絶妙のスパイスをチーム全体にもたらしている。

 梅鉢は「キックは左右の足どちらも変わりなく蹴ることができます。右利きですけど、シュートやボレーは左足の方が得意なんです」と自身の持つストロングポイントを語る。小学生時代にセンターバックやFWをこなした後、中学生になってからボランチのポジションに就いた。両足キックに定評のある梅鉢にとって、サイドチェンジや局面を変えるロングフィードを生かせる中盤の底は、文字通り天職と言っていいだろう。豊富な運動量を誇る関西大学第一が守から攻に切り替わった瞬間に一気に選手がスペースへと走り込み、正確なフィードを送り込んで対戦相手をグイグイと押し込めるのは、そんな梅鉢の特徴があればこそである。

 さらに梅鉢のプレーで最も注目すべき点は、両足のキックが得意であるゆえに左コーナーキックは右足で、右コーナーキックは左足で蹴ることだ。そんな選手、プロでもそう簡単にお目にかかれない。実際に藤枝明誠戦では、前半30分の先制ゴールが右コーナーキックで、後半22分の3点目は左コーナーキックから、それぞれ梅鉢の精度の高い左足と右足のキックから生まれている。「相手(藤枝明誠)のGKは反応が速いけど、ハイボールに難があると思った」。試合後にそう振り返り、「狙い通りのところに蹴れた」と話す梅鉢の言葉からも、藤枝明誠のウイークポイントを的確に突いたのが分かる。

 実は県予選5回戦まで、セットプレーはすべて利き足の右足で蹴っていたが、右コーナーキックを右足で蹴り、ボールの軌道がゴールから離れていくのを試合で見た彼の父親が「ゴールに近づいた方がええんちゃう?」とアドバイス。それを受けてからというもの、右コーナーキックを左で蹴るようになった。
 佐野監督は、先制点と3点目を「得意のセットプレーで得点できた」と回顧し、それを「狙い通りの展開でした」と付け加えた後、「梅鉢は左右とも良いボールを蹴ってくれる」と賛辞の言葉を述べた。

もう1人のくせ者、ボランチの久保開

くせのある選手がハードワークすることで関西大学第一は初の国立にたどり着いた 【写真は共同】

 そしてもう1枚のボランチ、久保開もまた相当のくせ者である。本人は「ドリブルで魅せたい」と語るように、従来のプレースタイルはドリブルをベースとし、中学時代まではイケイケのドリブラーだった。それが高校入学後、対戦相手の体格も大きくなり、局面での当たりも激しさを増したため、「ドリブルばかりではなくてワンタッチではたくプレーを心掛けるようになった」と自らの持つ発想を変化させ、自身のプレースタイルに幅を持たせるようになった。
 現在では中盤の底で舵取り役の仕事をこなしながら、関西大学第一でのハードな練習によって身に付けた豊富な運動量を生かして、少ないタッチでボールをさばいた後は相手のすきを突いてわずかに生じたスペースへ飛び込み、巧みなドリブルで相手の守備陣を翻弄(ほんろう)している。いわば「コンダクター」と「ドリブラ−」の二面性を局面ごとに使い分けているのである。

 それだけにあらず。梅鉢が左右の足でセットプレーを蹴り分けるのと同様、久保開にはロングスローという飛び道具がある。「ロングスローをやり始めたのはインターハイの前でした。練習の時にやるようになって、みんなで話し合って試合でもやってみようとなったんです」。発端はそんな単純なものだったらしいが、今では飛距離を伸ばすために背筋を鍛え上げる筋力トレーニングも行うようになった。「調子が良ければニアポストまで届きます」と話す飛距離については、藤枝明誠戦の2点目でニアポストを目掛けたスローイングで三浦陽平のゴールを演出したことで実証した。

 佐野監督は「うちにはスター選手はいないので」と評する。関西大学第一の選手たちにも「僕らはへただから、走らないと勝てない」と口にする者が多い。確かに彼らの豊富な運動量は藤枝明誠を圧倒し、複数人が一気に相手選手を囲い込む守備で相手の良さをかき消した。だが、単にハードワークだけのチームではない。対戦相手に「厄介」と感じさせるようなひとくせもふたくせもある選手たちが根底を支え、その上で走って走って走り抜くからこそ、成し得たベスト4進出なのではないだろうか。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント