堅守の境、一瞬のすきで崩れたシナリオ=高校サッカー3回戦
神村学園の攻撃陣を封じた境の堅守
先制点を決めて喜ぶ神村学園の選手たち(赤) 【岩本勝暁】
境の「神村学園封じ」は徹底していた。エースのファン・スンミンに対しては山西理輝努を、FW大山直哉には岡崎克也を、そして2列目の福野あさとには片岡義貴、小谷健悟には加藤裕朗がマンマークに付いた。さらに後方には浅田龍太朗と景山慎太郎の2ストッパーを敷く周到ぶり。
ワントップの松川智哉の後方に敷かれた、藤田勇気、田中福彦、森山眞吾の2列目のラインが守備のファーストラインとなり、そこからマンマーク&ゾーンでふたをしていく。攻撃面では田中福がフリーマンでスペースを突きながら、松川が果敢に相手のギャップを狙っていく。あとはこれを選手たちがどこまで忠実に実行できるか。この1点がポイントだった。
前半はこの戦法がはまり、神村学園から自由を奪った。
これはどこかで見た展開だった。昨年11月の鳥取県予選決勝。インターハイ準優勝で、高円宮杯全日本ユースベスト8の米子北との一戦ではまったシナリオだった。インターハイ得点王の谷尾昂也、高円宮杯全日本ユース得点王の山本大稀の全国トップクラスの強力2トップに対し、山西と景山がマンマークにつき、その後方に3人のストッパーを置いて、「2トップ包囲網」を敷いた。
これは自陣で選手がべったり引いているのではなく、選手間が一定の間隔を置いて、マンマーカー以外は常に局面を見ながら、攻守のバランスを考えたポジショニングと、巧みなビルドアップ、そしてカウンターのときの明確な道筋を作り出しておくなど、非常に頭を使った洗練された組織的守備であった。
この守備に米子北は苦しみ、ドリブルで仕掛けても、パスで仕掛けても、常に黄色い壁に引っかかった。そして時間が過ぎていくにつれ、米子北もロングボールが多くなり、自分たちのリズムを失っていくと、70分にカウンターから得たFKのこぼれ球を、田中が豪快に突き刺して、決勝点を挙げた。
最後まで相手の良さを出させずに、カウンターからいくつかチャンスを作ってものにする。今大会予選の最大の波乱を起こした要因は、境が事前に作ったシナリオを貫徹した形で生まれた。
今大会でも2回戦の四日市中央工戦で、2トップにマンマークを付け、事前に作ったシナリオを遂行し、前評判の高かった相手に2−0の完封勝利をつかんだ。そしてこの3回戦。前日の中京大中京戦で10ゴールをたたき出した神村学園を相手にしても、前述したように、シナリオ通りに事は進んでいた。
一瞬のほころびを神村学園に突かれ……
ドリブルで攻め込む境の藤田勇気(右)と守る神村学園の前鶴祥太 【岩本勝暁】
これにより黄色い壁に一瞬だけほころびが見えた――。神村学園はそのほころびを見逃さず、ドリブルとパスでバイタルエリアに仕掛けると、ラストパスを村尾に集め、境に修正する時間を与えなかった。60分、2列目に下がったファンが左サイドの村尾にパス。村尾はボールを受けると、DF間にできたギャップを突いて一気にカットイン。あれほど進入するのに手間取っていたペナルティーエリア内にあっさり進入すると、豪快に右足を降り抜き、黄色い壁をこじ開けた。
これで境のシナリオは崩れた。FW原拓也を投入し、攻勢に出るが、神村学園の守備を切り崩せず、ロスタイムにとどめの2点目を浴び、ついに境の快進撃は止められた。
ドリブル主体のサッカーを貫き通し、一瞬のすきを見逃さなかった神村学園のしたたかさに屈する形となったが、境が見せたサッカーは、高い戦術理解力と集中力があるからこそ成り立ったものであった。決して単純に自陣にこもってガチガチに守るサッカーではなく、一定の法則性を持ち、全体を連動させながら、頭を使ってボールを奪い、カウンターにつなげていた。
その証拠にこの試合、境のファウルは少なかった。普通、守りに入るとファウルが多くなるものだが、境の場合は違っていた。この事実は、それだけ狙い通りにボールを奪えていたことを意味している。
境の冒険はベスト16で幕を閉じたが、彼らの見せたサッカーは、今大会を彩った一つとなった。
<了>
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