渡嘉敷来夢の3年間 輝きが増したダイヤの原石=天皇杯・皇后杯バスケ オールジャパン第1日

舟山緑

国際舞台で引き出された能力

高校生最後の大会の疲れがまだ抜け切れていないが、高校チャンピオンとしてどこまで勝ち進めるのか。オールジャパンでも注目を集めている 【(C)JBA】

 勝負強さが引き出されたのは、国際ゲームだった。高校1年の後半には世界選手権を目指す日本代表候補に選ばれた。高校2年の4月に始まった日本代表の合宿では「こんなに未熟な自分が選ばれていいのか、最初は戸惑った」と言う。「何をやっていいのか分からない。だから桜花でよく言われていた“走ることとリバウンド”だけは頑張ろうと必死でした」(渡嘉敷)

 本人の言葉とは裏腹に、合宿が始まってスタッフが驚いたのは「バスケットIQの高さ」だった。「運動能力に加えて、バスケットのIQが高いのもすぐに分かりました。例えばハイポストでボールをもらってからの選択肢は、ほぼ間違っていなかった。内海さん(当時の日本代表ヘッドコーチ、現JOMO監督)が教えることも貪欲(どんよく)に吸収して理解していく。Wリーグから選ばれたほかのメンバーも、最年少の彼女の実力を認めていましたね」と語るのは、当時アシスタントコーチを務めた萩原美樹子コーチだ。

 その年6月のヨーロッパ遠征では、強烈なブロックショットを披露した。長身ぞろいのリトアニア戦で、相手のセンター・フォワードのシュートをきれいにブロックし、そのまま速攻に走ってシュートを決めたのだ。渡嘉敷は「ごく自然に反応していた」と振り返る。「あの遠征で、自分よりもうまい人と対戦するのがメチャクチャ好きになりました。闘志が沸くんです(笑)。1対1でどこまで勝てるのか。自分よりも大きな相手とやる面白さを知りました」

 残念ながら世界選手権をめざす最終12人には残らなかったが、高校2年の秋には、もう1つの国際舞台で大きな経験を積んだ。インドで開催されたFIBAアジアU−18女子選手権大会での優勝である。日本チームには、間宮佑佳(東京成徳大高:現JOMO)や篠原恵(東京成徳大高)ら、高さに加えてうまさを備えたメンバーがそろっていた。
 決勝では高さで上回る中国に、13点ビハインドを逆転して競り勝つ快挙。日本の女子U−18では初のアジア優勝という偉業を成し遂げたのだ。

 渡嘉敷は、ミドルレンジから多彩なプレーを披露して爆発した。ドライブインや速攻に走り、リバウンドをもぎとった。そのダイナミックで華麗なプレーは、観衆を魅了し続けた。渡嘉敷来夢の存在を、アジアに強烈にアピールした瞬間だった。
「ブロックをされると楽しくなる。次はそうならないようにこう打とうといろいろ試せるから」と語った渡嘉敷。恐れを知らない、頼もしい発言だった。この負けん気の強さが、彼女の成長を引っ張っている。

高校最後の試合に賭ける

 U−18でのアジア優勝は大きな自信を与えてくれたが、帰国後は試練も待っていた。右足首の疲労骨折である。それでも高校2年のウインターカップでは痛みを押して決勝戦を戦い、37得点、13リバウンドをマークし、優勝に貢献。試合後は松葉杖なしに歩けないほどだったが、ゲームは鬼気迫るほどの高い集中力で戦い抜いた。

 その後は5カ月間の戦線離脱。最後の大阪インターハイは体力が十分に戻らずに空回りしながらも東京成徳大高に快勝、優勝を決めた。続く国体でも優勝はしたが、内容は納得のいくものではなかった。だからこそ渡嘉敷は、高校最後のウインターカップに賭けていた。「持てる力を出し切って納得のいく結果を出したい。得点だけじゃなく、声を出してチームを引っ張っていかなくては」という強い自覚があった。
 その言葉通り渡嘉敷は声をかけてチームをけん引。東京成徳大高の篠原とのマッチアップにも勝利。30得点、20リバウンドは堂々の数字だが、後半はゲーム体力のなさで失速してしまう。注目されたライバル篠原との対決に、「うまく守れた部分もあるが、17点はとられすぎ。まだまだ全然ダメですね」と、反省の言葉を口にした。

 体力のなさ、脚力のなさからディフェンスの甘さも要所で露呈したが、それは今後の練習でいくらでも解決ができる要素だ。ウインターカップでは、難しいとも思えるゴール下へのハイパスを、リーチの長さで巧みにキャッチしてゴールにねじ込んだ強さとうまさが印象的だった。

 身長はこの3年間で3センチ伸び、191センチに。周囲の期待は、米女子リーグのWNBAや、2012年に行われるロンドン五輪へと膨らんでいる。だが、抱負を聞かれると「まだ実感がわかない」と言う。自分にはまだまだ多くの課題があるからだ。それでも国際舞台での戦いには意欲を示す。
「どう動いていいか分からないときがいっぱいあります。特に考えすぎてしまうといいプレーが出てこない。それが強い相手だと、理屈でなく自然と身体が反応して、自分でも“おお、いまのはすごい!”と思えるプレーが出てくる(笑)。だから、国際試合でもっともっと経験を積んでいきたいですね」

「日本のバスケットを確実に変えていく選手」とは、指導にあたる名将・井上眞一コーチの言葉だ。その期待の原石は、この3年間で見事に磨かれ大きな輝きを放ち始めている。 次なる舞台は、Wリーグと日本代表での活躍である。渡嘉敷来夢の本当の勝負は、むしろこれからなのだ。われわれはこれから、彼女の中にとてつもない進化を目撃することになるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

月刊バスケットボールで12年にわたりミニバスから中学、高校、大学、トップリーグ、日本代表まで幅広く取材。その後、フリーランスとなる。現在はWEBを中心にバスケットの取材・執筆を続けている。ほかに教育分野での企画・編集なども手がけている

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