若き男子バスケA代表が見せた『戦う姿勢』=東アジア競技大会で銅メダル!

松原貴実

チームの中心としてプレーした竹内公(中央)。これからの日本を背負っていく存在だ 【加藤よしお】

 12月11日、東アジア競技大会バスケットボール競技最終日となったこの日、1万人を収容する香港コロシアムにおいて男女3位決定戦、男女決勝戦の4試合が行われた。
 第1試合、日本女子代表チームが韓国に快勝し3位を決めた後、男子の3位決定戦、日本対中国が始まる。大きなすり鉢型の体育館には「加油(頑張れ)!加油!」の大声援が響き、おびただしい数の応援スティックが揺れる。右を向いても左を向いても100%アウエーの中で、日本の12人は試合前最後の円陣を組んだ。

『ゴールデン世代』で再起をかける日本代表

 若手選手の育成を目的の一つに置いた今回のチームは、小野秀二HCを含め『暫定的なA代表』と言われていた。チームの核となるのは竹内公輔(アイシン)、竹内譲次(日立)を筆頭に石崎巧、菊地祥平(ともに東芝)、岡田優介、正中岳城(ともにトヨタ自動車)、酒井泰滋(日立)らゴールデン世代と呼ばれる選手たち。彼らは2007年ユニバーシアード大会(タイ・バンコク)で並みいる強豪チームを破り、4位入賞を果たした実績を持つ。
「単に技術だけではなくアスリートとして欠かせない資質が彼らにはある」と小野HC。「それはバスケットに対する真摯(しんし)な姿勢。全員がとにかくまじめ。とにかく練習熱心。今度の大会で私が見てほしいのはそんな彼らの姿、日本代表として戦う姿勢です」
 日本男子バスケットボールは10月のアジア選手権大会で史上最低の10位に終わった。打ちのめされた日本に突きつけられたのは『アジアでも勝てない』という重い現実。そこからもう一度這い上がっていけるのか? 周りが若きA代表に期待したのは、暗闇の先にある光、この大会で彼らがそれを示してくれることだった。

グループ1位突破も、準決勝で敗れる

ほとんどの試合でスタメン出場を果たした菊池。体を張ったプレーでチームに貢献した 【加藤よしお】

 JBLリーグ戦真っ只中のスケジュールを縫ってチーム練習ができたのはわずか4日間。宿敵・韓国と対戦した予選ラウンドBグループの初戦は、まだチームとして機能しきれていないことを露呈するターンオーバー28を記録したが、それでも個々の高いスキルと執拗(しつよう)なディフェンスで幸先のよい勝利(74−66)をものにした。グアムに104−54、香港に92−69と大勝し、Bグループ1位で準決勝に進んだ日本だったが、準決勝ではチャイニーズタイペイ(Aグループ2位)にわずか2点差(67−69)で敗れることになる。「敗因は自分たちの芯を欠いたプレー。有利に進められるきっかけはいくつもあったのに肝心なところでミスをし、自分たちから崩れてしまった。気持ちが足りなかったということです」――。
 敗因を語る石崎キャプテンの言葉からは悔しさと同時に、自分たちのバスケットに対するいら立ちがにじんだ。銅メダルが懸かる中国戦では立て直せるのか?

強い気持ちで中国に挑み、見事銅メダル獲得!

中国との3位決定戦で、流れをつかむスリーポイントを決めた岡田優介 【加藤よしお】

 日本の円陣が解け、試合がスタートした。2メートル選手を7人擁する高さの中国に対し、小野HCは「これが今の日本にもっとも合った戦い方だと思う」という『フォーアウト』システムを指示した。インサイドに竹内(公)を残し、あとの4人が外に出てディフェンスを広げる。これにより体の強さを武器とした菊地、広瀬健太(パナソニック)らの鋭いドライブが生きた。
 守りはオールコートマンツーマン。ポイントガードの石崎が前からプレッシャーをかけ、全員が足を使った粘り強いプレーを展開した。何よりすばらしかったのは、交代でコートに出たメンバーがそれぞれにきっちり自分の仕事をこなしたことだ。短い時間に2本のリバウンドをもぎ取った濱田卓実(パナソニック)、体を張ったインサイドプレーで貢献した荒尾岳(トヨタ自動車)、強気のリードでチームを引っ張った正中、酒井が床に這いつくばって奪ったルーズボールは、竹内(譲)のダンクにつながった。圧巻は、この日中国に傾きかけた流れをことごとく断ち切った岡田のスリーポイント。「6番手として流れを呼び込む起爆剤になりたい」という思いが伝わる気迫の4本だった。
 準決勝敗戦の悔しさを全員で勝ちに行こうという強い気持ちに変えて、連続ブロックショットにもひるまず、リバウンドを10本上回り、79−71で中国に勝利。銅メダルが確定した。

小野HC「もっと強くなる可能性がある」

3位決定戦に勝利し、喜びを爆発させた日本代表のメンバー 【加藤よしお】

 表彰台に乗った石崎は手にした日の丸の国旗を広げた。みんなでそれを大きく掲げる。「たとえ若いチームであっても背負った日の丸の重さを変えてはいけないと思う」とキャプテンが語った言葉そのままに、彼らは最後まで日本代表の誇りを忘れず、表彰台の上でそれを示した。
「すばらしいチームだった。公輔、譲次の双子ならではの連係プレーをはじめ、このチームにはもっともっと強くなる可能性がある」(小野HC)
「大会中、全員が感じていたのは、結果を出さないとこのチームが認めてもらえないという危機感。勝たないと次はないと思って頑張った」(正中)
「日本男子バスケはまだまだ暗くないことを僕たちの戦いで示したかった」(岡田)
「今回がスタート。1本目。一緒に戦って最高に楽しいメンバーだった」(竹内譲)

 このチームで戦えた誇りと喜びがあふれる数々の言葉を聞きながら、ふと今回の銅メダルは日本ではどう評価されるのだろうと思った。立派な銅、それとも残念な銅……。だが、中国戦で見た日本チームの『戦う姿勢』は、すでにメダルの色を超えていたように思う。金ではなく、銀でもなく、銅であっても銅ではない、あえて言えば、それはやはり『希望の色』だったのではないだろうか。

<了>
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著者プロフィール

大学時代からライターの仕事を始め、月刊バスケットボールでは創刊時よりレギュラーページを持つ。シーズン中は毎週必ずどこかの試合会場に出没。バスケット以外の分野での執筆も多く、94『赤ちゃんの歌』作詞コンクールでは内閣総理大臣賞受賞。

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