混戦のワールドシリーズ、松井秀喜が決めて1勝1敗に

杉浦大介

松井も自画自賛した決勝弾

フィリーズとの第2戦、ペドロ・マルティネスからライトへ勝ち越しソロを放った丸い日で 【Getty Images】

 1−1の同点で迎えた6回裏、カウント2ストライク1ボールと追い込まれて迎えた5球目―――。フィリーズのペドロ・マルティネスが投じたカーブをとらえた松井秀喜の打球は、ヤンキースファンの待つライトスタンドに吸い込まれていった。

「ペドロが今日も素晴らしいピッチングをしていましたからね。試合の展開の中でも良かったと思う。いいホームランだったと思います」
 試合後、メジャーを代表する千両役者から放った本塁打を松井も自画自賛。
 第1戦で敗れた後の重苦しい空気を振り払う、まさに値千金の一発だった。昨季王者フィリーズの迫力に苦しめられてきたヤンキースは、ここで今シリーズ初めてリードを奪ったのである。

 この松井の6回の打席を迎えた時点で、ペドロの球数はすでに100球に近づいていた。松井、ロビンソン・カノと左打者が続く場面で、左腕のJ・A・ハップかスコット・エアーにつなぐ手もあっただろう(ペドロが最後に100球以上を投げたのは1カ月半以上前の9月13日。ナショナルリーグ優勝決定シリーズ第2戦では、ドジャースを無失点に封じながら7回87球で交代していた)。
 しかし同じ6回裏、マーク・テシェイラ、アレックス・ロドリゲスに対しペドロがあまりにも素晴らしい投球をしてしまったことで、チャーリー・マニエル監督の決断が鈍った部分もあったのかもしれない。

苦しい試合をものにした大きな勝利

 いやそれよりも今夜ばかりは、難しい球を右翼席まで持っていった松井をただ称賛するべきだろうか。ペドロは試合後に「あそこで(カーブを)投げるべきではなかった」と悔やんだが、しかしあの1球は失投には見えなかった。

「打った松井を誉めるしかないね。カーブを打つ技術は素晴らしい。マニー・ラミレスをほうふつとさせるよ」
 筆者の近くで試合を見ていた『フィラデルフィア・デイリーニュース』の記者はそう感嘆していた。変化球打ちの上手さではMLB有数のマニーと比べるのはオーバーにしても、ボール気味の球をすくい上げた一打が見事だったのは事実。そして結局はこの1点が決勝点となった。相手打線の勢いを寸断した先発A・J・バーネットとともに、松井もシリーズ初勝利の功労者となったのだ。

「私たちは1年を通じて粘り強かった。厳しい敗北の後でもすぐに盛り返してきたんだ。今日はいつも通りの仕事を果たしただけだよ」
 ジョー・ジラルディ監督は試合後にそう強がったが、しかしそれほど余裕のある流れではなかった。CC・サバシアを起用して臨んだ第1戦を落とし、鬼のように打ちまくっていたA・ロッドも失速。そんな中でも第2戦で苦しい試合をものにし、対戦成績をイーブンに戻せたことには大きな意味がある。
 まだ「有利になった」とまでは言い切れないが、少なくともこれで気分良く敵地へと旅立てるはずだ。

1/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント