「城島は誤解されている」マリナーズ投手が語る退団劇

丹羽政善

「投手のことをよく知っているキャッチャー」

城島の退団を受け、ともにプレーした日々を振り返るマリナーズのローランド-スミス投手 【丹羽政善】

 ローランド-スミスにしてみれば、色々な形で「サポートを受けた」そう。

「彼は、いいときも悪いときも知っているから、悪いときは、『肩が開いている』、『腕が下がっている』と投球練習の時点で指摘してくれた。本当に投手のことをよく知っているキャッチャーだった」

 ピッチングの基本を教えてくれたのも、「ケンジ」だった。

「初球にストライクを取ることがいかに大切なことか。それを懇々と説明するんだ。最初は自分も、『最初の1球ぐらい』と思うことがあった。『次にストライクを取ればいいじゃないか』と。でも違うんだよ、初球にストライクを取ってから1−1になるのと、ボールから入ってから1−1になるのとでは。そんなことを試合中にも教えられたし、試合前のミーティングでも教えられた……」

 “肩”にも助けられたと振り返る。

「こっちがクイックで投げている限り、相手は絶対に走ってこない。クイックとケンジの肩に挑戦しようとするランナーなんていないからね。こちらが、ふと気を許して、足を高く上げてしまったとする。そこでタイミングよくスタートを切るランナーもいたけど、ケンジはそれを刺してくれた。投手は、アウトをもらうだけじゃなく、試合の流れまでもらう。逆のケースとはまるで状況が違ってくるわけだから、彼の肩に助けられた投手は多い」

2年以上前から見抜いていた素質

 寂しそうな表情を見せる一方で、家族の近くでプレーしたいという決断を「理解できる」とも言った。

「僕もオーストラリア出身で、家族や友達となかなか顔を合わせることができない。アメリカ人の選手は、どこの街に行っても友達がいて、そんなことをうらやましく思うこともある。ケンジがそんな話をしたことはなかったけど、子供が3人もいるんだっけ? 家族と離れて暮らすことの大変さは、十分に理解できる」

 実は、もう2年以上も前のことだが、城島に聞いたことがある。当時のリリーフ投手の中で、将来先発投手として成功しそうな投手は誰か、と。

 そのとき城島は、「ローランド-スミスじゃない」と、迷わず言った。

 その頃、ローランド-スミスを将来の先発候補に挙げるメディアなど皆無だった。ロングリリーフのできる中継ぎ投手というのがせいぜいの評価で、本人とて、将来の役割に不安を感じていたはず。

 ただ、今季後半の活躍(14試合に先発し5勝4敗、防御率3.87)は、城島の言葉を証明している。

 会話の最後でそのことを彼に伝えた。するとローランド-スミスは、一瞬、言葉に詰まり、どこか照れながらいった。

「そんなことを言っていたの?」

 城島には、「頑張って欲しい」。その言葉だけを彼は残した。

<了>

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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