磐田ユース、大敗にも価値ある準優勝=高円宮杯 横浜FMユース 7−1 磐田ユース

平野貴也

1−7と大敗したが、永井(右)ら磐田の選手たちは、準優勝という結果を前向きにとらえていた 【写真は共同】

「頼みの綱」を断ち切られたジュビロ磐田ユース(以下、磐田)には、相手の手を止めるだけの力が残っていなかった。吉田光範監督が敗因の一つに挙げたのは立ち上がりの動きの悪さであり、選手が悔やんだのが早い時間帯での2失点だった。
 思うようにエンジンのかからない磐田は、6分にセットプレーから失点。さらに9分、左コーナーキックのチャンスから大きな展開のカウンターを食らい、いきなり2点を追う展開を強いられた。2点目を奪われた後の時間帯をどうにか耐えたところは準決勝でも見せた「あきらめの悪さ」を感じさせたが、逆転勝利に望みをつなぐギリギリの点差でハーフタイムを迎えようとした矢先の44分に失点。MF高山皓旦は「今日の試合の中で一番きつかった」と振り返った3点目の直後に鳴った前半終了の笛は、両者の実力、状態、試合の流れを考えると、そのまま勝敗を決定付ける試合終了のホイッスルにさえ聞こえた。
 後半は高山が1点を返したものの、余裕の生まれた横浜F・マリノスユース(以下、横浜FM)にいいようにやられ、4点をたたき込まれた。

激戦の疲労による限界と混乱、そして崩壊

「(的確なプレーの)判断ができず、自分たちからアクションを起こすことができなかった。人(相手)の気配を感じながらディフェンスラインをコントロールしなければいけないが、4バックの1人がボールウォッチャーになるなど、グループでの判断がバラバラになり、統一した意識の中でできなかった」
 吉田監督はこのように立ち上がりの悪さを敗因として指摘したが、それよりも前に選手たちは心身ともにガス欠だったように思う。

 少なくとも準決勝との比較で言えば、別のチームのようだった。サンフレッチェ広島ユースの森山佳郎監督の「うちは走りまくるチームだから(対抗して)うちに勝ったところは、その後がしんどくなる」という予言が当たったような形だった。
 磐田の選手たちは「相手も準決勝は延長・PKだったし、体力には問題なかった」と疲労の蓄積を理由にはしなかったが、磐田の反撃の芽をことごとく摘み取った横浜FMのMF熊谷アンドリューは、試合序盤について「相手が疲れているのは分かった」と、磐田の選手の息づかいを感じ取っていた。準決勝では一つ一つのプレーに執着心が見られた磐田だが、この試合では相手FWとの間に体を入れたあと、DFがプレーを流そうとするシーンが多かった。また、攻撃でもフリーの選手を使わずに「一発」を狙うパスやシュートが多く、相手を慎重にさせるような脅威を与えることができなかった。

 判断ミスが多かったのは、精神面で余裕を失っていたことが理由の一つに挙げられるだろう。高山は「広島戦でも先に点を取られたけど、全体をコンパクトにして味方の距離が近くて助け合うことができた。でも今日は距離が遠くなってサポートができず、セカンドボールも拾われてしまった。焦りから足だけを出すような守備も出たし、攻撃も周りが見えなくなる選手が出てきてしまって孤立した。広島戦とは何もかもが違った気がします」と混乱から抜け出せなかった苦しみを吐露した。
「堅守」というベースを早い段階で崩された磐田は、あらゆる部分で限界を迎えていたと言えるのではないか。

充実した道のりに新体制の手ごたえ

 そもそも、磐田の場合は広島戦までも限界を突破してくるような勝ち上がりだった。プリンスリーグ東海を1位で勝ち抜いたが、クラブユース選手権ではグループリーグで屈辱の最下位となったこともあり、全国的な評判はかんばしくはなかった。
 ところが今大会では1次ラウンドでクラブユース選手権覇者のセレッソ大阪U−18を撃破。決勝トーナメントでも優勝候補筆頭(クラブユース選手権準優勝)のFC東京を打ち破った。この決勝戦でしか磐田の試合を見なかった方たちは「こんなに大敗するチームが準優勝なの?」と思うかもしれないし、言い訳無用の勝負の世界においては、内容・結果とも突き放された決勝戦が彼らと“全国制覇”という目標の距離をハッキリと伝えたということは否めない。それでも「健闘もさすがにここまでか」というほどに充実した道のりが彼らにあったことは記しておきたい。

 ミーティングなどを選手任せにすることで試合中の判断力、コミュニケーションなどを自立させることに重点を置く吉田体制としては、就任から3年をともに歩んできたチームが念願だった全国大会での躍進を果たした意味は大きく、価値がある。永井鷹也は準決勝の後に「僕たちが1年生のころは、(現トップチームの)山本康裕さんとかタレントがいたけれど、頼ってしまうところがあって決勝トーナメント1回戦から勝ち上がれなかった。今年はタレントはいないけど、まとまればやれないことはないと証明できたと思う」と充実感をうかがわせていた。
 そしてこの日、高山は「ここまで来られたのはチームとして大きかった。優勝できなかったのはつらいけど、ここまで頑張った証しだし、将来にも生きてくると思うから、そこは堂々と。準優勝でも素晴らしい成績なので前向きに考えたい」とすがすがしい表情で言った。試合直後の表彰式、涙をふく磐田イレブンの中で首にかけられたメダルを外す選手はいなかった。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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