ロッベン加入で誕生した魅惑のバイエルン=ドイツの雄、欧州での復権の予感

中野吉之伴

開幕ダッシュに失敗し、酷評されたシーズン序盤

バイエルンは、ロッベン(右)の加入で、開幕直後の不調がうそのように勝ち点を重ねている 【Photo:PICS UNITED/アフロ】

 新シーズンが開幕し1カ月半足らずのチームを評価することにどれだけの意味があるのかは分からない。しかし完全にスタートダッシュに失敗したはずのバイエルンがわずかの間に「われわれは26人の選手が一つのチームとして戦えている」(ルイス・ファン・ハール監督)と、まとまりを見せるようになったのには少なからず驚かされている。

“覇権奪還”を目標に名将ファン・ハール、そしてドイツ代表マリオ・ゴメス、クロアチア代表イビツァ・オリッチ、ウクライナ代表アナトリー・ティモシュチュクら各国代表選手を積極的に補強したバイエルン。しかし43年ぶりという開幕3試合で2分け1敗の14位という成績に、バイエルンOBのシュテファン・エッフェンベルクは「バイエルンは守備の部分を放ったらかしすぎだ。もはや優勝候補などではない」と批判。オリバー・カーンにも「かつてあった優位性や自信はどこかにいってしまった。FCバイエルンは常にはっきりとした哲学を持っていた。チームこそが一番大事なものだった。選手からの強烈な勝利への意思が感じられない」と酷評された。

 ファン・ハールは当初フランス代表のフランク・リベリーのクオリティーを最大限に生かそうと彼をトップ下に置いた4−4−2システムをチームに導入しようとした。しかしリベリー本人は慣れ親しんだ左サイドを熱望。それ以外にもレアル・マドリーへの移籍問題、長引く負傷、フランスの『レキップ』紙のインタビューに「これまでさまざまな監督の下でプレーしてきたが、監督とフィーリングが合わないのは初めてだ。 僕がいろいろなことを受け入れなくてはならないならば、彼だって努力をするべきだ。僕には冗談を言い合ったり、自由を感じたりする環境が必要だ。今のバイエルンにはそれがない」と公然と批判するなど、火種は常にくすぶり続けていた。

 さらに守備の要だったブラジル代表ルシオがインテルに移籍、アルゼンチン代表のマルティン・デミチェレスは開幕直前に負傷離脱、カーン引退後にその系譜を引き継ぐはずだったミヒャエル・レンジングは伸び悩むなど守備陣は不安だらけ。新システムに慣れない中盤のダイヤモンドはみなセンターに寄ってしまい、ボールをキープはできるがそこから先には進めない渋滞状態を自分たちで作っていた。ボールを失ってからの動きもぎこちなく、どこでボールを奪いに行くべきかの共通理解が出来上がっていないために、プレスにかかるタイミングがずれる。ブンデスリーガはそれぞれの役割が不透明なまま戦い切れるほど甘いリーグではない。

 戦術というものは本来、サッカーの根源的な目標である「ゴールを奪い、ゴールを守る」ことをより効果的に分かりやすく行うための助けとなるべきものだ。しかし時として戦術をこなすことに一生懸命になるあまりに、最も大事な目的がおろそかになることがある。新監督の下、新戦術・新システムに取り組むときには特に起こりやすい。目標のためにあるべき手段が目的化しその枠に束縛される。バイエルンは完全に悪循環に陥りかけていた。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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