ロッベン加入で誕生した魅惑のバイエルン=ドイツの雄、欧州での復権の予感

中野吉之伴

ロッベン獲得がチーム好転の転機に

抱き合うリベリーとファン・ハール監督。2人の間にあった問題も解決し、バイエルンはチーム一丸となりつつある 【Getty Images】

 そんなバイエルンに転機が訪れた。夏の移籍市場が閉まる直前にレアル・マドリーからオランダ代表FWのアリエン・ロッベンを電撃獲得。首脳陣すら予想していなかったロッベンの獲得に、ファンは負のスパイラルから解放してくれる救世主誕生を期待した。

 ファン・ハールはここぞとばかりに、圧倒的な突破力を持つリベリー、ロッベンをサイドに置いた4−3−3システムに変更することを決断。ロッベンはいきなり移籍翌々日のボルフスブルク戦で後半開始から出場し、2ゴールの大活躍。同じく後半途中から出場したリベリーとの競演はブンデスリーガに新たなエンターテインメントをもたらした。2人が同時に出場した最後の27分にファンは酔いしれた。爆発的なスピードでボルフスブルク守備陣をずたずたにした2人のプレーを『ビルト』紙は「異世界からの使者」とたたえた。

 ファン・ハールは3トップへの移行とともに、これまでギクシャクしていたほかの選手の役割分担もはっきりさせ、それまではハンドブレーキをかけたまま走っているかのようだった攻守の切り替えがスムーズになった。センターFWには守備にも貢献できるオリッチが起用されるようになり、中盤は攻守共にアクセントをつけられるバスティアン・シュバインシュタイガー、ハミト・アルティントップ、ティモシュチュクの3人が入り、積極的なプレスも見られるようになってきた。

 さらにファン・ハールは若手も積極的に組み込んだ。今季アマチュアチームから昇格してきた弱冠20歳のFWトーマス・ミュラー、DFホルガー・バードシュトゥーバーを抜てき。ミュラーは当初はスーパーサブ扱いだったがドルトムント戦(5−1で勝利)、チャンピオンズリーグ(CL)のマッカビ・ハイファ戦(3−0で勝利)で2試合連続の2ゴール。ファン・ハール監督も「彼こそがベストプレーヤーだ。彼がまだ20歳だというのは信じられない話だ」と絶賛。バードシュトゥーバーもレギュラーとして重宝されている。

 問題視されていたリベリーとファン・ハールとの確執も、ドルトムント戦でFKからゴールを決めたリベリーが一目散にファン・ハールの元に駆けつけ、飛びついて喜ぶというパフォーマンスを披露。「選手とともに喜べることを幸せに思わない監督などいない。リベリーとは一度も問題などなかったのだ」と、試合後にはファン・ハールもうれしそうに話していた。

けがへの不安、余剰人員がいるFWなど課題は残るが

 ではバイエルンの改革は成功したのか。いや成功と呼ぶのはまだ時期尚早だろう。最終局面でのディフェンスの不安定さは改善されていない。ここぞという場面で相手に寄せ切れず、危険なゾーンへの侵入を許してしまうシーンがまだ多い。前節のニュルンベルク戦でもボールに5人の選手が引き寄せられ、右サイドを上がってくる選手をノーマークにするというイージーなミスから失点した。

 相手チームによるリベリー、ロッベン対策も進んでいる。絶対に自由にプレーさせないようにと常に2人のマークをつけてくる。負傷がちな2人だけに相手からのハードなマークは不安材料だろう。リベリーはリーグ戦でのスタメン出場はいまだにゼロ。ロッベンはレアル・マドリー時代に“ガラスのオランダ人”と評されたけがの多さが気になるところだ。

 またドイツ代表のミロスラフ・クローゼ、ゴメス、イタリア代表のルカ・トーニがベンチというぜいたくな悩みも抱えている。特に鳴り物入りで移籍してきたゴメスは、オリッチ、ミュラーの2人がファン・ハールの信頼を得ている一方で、リーグ戦2試合連続で前半で交代、ハーフタイムには罵倒(ばとう)されるなど、監督からの信頼を失いかけている。ニュルンベルク戦後には「監督が僕を下げてチームが勝った。彼が正しいことをしたということじゃない?」と冷ややかに言うなど、新たな火種が生まれつつある。

 しかし、今後厳しくなってくるブンデスリーガ、そしてCLを勝ち抜くためには3人のFWの力は是が非でも必要になってくるだろう。リベリーとロッベンのコンビはほかの欧州トップクラブにも負けない無限の可能性を感じさせている。バードシュトゥーバー、ミュラーという若手が活躍し、チームに勢いを与えている。キャプテンのマルク・ファン・ボメル、守備の要デミチェレスの復帰も間近だろう。ここに抜群の決定力を誇る3人が復調し、チームに融合することができたら、欧州中が恐れる強く魅惑的なチームが出来上がるかもしれない。そのときこそ、バイエルンが久々に欧州の主役に躍り出るときでもある。

<了>

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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