新たな役割でも支配的な投球を継続。モイネロは先発とリリーフで何が変わった?

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福岡ソフトバンクホークス・モイネロ投手 【写真:球団提供】

リリーフから先発に配置転換。圧巻の投球を見せている

 福岡ソフトバンクのリバン・モイネロ投手が、新たな役割を担って見事な投球を見せている。昨季まではリリーフの柱として圧倒的な存在感を放ってきたが、今季は先発としてパ・リーグ2位の防御率1.54を記録。リーグ首位を快走するチームの屋台骨を支えている。

 今回は、モイネロ投手がこれまで残してきた球歴に加えて、各種の指標に基づく投手としての特徴や、先発とリリーフにおける変化を紹介。キューバ出身の剛腕が来日8年目で見せている“進化”について、あらためて確認していきたい。(成績は6月14日の試合終了時点)

来日初年度からセットアッパーを務め、チームの黄金時代に貢献

 モイネロ投手がこれまで記録してきた、NPBにおける年度別成績は下記の通り。

モイネロ投手 年度別投球成績 【(C)PLM】

 モイネロ投手は2017年5月に、育成選手として福岡ソフトバンクに入団。同年6月に早くも支配下登録を勝ち取ると、一軍で34試合に登板して19ホールドポイントを挙げ、防御率2.52と安定した投球を披露。来日初年度から自らの実力を大いに証明し、セットアッパーとして同年のリーグ優勝と日本一にも貢献を果たした。

 続く2018年は49試合で防御率4.53とやや安定感を欠いたが、来日3年目の2019年には自己最多の69試合に登板し、34ホールド4セーブ、防御率1.52と復調。そして、2020年には全120試合の短縮シーズンながら50試合に登板して、自己最多の40ホールドポイントを記録。自身初タイトルとなる、最優秀中継ぎ投手の座にも輝いた。

 2021年は故障などの影響で33試合の登板にとどまったものの、2022年は健康を取り戻して53試合に登板し、シーズン途中からは抑えに配置転換。8ホールド24セーブ、防御率1.03と、クローザーとしての適性の高さも示した。2023年はキャリア最高の防御率0.98という圧倒的な数字を記録したが、故障の影響で27試合の登板にとどまっていた。

 モイネロ投手は来日から7年間は一貫してブルペンの主軸として活躍を続けてきたが、2024年からは先発に転向。リリーフの柱から先発の柱へと転身を果たし、投手陣の大黒柱に相応しい活躍を披露し続けている。

圧倒的な奪三振率を武器に、容易に走者を許さない支配的な投球を展開

 次に、モイネロ投手の年度別の指標を見ていこう。

モイネロ投手 年度別投球指標 【(C)PLM】

 通算防御率1.87という数字が示す通り、モイネロ投手はキャリアを通じて抜群の安定感を示してきた。支配的な投球を実現する最大の要因の一つとなっているのが、キャリア通算の数字が11.86という、まさに圧倒的な水準に達している奪三振率の高さだ。

 来日初年度の2017年から7年連続で投球イニングを上回る奪三振数を記録し、2018年から6年連続で11.00を上回る奪三振率を記録。さらに、2020年と2022年はともに50試合以上に登板しながら奪三振率が14.00を上回るという、驚くべき数字をマークしている。

 その一方で、キャリア通算の与四球率は3.68と、セットアッパーを担う投手としてはやや高い数字となっていた。とりわけ、最優秀中継ぎ投手を受賞した2020年は与四球率4.69、続く2021年は同5.46と、好成績を残したシーズンであっても多くの四球を出すケースもあった。

 また、奪三振を与四球で割って求める、投手としての能力を示す指標の「K/BB」は、キャリア通算で3.22という数字に。高い奪三振率を誇りながら、優秀とされる3.50という水準を下回っている点にも、与四球の多さが影響している。ただし、2022年のK/BBが4.35、2023年は同7.40と、近年に入ってから大きく数字が向上を見せている点は興味深い。

 また、モイネロ選手のキャリア通算の被打率は.164と非常に低く、被打率が.200以上になったシーズンは一度もない。その結果として、四球を出す割合はやや高いにもかかわらず、1イニングごとに出した走者の数を示す「WHIP」はキャリア通算で0.97と、非常に優秀とされる1.00を下回っており、走者を許すこと事態が稀であることが示されている。

先発転向後は奪三振率が減少も、制球力の改善でカバー

 ただし、リリーフから先発に転向した2024年には、これまで述べてきた投手としての特徴にも少なからず変化が見られる。最も顕著なのは奪三振率の変化であり、2024年の奪三振率は8.76に低下している。この数字は先発投手としては十分に高い水準ではあるものの、モイネロ投手のキャリア通算の数字は大きく下回っている。

 その一方で、今季の与四球率は2.61とキャリア平均(3.68)を大きく下回り、制球面はリリーフ時代よりも安定している。WHIPも0.91とキャリア平均(0.97)よりも優秀で、奪三振率が低下したにもかかわらず、例年通りに走者を許す機会は少なくなっている。

 また、先発に転向する前年の2023年に、与四球率が1.63と劇的に改善されていた点も示唆的だ。高い奪三振率の維持と与四球率の低下によって、同年のWHIPは0.58という圧倒的な水準に達していた。前年に見せた制球力の向上が、リリーフに比べて奪三振を奪いにくい傾向にある先発投手への転向に際して、大いに生かされている可能性はあるはずだ。

 さらに、2024年の被打率も.179と優秀な水準を維持しており、容易に安打を許さない支配的な投球を継続している。短いイニングに全力投球できるリリーフに比べて、先発投手は打者を完璧に抑えることは難しい。それだけに、先発に回ってからもモイネロ投手の被打率に大きな変化がない点は、先発としての適性の高さを示す要素の一つといえよう。

キャリアを通じたBABIPの低さは、今後も注目すべき要素となりそうだ

 それに付随して、ホームランを除くインプレーの打球が安打になった割合を示す「BABIP」に目を向けたい。この指標は投手の実力に左右される部分が少なく、運に左右されやすいと考えられており、投手の被BABIPは一般的に.300が基準値とされている。

 しかし、モイネロ投手の通算被BABIPは.236と、基準値を大きく下回る数字となっている。BABIPにまつわる一般的な言説とは一致しない結果だが、昨季までオリックスに在籍した山本由伸投手のNPB通算被BABIPが.260となっていたように、近年のパ・リーグで支配的な投球を見せた投手の中には、被BABIPが極端に低い選手も少なからず存在している。

 モイネロ投手の場合はリリーフとして活躍した時期が長かったこともあり、通算投球回が376.1イニングと、サンプル不足の可能性はある。しかし、先発として長いイニングを投じている今季の被BABIPも.222と、高水準を保っている点は示唆的だ。BABIPの低さが打者にハードヒットを許さないという特性を表しているのか、今後も要注目の部分といえよう。

先発としてもタイトル獲得の可能性は十分

 先発転向に伴い奪三振率は低下したが、その代わりに与四球率は改善。被打率やWHIPの低さは以前と変わらず、先発としても走者を容易に許さない支配的な投球を継続している。圧倒的な奪三振力で打者をねじ伏せてきたリリーフ時の投球からモデルチェンジを施しながらも、圧巻のピッチングを継続している点は見事と言うほかない。

 28歳という年齢を考えても、これから投手としての全盛期を迎える可能性は十分だろう。2020年に獲得した最優秀中継ぎ投手に加えて、先発としても主要タイトルを獲得できるか。来日8年目で新境地を開拓し、さらなる進化を続ける剛腕が見せる先発としての投球に、あらためて注目してみる価値は大いにあるはずだ。

文・望月遼太
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