ピクシー名古屋、2年目で狂い始めた歯車

武田健

ダヴィ加入の功罪

ダヴィの個人技による得点だけではリーグは戦えない。ピクシー率いる名古屋は2年目で試練の時を迎えた 【Getty Images】

 何かがおかしい……。確かに玉田やMFマギヌンの長期離脱、DFバヤリッツァの突然の帰国など不測事態には見舞われた。だが、サポーターだけではなく、のどに刺さる魚の骨のような違和感がチームを覆っていた。
 DFの増川隆洋は「今年は何かシンドい」と漏らした。今季は単独突破が多い左サイドバックの阿部翔平は「前線にスペースがないから仕方なく……というのが多い」と苦渋の仕掛けであることを吐露し、「ボールキープをしているようで、させられているようでもある」と話す。

 そして何よりもチームの実状を表したのがDF吉田麻也だった。リーグ中断前のラストゲームとなったジュビロ磐田戦後に次のコメントを残した。
「結局、彼がどこでボールをもらいたかったのかよく分からなかった」
 彼とはダヴィを指していた。昨年まではフローデ・ヨンセン(現清水エスパルス)と玉田にボールが収まったところが攻撃のスイッチだった。そこからサイドに展開して崩すのが攻撃スタイルだった。だが、ダヴィは一瞬で裏に抜けるタイプのFWで、パスを送ろうとしても動き出しが一瞬のためタイミングが取りづらい。また、お世辞にもうまいとはいえないポストプレーは、川崎、浦和などの日本代表クラスのDFを要するクラブ相手ではキープすらままならぬ状態だった。
 増川の話す「シンドい」は攻撃に転じた直後に、あっさりボールを失って、また急いで守備に戻らなければならないことと無関係ではない。前衛と後衛のコネクションを果たしているのが玉田だけという選択肢の少なさも目立った。必然的に縦パスよりもバックパスや横パスが多くなり、同時に個人のボール保有時間が長くなる。そしてチームの停滞を生み出し、ミス連鎖の悪循環に陥った。

 ACLでは個人こそ警戒されたが、チームとしての長所を消されなかったために勝ち点を重ねることも可能だったが、Jリーグはストロングポイントをつぶすクラブが多勢を占める。その術中に見事にハマってしまい、あるチーム関係者はリーグ再開のジェフ千葉戦後に「これはツケ。勝っている時に修正できていなかった」と甘さを自戒した。

死線はすぐそばまで迫っている

 理想と現実のギャップ。プラスアルファと計算した大砲は3にも4にもなれば、時にマイナスにもなり得た。だからこそ早急な改革に踏み切った。それがケネディ獲得だった。
 ピクシーの「ターゲットマンが欲しい」という要望を受けて、5月中旬にチーム関係者をドイツに派遣。昨季に契約を切ったヨンセンの代役として、皮肉にも同じ長身FWのケネディに白羽の矢を立てた。そして所属のカールスルーエがドイツ2部リーグ降格という追い風も受けて交渉はスムーズに進み、6月21日に正式決定に至った。
 ボランチや復帰のめどが立たないバヤリッツァの代役など補強ポイントは多々ある。その中で駒がそろっているFWを新たに獲得することに賛否両論が飛び交っているが、関谷氏らサポーターは「肯定的にとらえている」と歓迎ムード。“ジーザス”の異名を持つ194センチの長身FWに救世主としての活躍を期待している。

 ただ移籍登録制限もあり、ケネディの出場が可能になるのは7月18日の京都戦から。6月28日には敵地で1度も勝っていないアルビレックス新潟戦、7月1日には鹿島アントラーズ、同5日にはガンバ大阪との対戦を控えている。
 久米一正ゼネラルマネジャーは千葉戦後、「ACLの水原三星戦を含め4試合が大事。すべてに勝てば優勝戦線に残れる」と話した。肯定的に見ればあきらめていない証拠。だが、逆に見れば死線がすぐそばまで迫って来ていることを表している。

 崖っぷち4連戦。水原三星戦は何とか勝利して次ラウンドへ駒を進めた。果たしてリーグ戦はどうなのか。切り札投入を前に、ピクシー名古屋の試練は続く。

<了>

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著者プロフィール

1977年9月24日香川県生まれ名古屋在住。関西学院大学文学部卒業後、2002年より在阪新聞社勤務を経て昨年10月、名古屋へ。サッカーをはじめ、プロ野球、高校野球、ビーチバレーなど幅広く活動展開。

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