ピクシー名古屋、2年目で狂い始めた歯車

武田健

名古屋はリーグ王者を目標に掲げたが……

24日の水原三星戦では2−1と勝利。ACLでは一見好調に見えるが、Jリーグでは苦戦の日々が続く 【写真は共同】

 誰もが思いも寄らない事態にピクシー率いる名古屋が陥っている。
 名古屋グランパスは24日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝トーナメント1回戦の水原三星戦で2−1と勝利し、Jリーグ勢ではたった2クラブのアジア8強進出を果たした。だが、肝心のJリーグでは第14節を終えて勝ち点19の9位(※1試合未消化)。深い海の底で、もがき苦しんでいる。
 自国リーグでの低調と国際舞台での躍進。果たして、どちらの顔がシーズン序盤の名古屋を物語っているのか。その答えは、リーグ再開となった6月21日の翌日に発表されたオーストラリア代表FWジョシュア・ケネディの獲得がすべて、である。

 監督初年度とは思えない卓越した人心掌握術と躍動感溢れるサイド攻撃で、昨季Jリーグ3位に導いたドラガン・ストイコビッチ監督(愛称ピクシー)の2年目には、大きな期待が寄せられていた。今シーズン初めには、J2に降格したコンサドーレ札幌に所属しながらもリーグ2位の16得点をマークしたFWダヴィを獲得。サイドをより活性化させるために、無尽蔵のスタミナを誇るDF田中隼磨(前横浜F・マリノス)も加入した。昨季は順位など数字に関わる話題を極力避けてきたピクシー自身も、目標を「リーグ王者」と宣言。大幅なプラスアルファに手応えをつかんでいた。

シーズン序盤は好スタート

 開幕戦となった大分トリニータ戦では「1+1=3または4」になることをにおわせた。ダヴィの個人技で2得点、そして代名詞とも言えるサイド突破から日本代表FW玉田圭司が決めて3−2。個人技と組織の絶妙な融合に、豊田スタジアムに足を運んだ2万5395人のサポーターも割れんばかりの拍手を送った。ACLデビュー戦となった敵地での蔚山現代(韓国)との試合も3点を奪って快勝。試合勘や連係面で難しいシーズン序盤戦の3月は3勝2分けと、“数字上”は好スタートを切った。

 今季の初黒星は第4節の川崎フロンターレ戦。得点直後に失点する昨年からの悪癖が出てしまい、1−3で敗れた。試合後の玉田は「サイドにボールを渡すだけで単調だよね。ボールの取られ方も悪いし、単純なミスも多い」と今後を暗示させるようなコメントを残した。

 矢継ぎ早に行われたホームでのACL第3節、ニューカッスル・ジェッツ(オーストラリア)戦は途中出場の玉田のFKでドロー。引いて守るアウエー戦法を徹底した相手を崩し切れなかったが、ベンチで戦況を眺めていた玉田は「見ていて自信なさそうにプレーしている」と動きの少なさに不満を述べた。

消えたサイド攻撃

 エースの不安は的中した。狂い始めた歯車はさらに回転を速めていく。
 第5節の浦和レッズ戦では、玉田の試合前の右足首ねんざも響いてリーグ2連敗。続く柏レイソルとの試合では、ピクシー就任後初めてセンターバックを3枚並べる完全な3−5−2への変更布陣で勝ち点3を収めたが、これはさい配の引き出しが1つ増えたというよりは「4バックは変えない」と公言してきた指揮官にとって、サイドで数的優位を作るための苦肉の戦術にも映った。

 ここから公式戦9戦連続負けなしで勝ち点を重ねていくが、京都サンガ戦ではシュート2本のみと、玉田不在の柏戦以降、リーグ戦では攻撃の形が作れない試合が続いた。リーグ中断前の13試合で16得点。指揮官が強く求めた“真のストライカー”ダヴィが得点ランキングトップの9得点をたたき出す一方で、チーム総得点は昨年の同試合時点と比べて1得点減少、総失点は3つ増えていた。サポーター有志団体代表の関谷憲生氏も「今年は昨年に比べると楽しいと思える試合が少ないですね」と物足りなさを口にする。

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著者プロフィール

1977年9月24日香川県生まれ名古屋在住。関西学院大学文学部卒業後、2002年より在阪新聞社勤務を経て昨年10月、名古屋へ。サッカーをはじめ、プロ野球、高校野球、ビーチバレーなど幅広く活動展開。

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