ユベントス、緩んだ組織ゆえの迷走=盟主復権への厳しい道のり
緩みを招いた首脳陣の無能
ここである地方クラブの逸話を紹介しよう。前シーズンで見事な活躍を披露し、意気揚々と来季の年俸増を直訴した選手がいた。その彼を某GMは体よく自室に招き入れると、ドアを閉め一通りの話を聞いた後、いきなり選手の顔と身体を壁に押し付けて「おとなしくしていろ。さもなければ来季以降のお前に行き場はないと思え」と脅しにかかった。GMはこうして選手を沈黙させ、年俸増、すなわちクラブの支出拡大を防いでいる……。これがイタリアのクラブの多くに見る“常識”である。その意味では、モッジのようなGMの存在は逆説的に不可欠とも言える。しかし、こうした人物は現在のユベントス内部には見当たらない。
つい先ごろ、モッジ自らが次のように語っている。
「われわれが幹部として組織を束ねていた当時、交代に不満の態度を少なからず表すことはあったとしても、そのネタがみすみすメディアの餌食にされてしまうような事態は一度としてなかった。当時のユーべには厳格な掟(おきて)があり、それに歯向かう者はクラブを去らざるを得ないという事実を誰もが理解していたからだ。常勝と言われたかつてのユーベには、そう言われるだけの明確な理由があった。常に激しい競争に身を置き、起用に多少の不満があろうとも上の指示に従順であり続ける。これを犯す者は即座にクラブを追われていったのだ。
例えば98年、後のジダンと同じように(01年に約100億円でレアル・マドリーに売却)、われわれは最も市場価値が高いときにデルピエロを放出することができた。無論、当時のユーベ首脳陣がそれを決めていれば、今日のデルピエロはない。クラブ組織とはそういうものだ。サッカー史に名を残すという仕事は、優れた首脳体制なくして成し得ないということだ」
ファンの大半はモッジ復活を熱望している
昨季終了直後に取りざたされた監督候補が、もう1人の若手指揮官アントニオ・コンテというのも同様の理由だ。こちらも現役時代のほとんどをユベントスで過ごし、クラブとは深い関係にある。要するに、現首脳陣はクラブの勝手を知った監督にすべてを任せてしまおうと考えているのだ。これでは自ら組織統率の能力がないと言っているようなものである。
ここイタリアは、純粋な技術論だけで勝てるようなピュアな世界ではない。それを知り尽くすからこそ、かつてモッジはあらゆる手を使って、選手、勝利をつかみ、そこで得た資金を糧に次なる戦略を遂行してきた。その裏社会の事実が何者かの手によって見事なまでに暴き出され、現在はユベントスに代わってインテルが国内で圧倒的優位を誇る。
モッジが失脚した直後、現体制に刷新された06年の夏、イブラヒモビッチはわずか28億円でインテルに奪われ(ユベントスが得た売却益は12億円にとどまる)、そのFWは今、当時の5倍近い市場価値を持つ。移籍市場での経験不足を露呈した形となったが、それは3年を経た今夏も大して変わらない。新監督を決める以前にジエゴの獲得を決め、DFの補強には9月に36歳になるファビオ・カンナバーロを呼び戻した。ネドベドが退団を表明し、デルピエロが間もなくキャリアを終えようかとしているにもかかわらず、しかるべき世代交代の策を打ち出すことすらできずにいる。
盟主復権を目指すも、この緩んだ組織ではなおもユベントスの迷走は続くと予想せざるを得ない。ファンの大半がモッジ復活を熱望しているというのが紛れもない実情だ。
<了>